表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
131/161

131.商会一致団結

「商売の基本は、迅速な対応ですわ!全量検査なんてとんでもない。私どもは反対です」

 宴会場に拍手が鳴り響く。

「お待ちになって。商売の基本は安全・安心ですわ。昔とは事情が違います。他国からの輸入品を検査するのは当然の事ですわ」

 これまた宴会場に拍手が鳴り響く。


 シンシアさんの言った通り、今日一番紛糾している議案は、輸入品に対する保安検査の強化だった。

 これについては国内で最大の貿易港を持つアバロン州の商会も他人事では無い。

 全量検査などという手間をかければ港は荷上げ待ちの船で溢れてしまうし、かと言って適当な対応で危険物を国内に入れてしまえば、責任問題にもなりかねない。

 実際に先だってのアンダーソン商会の武器の密輸に関して言えば、陸路と内海を通って運ばれた荷だったからこそアバロンの港はお咎めが無かっただけの事。

 今回の議案は、陸路と内海のトラウトとの国境も含めて検査を強化すべきという内容になっている。


「…クレア様」

 ヒソヒソとロジャーズ商会のメイベル夫人が私に話しかける。

「…ここが正念場ですね。いかが思われます?」

 確かに正念場なのだろう。

 事実として、トラウトから入って来る薬物は、静かにこの国を蝕んでいる。

 ルーカス様が追いかけているのは間違いなくこの件だ。

「…0か100かの議論では埒があきませんわね。もう少し効率的な案を提示するべきかと思います」

 ウィルキンソン商会のデボラ夫人もヒソヒソ話に加わる。

「…効率的、ですか」


 効率的といえばルーカス様のクローゼットね。色順、形順に綺麗に並んだあの不思議な…。

 そう言えば、下着は何順に並んでいたのかしら。恥ずかしくてちゃんと見るのは無理だったのよ。

 ルーカス様は絶対に勘違いされているけれど、さすがにあの日下着の交換までは…。

 わたくしあの時は男の人と手を繋いだ事さえ無い、純情な乙女で………あ。


「…ヒソ、わたくし今、とても気になることを思い出しましたわ」

「…なになに?面白い話?」

 シンシアさんもヒソヒソ話に加わって来た。

「…あの、勝負下着って、何ですの?」

「は?」「はい?」「はーっ!?」

 三者三様に目がまん丸になっている。

「…雑誌に書いてあったのですわ。同じ下着でも分類が違うのかしらと不思議に思いましたの。…何の勝負をするのです?」

 …あら?皆さま心なしか白目に……。

「あー……クレアちゃん、それは後で教えてあげるわ。今はそれどころじゃ……あ!なるほど、そういう事ね!」

「カ、カーソン夫人、今の会話のどこに〝なるほど〟の要素がございましたの?…クレア様がおかしくなられたのかと……」

「ロジャーズ夫人、クレアちゃんは分類の話をしているのですわ。…ヒソヒソ…同じ下着でも、一軍から三軍までございますでしょ?」

「「……なるほど」」


 ご夫人方は何事かをヒソヒソと話し合っている。

 …私はまたおかしな事を言ったのね。


「…では、ここは私が」

 コホン、と咳払いをして、デボラ夫人が立ち上がる。

「私どもは、諸外国を3通りに分類する事をご提案しますわ」

 会場がざわざわと騒がしくなる。

「…保安検査の強化は喫緊の課題。ですが全量検査は非現実的な事だとも承知しております。ですので、貿易相手国を、仮にAからCに分類いたします。例えば最近疫病が流行している国などはCに分類いたしまして、輸入農作物に対して厳しく検疫を実施する…。同様に政情不安定な国や、我が国に過去に害をもたらした国などもBやCに分類する。分類ごとに保安検査の質や量を変える…というのはいかがでしょう」


 デボラさんが長台詞を淀みなく述べた後、会場は水を打ったように静まり返った。

 …デボラ夫人は頭のいい方なのね。立ち姿も凛としていて素敵だわ。

 メイベル夫人には微笑みながらも有無を言わさぬ圧力があるし……。

 などとご夫人方を観察していた時だった。


 …パチ、パチ、パチ………

 まばらな拍手が鳴り出したかと思えば、会場が一気に雷のような喝采に包まれる。

「いい案ですわね」「素晴らしい考えですわ」

 方々から次々に賛辞が飛ぶ。

「…ご静粛に!それではウィルキンソン商会デボラ夫人の案に賛同する方は挙手を!」

 会場中で右手が挙がる。

 この日初めて、東軍と西軍が一致団結した瞬間だった。

 


「…終わったわー!クレアちゃんありがとう!…勝負下着の件は今度ゆっくりね」

 シンシアさんに囁かれながら、曖昧に微笑み返す。

 ロビーではベゼル公爵家に繋がる商会のご夫人方がにこやかに私を待っていた。

 …何をしたかと言われれば何もしていないのだけど、いい経験になったわ。

 一枚岩では無い組織を纏めるというのは、知恵と工夫が必要なのね。


 今後の糧にさせてもらおう、そう思ってロビー後方のエレベーター辺りに目をやった時だった。

 会いたくて仕方がない、あの黒髪が目に入る。

「!!…ルーカス…様………?」

 叫ぼうとした声が急速に萎む。

 彼の隣に、見た事の無い女性が立っていたから。

 

 大成功と言えた婦人会総会。

 でも私は、その日どうやって公爵邸に帰ったのかの記憶すらない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ