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16.勉強会

「ベゼル、本当に良かったのかな。今さらながらやっぱりおかしいんじゃないかと思って……」

「何言ってるのよオリバー。先方がいいって言ってるわけだし、実際助かるじゃない?」

「それはまぁ…そうなんだけど」


 約束の第二土曜日の朝10時、少し早目に屋敷へとやって来たオリバーと二人で玄関ホールで彼を待っている。

 ルーカス・エドワーズ氏を。

「…御礼の品、お酒とかの方がよかったかな…」

「どうかしら。お仕事で多忙そうだし、お酒を飲む暇も無さそうだけれど」

 …実際の所はよく知らないけれど。

 そんな何気ない会話を交わすこと数分、玄関の呼び鈴が鳴る。


リンゴーン…

「はい!いらっしゃいませ、まあ、エドワーズ様……?」

「ああ、おはようクレア嬢。…すまない、遅くなったか?」

「い、いえ、そのようなことは…」

「…どうした、クレア嬢」

 なんということかしら……。前回の下ろし髪に続いてまさかこのような隠し技を使ってくるなんて…!

 なんて素敵な眼鏡姿なの…!?

「…クレア嬢?」

「…えっ?あ、いえ、エドワーズ様、目が…お悪いの?」

「いや、それほどでも無いのだが、寝不足が続くとぼやけてきて……」

 寝不足…!眼鏡姿に盛り上がってる場合ではなかったわ。

「申し訳ございません。私、無理させてしまったのでは…」

「いや、そんな事は無い。それより、後ろの……」


 エドワーズ氏の目線に促され、後ろを振り向く。

「…ベゼル、頼むよ」

 そこには困り顔のオリバーが…。

「あ!ごめんなさい!」

 慌てて双方の紹介をする。

「ええと、オリバー、こちらがルーカス・エドワーズ様。…ええと、こ、婚約者の。そしてエドワーズ様、こちらがこの間お話した、オリバー・カーソン。大学の友人ですわ」

「…ルーカス・エドワーズだ。よろしく、オリバー君」

「オリバー・カーソンです。こちらこそよろしくお願いします、エドワーズさん」

 二人がしっかりと握手を交わす。

 何となく不思議な光景だわ…。私の細切れな人生が繋がるような…不思議な光景。


「ちょっとベゼル!さっきから何をぼんやりしてるんだよ。…間に入ってくれないと困るだろ?」

「あ、ごめんなさい。すぐにご案内しますね。今日は書斎を使おうと思いますの。大きな机があって……」

 しっかりしなきゃ!いくら眼鏡姿に意表を突かれたからって、目的を見失ってはいけないわ…!


 玄関ホールを抜けて、滅多に使わない書斎の扉を開く。掃除は昨日のうちに済ませたけれど、やっぱり少し埃っぽいかしら。

「うわぁ!すごい本の数!」

 扉を入って来たオリバーが嘆息する。

「確かに。これは…お父上の?」

「ええ。何が貴重な本なのかわからなくて、処分に困ってますの」

 実際問題、三方の壁一面を天井までギッシリと埋めた本を、どうやって整理すべきかは頭が痛いところだ。

 …埃っぽいのもこの本たちのせいだと言える。

「処分なんてもったいないな…。今度ゆっくり見せてもらっても?これなんてドボルエステキーの初版本じゃないか」

「ドボ……ええ、あのエドワーズ様がよければいつでもいらっしゃって下さい」

「…いつでも?」

「え?ええ」

 その方が本も喜ぶでしょうし。


「…なんか、やっぱり僕お邪魔なんじゃ……」

 オリバーがボソリと呟く。

 その呟きを拾って、エドワーズ氏がオリバーの元へと向かう。

「いやいやオリバー君、君がいてくれて心強いよ」

「どういう事ですか?」

「…コソ…私一人では正直彼女に全単位取らせる自信がない」

「コソ…ああ、はっきり言ってゼロからのスタートだと思って頂いていいと思います」

「…コソコソ…ゼロまでは来ている、と」

「…コソ、一部はマイナスですね」

「やはりか……」

 最初と最後しか聞き取れなかったが、おそらく、絶対に私の陰口を言っている。

 …だいたいの想像はつくけれど。


「もう!二人とも仲良く私をダシにしてないで、さっさと始めましょう!」

 少し唇を尖らせて二人に文句を言う。

「あ、ベゼルが怒ってる!うわ〜珍しいもの見た!」

「へぇ、クレア嬢もそういう若者らしい顔ができるんだな」

「…どういう意味でしょう?」

「「怖い……」」


 笑顔が怖いってどういうことよ。

 こうなったら二人の知恵を根こそぎ奪ってやるんだから!

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