130.婦人会総会
「ごめんなさいね、クレアちゃん。本当ならあなたに頼むことじゃないのだけど……」
「まぁ、気にされることありませんわ。私とシンシアさんの仲ではありませんか。それに総会なんてドキドキしますわ!」
オリバーから紹介されたアルバイトは、何となくシンシアさん絡みだろうなと思っていた。
その予感は見事に的中し、私はすごく面白い仕事に携わっている。
あれからルーカス様からは私宛に何の音沙汰も無い。不安と焦燥に駆られる気持ちが無い訳ではないが、おそらく私への指示はオリバー経由で届けられているのだろうと思い直す事にした。
だって今日向かう場所は、あの、ホテル・カペリンなのだから……。
「…オリバーもセドリックも薄情なのよ。私にも顧問を付けてくれてもいいと思わない?」
「いいえ、きっとシンシアさんの直感力が必要なのですわ。一人で仕事を任されるなんて素敵です!」
「素敵ぃ?あの二人はご婦人方に関わるのが面倒なのよ」
そう、私とシンシアさんが向かっているのは、カペリンで開催される商会関係者の女性が集う婦人会の総会なのだ。
婦人会とは言え、ほとんどの場合商会から誰かが同伴するらしく、シンシアさんのように一人での参加は珍しい事らしい。
……それだけカーソン商会は忙しいという事だろう。
「…大丈夫ですわ。私たちには心強い味方がおりますもの」
そう言いながら並走する2台の車と、後ろに続く車列をミラー越しに見る。
「クレアちゃんて、凄い所の御令嬢だったのねぇ」
「…たまたまご紹介頂いたのですわ」
私がシンシアさんと一緒に総会に出席するとエイダに告げたところ、まぁ集まるわ集まるわ、ロジャーズ商会会頭夫人、ウィルキンソン商会会頭夫人を筆頭に、アバロン州に本社を置く商会の女性陣が勢揃いしたのである。
…全員がベゼル公爵家の家臣だというのだから、驚きを通り越してもはや恐怖である。
「毎年この総会では一悶着あるのよねぇ。去年はアンダーソン商会のタングル支社の設立を認めるかどうかで揉めたのよ。…ほら、奥様の意向って強いでしょう?商会会頭とは言え無視は出来ないの」
「ああ…なるほど。今年の懸案事項は何ですの?」
「今年は……輸入品の保安検査の強化かしら。一応婦人会の意向を纏めて、国に陳情を出したりするの」
何と、そんなに政治的なことを行っていたとは…。
「…これがねぇ、賛成か反対か、挙手制なのよ。反対意見の商会とはこの先一年バチバチよぉ!」
「ま、まぁ…。それは確かに緊張しますわね…」
「…去年も一昨年もその前もず〜っとモリソン商会とは正反対の意見でね。それでも笑い話で済んでたんだけど、この間みたいな事があったでしょう?…私の右手で従業員を路頭に迷わすわけにはいかないのよ…!」
シンシアさん、普段は我が道を突っ走っているように見えるけれど、ちゃんと立派な会頭夫人なのだわ…。
「シンシアさん、後ろにはロジャーズ商会もウィルキンソン商会も控えておりますわ。遠慮なく助けて頂きましょう?それに私、今日はシンシアさんの秘書ですわ。小難しくてつまらない話はお任せくださいな」
だてに灰色の引っ詰め髪なわけではない。
「…クレアちゃん…!!」
ガッと両手を掴まれ、瞳をうるうるさせるシンシアさんを何とか奮い立たせ、私たちはホテル・カペリンへと乗り込んだのだった。
ホテル・カペリンの大宴会場。
中央には色とりどりの食事と飲み物。
並べられた数十の円卓には大振りの花瓶が置かれ、ご婦人方の集まりに相応しい華々しい装飾となっている。
しかしこの雰囲気はあくまでも見かけだけのもので、内実は女性同士の腹の探り合い、そして敵味方を瞬時に判断する戦場であった。
一通りの挨拶合戦が終わり、ハッと見渡せば、円卓に座る女性陣は東軍と西軍に別れていた。
進行役の女性が議案の決を採るたびに、東と西が真っ二つに割れる。
そして「挙手を」の声が掛かるたびに西軍がなぜかシンシアさんを見る。
……甘かったわ。
正直なところ、ロジャーズ商会会頭夫人のメイベルさんとウィルキンソン商会会頭夫人のデボラさんの後ろに引っ付いていればいいと思ったのよ。
なのに……
「ク、クレアちゃん…何か変だわ!私、物凄い視線を感じるもの…!」
両陣営をじっくり見渡せば、なるほど、オリバーが作ってくれた相関図がまざまざと浮かび上がって来る。
5つのピラミッドの頂点の家は、レアード、マクミラン、エドワーズ、ベゼルそして…モリソン商会が属していたドノヴァン侯爵家だ。
レアード公爵のピラミッドとは敵対すると思っていた。だが、予想以上にこのドノヴァン侯爵家を頂点とする商会が曲者だった。新旧の商会が入り乱れ、とにかく裾野が広い。
…ルーカス様は私に何を求めているのかしら。
彼が私をここに寄越したのならば、それはベゼルとエドワーズの力を使って、何かを為して欲しいという事。
少し、思案が必要ね…。




