14.夕食
「…うまい」
「…それはお世辞にも程があります。どう見ても焦げてます」
なぜかその場の流れで夕食をともにする私たち。
シンシアさんがオリバーに持たせてくれた大量の小麦粉で不揃いなマカロニを作り、目分量で微妙なホワイトソースを作り、適当な野菜を入れてオーブンに放置したグラタン。
「…パンはプロが作ったものなので、よければ……」
ツツツ……とテーブルの上のパン籠を彼の元に滑らせる。
「いや、温かい料理を食べることが滅多にないから、こちらをいただく」
「え?いつも料理人が作った食事を召し上がるのでは?」
「大学時代は寮生活で、今は官舎暮らしだ。…とは言え、そこにも寝に帰るだけのような生活だがな。はっきり言って、家で座ってまともな食事をした記憶はここ数年無い」
「まあ……!」
なんて奇遇な…。
「それでしたら、余計にもっと上手に出来たものを召し上がって頂きたかったですわ」
「…君は普段から料理を?」
「そんな事する暇があれば働きますわねぇ」
「ああ……」
「…父が生きていた頃は、なぜか父の食事だけは私が作りましたの。父はすごく変わり者で……他人の作ったものをあまり口にしたがらなかったので」
不思議なほどに、警戒心が強くて…
「…だからいつも………」
ほとんど帰らない父のために毎日食事を作ったのよね…。
「…時間もできて、オリバーに小麦粉も貰えて、本当に久しぶりの料理で……」
黙って私の話を聞いていたエドワーズ氏の眉がピクッと動く。
「オリバー……?」
「ええ、オリバーです。私の大学での唯一の友人で、髪の毛がクルクルしてて、すごく可愛いんですよ」
「クルクル……」
「ええ。私オリバーが大好きなんです。歳は一つしか違わないのにしっかりしてて、落ちこぼれの私を助けてくれますし、何より顔がいいですわ」
「大好きで…顔がいい」
「ええ!」
そこから私は語りに語った。
オリバーがいかに人格者であるか、公平であるか、優秀であるかを熱弁した。
「…それで、昨日はオリバーのお母さまを紹介して頂いたんです」
「………は?」
何とも微妙そうな顔で私の話を聞いていたエドワーズ氏の声に、明らかな苛立ちが宿る。
…しゃべり過ぎたかしら。
「ええと、エドワーズ様もご存知かもしれないですわね」
「…私が」
「え、ええ。シンシア・カーソン夫人です。……ご存知では?」
彼は目の奥できっと分厚い名簿でもめくっているのだろう。目を閉じて記憶を辿る素振りを見せる。
「カーソン商会の…会頭夫人」
「ええ、そのカーソン夫人です。私、夫人の家庭教師の仕事を紹介して頂いたんです。お仕事を頂けただけでももったいない事なのに、昨日なんて沢山の小麦粉も持たせて頂いて…」
「大商会の会頭の車…あぁ、なるほど……」
「え?」
「オリバーとは友人」
「ええ!」
「大好きで顔がいいけど、友人」
「え、ええ」
「……ならばいい」
「え?」
黙々と残りのグラタンを食べるエドワーズ氏。
…何かしら。何を許されたのかしら。
私何か許可を求めたかしら…。
「それより、他人の教師をする前に君の方はどうなんだ」
不意にエドワーズ氏が口を開く。
「え?」
「単位がかかった試験前だろう。大丈夫なのか?」
単位…試験…?
「…………あー!っと失礼、つい大声を…」
すっかり忘れてたわ!
私仕事のことに気を取られて…全く…全く試験対策をやってない!!
「…はぁ。その調子だと卒業までに5、6年かかりそうだな」
5……6年……?
「だ、だめよ!絶対にだめ!…ええと…だめですわ!そんなお金の無駄、許されない!!」
恐ろしい…!考えただけで鳥肌が…!
エドワーズ氏がスッと立ち上がる。
「ならば、しあさっては試験対策だな」
「しあさって?」
「今日は突然申し訳なかった。夕食も。…ご馳走様」
「え、あ、いえ、お粗末様でした」
「明日の朝までに試験科目と範囲を纏めておくように」
「え?」
「パン屋に取りに行く。…そろそろ仕事に戻らねば。失礼する」
「は、あ」
玄関で彼の背中を見送りながら思った。
…今日のこの時間は、月に一度の面会に入らないのね、と。




