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129.祈りの期間

「第一から第三隊は離宮の警備、混合隊はカルロス殿の指揮でクレアの屋敷へ。ザックはここで情報の取り纏めを」

「「はっ!」」

「おうよ!」

「私も異論はありませんが、ルーカス殿、あの男はクレア様の屋敷に現れる……間違いありませんか?」

「ほぼ間違いないと思います。ベゼル家への一連の事件、実行犯は間違いなくソフィアの兄。…カーソン家の船上パーティーの件といい、ヤツが現れるならクレアの所だ」


 陛下の離宮での療養の記事が出たその日、私たちは行動に移った。

 作戦内容は至極単純。相手が動きやすいように場を整える事。

 その為に必要なのは、クレアと王子の関係を印象付ける事と、……私との破局を確信させる事。

 私たちはレアード公爵の前で婚約者同士として挨拶をした。

 だからこれは避けては通れないのだが……


「ルーカス、大丈夫だって。相手はベゼルの工作員たちだぞ?気楽に行け」

「…ああ」

「ルーカス殿、全員幼い頃よりベゼル家に忠誠を誓って参りました。クレア様の意に沿わぬ事はいたしません」

「…ええ」


 エドワーズ侯爵邸に集められたのは、数人の令嬢…姿のベゼルの女工作員。カルロス殿の部下だという彼女達は、あの侍女達に負けずおとらず隙のない佇まいを見せる。

 エドワーズの場合、女性の戦闘員はほぼいない。いるのは間諜ぐらいなものか。

 やはり末恐ろしい家だ……。


「では、こちらも取り掛かりますかね。…リンジー」

「…はい」

 カルロス殿に名を呼ばれ、会議室へと入ってきたリンジーという侍女の姿を見て驚いた。

「その姿……」

「ご無沙汰しております、エドワーズ侯爵。わたくし、クレア様の影を務めるリンジーでございます。…驚かれましたか?」

 瞳の色こそ違うが、髪色、立ち姿、そして…顔付きまでもがクレアにそっくりだ。

「見事なものでしょう。…いわゆる特殊メイクというものです」

「特殊…」

「そうなんですよぉ!私の顔、化粧でどうとでもなるんです〜!でもでも今回は大変で〜。クレア様が想像以上にほっそりしちゃってたから、頑張って痩せたんですよ〜!」

「リンジー、口を開くな。……中身の方は仕込の途中でして……」

「「…………。」」

 クレアのいでたちから発せられる間の抜けた声音に、ザックと二人、しばし言葉を失うのだった。



 



「臨時…休講……?」

「そうみたいだね。大学だけじゃなくて、国立の施設は全部休むみたいだ」

 

 なぜか公爵邸に用意されていた自分の服に着替えて、いつの間にか準備されていた自分の教科書を持った徹夜明けのオリバーと共に大学へと来てみれば、正門は人だかりであった。

「陛下の件かしら……」

「…おそらく。国全体で祈りの期間に入るんだろうね」

 祈りの期間…。

 要は国王陛下は危篤状態だと思われているということ。

「ベゼル、祈りの期間に入るのはあくまでも表向きの暮らしだけだ。貴族は…動き出すよ」

「…そうね」

 嵐を生き延びられるかどうかで、各貴族家にとっては進退が決まるのだから。

 

 それにしてもベゼル家はのんびりしたものね。今朝はお風呂上がりのオリバーの髪を誰が整えるかで揉めていたわ…。

 確かにあのクルクルが伸びている姿は滅多に見られないでしょうけど。

「あの…オリバー、うちのメイドがごめんなさいね。その、ルーカス様みたいになっちゃって」

「ああ、そう言えばそうだった。自分で鏡見ないから忘れてたよ。…君よりはマシだと思うけど」

「…そうね、オリバーは髪が真っ直ぐのオールバックになっただけだもの」

 なぜあの邸には髪を染めたり癖を消す薬剤などあるのか…!

 そしてなぜ私たち2人はその犠牲になったのか……。


 結局大学から邸に引き返す事になった私たちは車に揺られていた。

 今日の運転手はリーさんで、助手席にはゾーイがいる。

「大学…休みになってよかったのかも。どう考えても不自然だもの。この髪」

「…だね。さて、今日から何しようかなー。父さんの手伝いでもするかな」

「セドリックさんお忙しいのだものね」

「年末のこの時期は例年でも相当忙しいんだけど、今年はおそらく貴族達は領地に帰らない。……となると」

「…こちらで新年を迎える準備をするのね」

「そ。ついでに今年は……」

 食品流通業の看板を掲げるカーソン商会は、それはそれはこの時期忙しいだろう。

 …私は去年何をして過ごしていたかしら。


「君は今年はさすがにアルバイトはしないだろ?何だっけ、去年はレストランと催事場の売り子…だったっけ」

「そうそう!オリバーすごいわねぇ。私すっかり忘れていたわ。催事場よ、そうだったわ」

「…忘れる?どんな脳みそしてんだよ」

「しんどすぎて記憶に残ってないの。売り子ではなくて、年末年始の贈り物を発送するアルバイトで…。凄まじい量の荷物で、しかも一つ一つが重たくて。私、去年の冬に枯れ木になったんだったわ」

「…確かに。激痩せしてたね」


 一年でこうも環境が変わるなんて…などと思った時だった。オリバーから面白い申し出があったのは。

 

「あ、いい事思いついた。ベゼル、今年はうちでアルバイトしない?君にピッタリの仕事がある」

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