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19.その日

「だからさー、君が一番勉強しなきゃならないのに何で呑気に料理なんて作ってるわけ?」

「ケータリングでも何でも頼めば良かっただろう」

 り、理不尽だわ…。よかれと思って昼食の準備をしただけなのに。

 

 休むことなく試験勉強を続けるオリバーと、それに細かく指導を挟むエドワーズ様に昼食の声をかけた結果、返ってきたのが先ほどの台詞。

「でもこのピザおいしいね。さすがパン屋で働いてるだけあるよ」

「パン屋でピザも出すのか?最近は何でもありなんだな」

 何だかんだと小言を言われながらも、あっという間に皿から消えていくピザを眺める。

 まぁ、彼らの胃袋が満たされたならそれでいい。


「そうそう、二人に渡さなきゃならないものがあった」

 食事の途中でオリバーが思い出したように胸ポケットから一通の手紙を取り出す。

「まだ少し先なんだけど、例の叙爵の件で一応御祝いのパーティーやるんだよね」

「ああ…今年は君のところだったな。…ご苦労様」

 エドワーズ様はそれもすでに知っている…と。

「それで、よかったら二人で来てよ」

 ………はい?

「母さんがベゼルを誘えってうるさくて。どうせドレスの着せ替えをやりたいだけなんだろうけど」

 …私とエドワーズ様が一緒にパーティーに?

 それは…無理な相談だわ。


「あの、オリバー?…私はパーティーには…」

「服の事なら気にする必要ないよ?さっきも言ったけど…」

「いえ、そうではないの。せっかくお誘い頂いたのにごめんなさい。…パーティーには行けないわ」

「ベゼル…?」

 オリバーに頭を下げる。

「御祝いは別の形でさせて頂くわ。本当にごめんなさい」

 彼とパーティー会場を一緒に歩くわけにはいかないでしょう?

 これが正解よね?そう思いつつ、食卓の対角線上に座るエドワーズ様の顔を盗み見る。

「……………。」

 そこには真顔で何かを考え込むエドワーズ様がいた。


「…いや、私は都合を付けようと思う。招待状を頂いても?」

 彼から出て来たのは理解し難い応諾の言葉。

「え、ええ、もちろん。うちの両親も喜ぶと思います」

「エドワーズ様…?」

「滅多にない祝いの席を無碍に断るものじゃない。…後で話そう」

「……はい」

「あー…よかったよかった!あ、僕もう一枚ピザもーらお」

 どうしましょう…。すごく変な空気にしてしまったわ…。



 結局その日は、この微妙な雰囲気を払拭できないまま夕方となり、オリバーは普段以上に明るく振る舞いながら帰って行った。

 彼には本当に申し訳無いことをしてしまった。

 一方屋敷に残ったまま、一向に出て行く様子が無いエドワーズ様。

 …後で、は今からということね。

「…クレア嬢、話をさせてもらえないか」

 ……正解ね。

「わかりました。応接でよろしいでしょうか」

 静かに頷く彼を伴い、夕陽で橙色に染まる応接室へと入る。

「…おかけ下さい」

「ああ」


 朝彼を見た時は、今日の終わりがこんなに重苦しくなるなんて思いもしなかった。

 それもこれも…私の心が揺らぐから。

 頭と心の均衡が崩れているからだわ…。


「クレア嬢、君が何を考えているのかは理解している。…それについては何も言い訳するつもりは無い」

「でしたらどうして……」

「オリバー君は君の親友だろう?その彼の家にとって一生に一度あるか無いかの祝いに君が行かないなんて…」

 オリバーのため…?

「…でしたら、オリバーからの招待じゃなければお受けにならなかったのでしょう?」

「…そうは言ってない。この先もこうして色々な招待を受ける。その時は…」

「…その時は何ですの?まさか私と一緒に参加すると?」

「クレア嬢…」

 

 落ち着いて、落ち着くの。いつものように振る舞うの。


「私たちはお互いに都合がいいから結婚する。私からの条件は申し上げた通りです。あなたもそれでいいとおっしゃった」

「…ああ、そうだな」

「私はあなたに愛人がいようが恋人がいようが構わない」

「………ああ」

「…でしたら当初の条件通りにして下さい」

「公式の場ではそうもいかないだろう?私は……」


 公式の場……?

「公式の場って…何ですの?」

「それは…」

「公式とそうじゃない時の違いは何?」

「クレア嬢…?」


 だめよ、だめ。落ち着くの。言ってはだめ、言っても何も…


「私に父と母のようになれとおっしゃるんですか?公式って何よ!!子どもを育てる事は公式ではないというの!?」

「ク…レア…嬢…?」

「どうせ明確に分ける事なんて出来ないでしょう!だったら最初から…最初から……」

 

 ああもう…最悪な日にしてしまった。

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