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25.夏休み

「恙無く過ごしている。君もよく食べよく眠り、体に気をつけて…ね」


 とりあえずのところ、私とエドワーズ様は手紙のやり取りでお互いの近況を報告し合っている。

 彼は想像以上に筆まめだった。

 私が手紙を出すと、どういうわけか次の日には返事が届く。

 …この国の郵便事情はいつの間にこんなに発展したのか。


 結局2回目の第二土曜日は、彼の体調と、二日休みを取った関係で都合がつかなくなり、第四土曜日へと延期になった。

 物凄く折り目正しい詫び状が、物凄く高そうな便箋で届いた。


 私はというと、長い夏休みをどう過ごそうか…いや、働く以外に選択肢はないけれど、何の短期アルバイトをしようか、求人の紙束と睨めっこをしていた。


「…海水浴場…は無理ね。通えないわ。ビアホール……レストランの二の舞は避けたいところよねぇ……」

 バカンスシーズンのこの時期はいつもより沢山の仕事がある。けれども、昼間だけとなると数はぐっと少なくなるものだ。

「パン屋とシンシアさんの家庭教師の合い間にできて、お化粧もしなくていいところ…。制服支給……あら、掃除婦?」

 ふと目に止まったのは、書き入れ時のホテルの清掃の仕事。

「1日4時間から可で10時から…制服支給。まあ、なんて条件がいいの!…時給は…まあこんなものよね。場所はここから歩いて15分!なんて事!これは運命だわ!」

 こうしてはいられない。条件のいい仕事は早いもの勝ちだ。

 私はそそくさと机の引き出しから履歴書を取り出し、もはや書き慣れた項目を埋めていく。


 本来なら郵送して返事を待つものだが、仕事探しのベテランともなるとそんな郵送料の無駄なことはしない。

「ではさっそく…」

 動きやすい服と靴で屋敷を出る。

 外は夏の始まりを感じさせる爽やかな陽気だ。

「15分なんて鼻歌2曲ね。さ、行きましょう!」


 充実した夏休みになりそうな予感に、この時の私はただ軽快に目的地へと歩みを進めたのだった。






 人生唯一の汚点とも言えるパジャマ事件から2週間、仕事は多忙を極めていた。

 クレア嬢からの繋ぎのおかげで順調に進むカーソン家との関係構築に比べ、今年叙爵される他家への工作は、思いの外神経を擦り減らす展開となっているためだ。

 そして神経を擦り減らして戻る先には…漏れなくコイツがいる。


「おうルーカス戻ったか。例の内偵先はどうだったよ」

「…普通だ」

「お〜い、そろそろ機嫌直せって。もう2週間だぞ?」

「いつも通りだ」

 そう、コイツだ。全ての元凶であり、私の人生を勝手に安っぽい喜劇に書き換えようとする忌まわしい男が。

「何だよ、結局あの子と丸く収まったならいいじゃないか」

 まるくおさまった…?

 コイツは…よくもそんな台詞がしゃあしゃあと出て来るものだ。

 人がどれ程の羞恥心と折り合いをつけて過ごしていると思っている。

 それもこれもお前のせいだろうが!

「ま、いいや。とりあえず報告しとくな。アイツ隣国の内偵捜査から帰ったって。そのうち…」

 こいつには悪びれるとか申し訳ないとか、そういった情緒は無いのか。

 そして…アイツ…とは、まさか……。


ガチャッ!

「あ、二人ともいた!久しぶりね。ルーカス相変わらずの仏頂面。それすらも懐かしいわ。ザックも元気だった?」


 気の強そうな喋り方、気の強そうな扉の開閉音……。

 チラッと執務室の入り口の方を見る。

「…ソフィア……やはりか」

「やはりって何よ」

 …やはり気の強そうな顔と気の強そうな直毛だ。

「おーソフィア、久しぶりだなぁ。お帰りー。お、ちょっとは大人っぽくなったか?」

「ザックただいま!失礼ね。私は前からずっとレディでしょって、ちょっとルーカス、久々に会った同期にかける言葉はないわけ?」

「無い」

「はあっ?」

 強いて言うならば、うるさい。 

「ああダメダメ、こいつご機嫌斜めだから。それよりソフィア、隣国どうだった?」

「まあまあね!詳しくは後で話すけど……」


 うるさい二人を無視して、書類が山積みになった自分の執務机へと向かう。

 これから書き上げるべき報告書を前に、同期の帰国などどうでもいい。

 発熱などという情け無い事態のせいで仕事は溜まりに溜まっている。


 それにしてもザックとソフィアが揃う…。

 その意味は私にとって一つしか無い。

 もはや執務室に静寂は無くなるということのみだ。

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