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17.勉強会②

「要するに、クレア嬢は卒業が目的。大学院への進学は考えていない」

「え、ええ。正直大学より上への進学は無理ですわ」

「ふむ…」

 キラリと光る眼鏡姿のエドワーズ様が、真面目に何かしらを分析している。

「…ちなみに卒業後については…いや、これはまた今度にしよう」

「え、ええ」

 卒業後なんて……私、何してるのかしら。

 就職は絶対だとして、どこかに仕事口があるのかしら。20歳を超えた女性はなかなか雇い口が無いとも聞くけれど……。


「オリバー君は?かなりの数の授業を取っていると聞いたが」

「ああ、僕は親の反対を押し切って法学部に入ったんで、経営学部の授業も取れる分は取ってるだけです」

「ああ…なるほど。つまりは必修単位を押さえれば卒業単位は自ずと揃う…か。ふむ。ちなみに卒業後は?」

「…興味のある分野はあるんですけど、おそらく親の仕事を手伝う事になると思います」

「…そうか」

 オリバーとは2年近くの付き合いだけど、こういった話は聞いた事がなかったわ。

 色々考えてるのね。

「わかった。クレア嬢はとりあえず全科目〝可〟を目指す。オリバー君はめりはりをつけて、必修科目は圧倒的〝優〟を取ろう。……この分野でやりたい事があるならば、道は残しておく方がいい」

「「はい!」」


 書斎の大きなローテーブルに所狭しと並べられた試験対策集。私はその中から過去問を与えられ、丸覚えするようにという指示を受けた。

 …否やは無い。むしろこれ以上の対策は私には無い。

 オリバーと何やら難しい話をするエドワーズ様の眼鏡姿の横顔をチラッと盗み見る。

 数年分の過去問…。集めるだけでも大変なのに、手書きできっちりと答案が埋めてある。

 仕事の合間に2日間でこれを?家で食事をする時間も無いのに?

 ……彼はどうしてここまでしてくれるのかしら。

 婚約者ってそこまでしてもらえる存在なのかしら。だとしたら私は色々と軽く考え過ぎているのかもしれないわ。


「…クレア嬢、どこかわからない所が?」

 眼鏡越しに彼の灰色の瞳と目が合う。

「…いいえ。こんなに準備するのは大変だっただろうと思って感動しておりましたの。きっと寝る時間もなかったのではと……」

 オリバーがハッと顔を上げる。

「…君が気にする必要は無い。私がそうしたいからしたまでの事。正直、一度やり出すと中途半端にする事が出来なくて、そこは私の融通の利かなさ故だ」

「……本当に、ありがとうございます。私、頑張ります」

「ああ…ほどほどにな。少し赤みがさすくらいの方がいい」

「え?」

「あー…いや、こちらの話だ」

 なに…かしら?


「…僕、やっぱりお邪魔でしたかね?」 

 オリバーがまたボソリと呟く。

「え?今の会話ちゃんと聞いてた?誰もそんな事一言も…」

「…ちゃんと聞いた結果なんだけど」

「ええっ?」

「はは、オリバー君、気にしないでくれ。どうやら一方通行らしい」

「…エドワーズさんも苦労しますね」

 二人の会話がよくわからないわ。頭のいい人たちっていつもこんな感じなのよね。

 一方通行って何なのかしら。どこに行くのかしら。

 

 …駄目ね。私昔から人の考えを読むのは苦手なのよ。

 考えても無駄なことは考えないの。…そうやって今まで生きて来たんだもの。今さら無理だわ。

 目の前にあるものを見るだけで精一杯。

 そうよ、今はこの過去問を記憶するのよ。


 それからの私はあらゆる雑念を払い、とりあえず1時間は無言で集中したように思う。

 ふと気づけば、エドワーズ様とオリバーがまたもや難しい話で盛り上がっている。

 …エドワーズ様はすっかりオリバーの指導に熱が入っているわね。オリバーも楽しそう。

 きっと同じレベルの会話ができて嬉しいのね。

 

 二人の楽しそうな姿を横目に、私はそっと席を立つ。

 そろそろお昼の準備をしなくては。

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