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128.暗号解読大会

「あ、ベゼル!…陛下どんな様子だった?」


 私が長々と陛下とお茶を飲んでいる間も、オリバーは邸内を取り仕切ってくれていた。

「オリバー…。ごめんなさいね、遅くまで引き止めてしまって。陛下はお休みになったわ。…養生して頂かないと」


 あの後の陛下の独白にも近い呟きは、悲しみに溢れていた。

 幼い頃は仲の良かった兄弟が命を奪い合う関係となった事、幼馴染だった私の父が自分を討たねばならない運命を得た事、そして、愛した女性とはついぞ結ばれなかった事…。

 全ては、自分が王になったが為に引き起こされたのだと、静かにこぼした。

 

『だが民の暮らしの安寧のためには何れも取るに足らぬ事。愚かな王にこそ出来る事がある。』

 

「…孤独だわ」

「え?」

「ピラミッドの話よ。頂上には一人しかいないのよ。たった一人しか……」

 陛下は…自らの命を取引材料に使うつもりだ。

 レアード公爵を逆賊として討ち、貴族の息の掛からない息子を王に就ける。そしてその後の王まで確定させれば国は安定する。

 …民の安寧を願う、愚直な王、だ。


「オリバー、私…陛下には長生きして頂きたいわ」

 市井にいる王子の為にも、ヨハン殿下の為にも…。

「ベゼルがそう言うなら、きっとそうなるよ」

「…オリバーって時々非科学的よね」

「ベゼルって常時計算苦手だよね」

 …今の会話のどこに数学的要素があったのかしら。



 さすがにオリバーを家に帰さなければならないと、見送りに玄関ホールまで出たところで今までに聞いたことの無いような黄色い歓声が聞こえて来た。

「きゃ〜!!リー様素敵ぃぃ!!」

「遠慮せずにもっとこちらへいらして〜!」

「い、いえ、仕事中の身ですので……」

 …なるほど、普段は影のように身を潜めているリーさんも、この邸では気配を勘付かれるのね…。

「…オリバー、リーさん大人気ね」

「君のところのメイド…ただ者じゃないね」


 玄関ホールに立ち尽くす私たちの背後に、いつの間にかエイダが立つ。

「…姫様、エドワーズの秘密を暴きますので、今しばらくお時間を」

「えっ!?」

「…あの者が使う暗号、そして伝達手段、なかなか興味深いものがあります」

「えっ!伝達手段…?」

 もしかしたらルーカス様に連絡が取れる…?

 チラリとオリバーを見ると、目がキラキラしていた。

「あんごう……!!」

「オリバー・カーソンも興味があるようですね。お前たち!広間の用意を!」

「「はいっ!」」

「ちょ、ちょっとエイダ!オリバーもキラキラしてる場合じゃ無いでしょう!シンシアさんが心配するわ!」

「ベゼル、君は分かってないね。年頃の息子が毎日家に帰ってくる方が親は心配なんだよ。…母さんが煩いのなんの」

「…そうなの?」

「そうだよ」

「話は纏まりましたね。お前たち!今夜は暗号解読大会です!優勝者には…姫様の装いを決める権利を授けます!」

「「うお〜!」」

 邸内に陛下がいらっしゃるというのに、この邸には緊張感というものは無いの…!?

 しかも何かしら、装いを決める権利って!

「……僕、優勝するのはやめとこ。とりあえずまだ死にたくないんだよね」


 私の複雑な心境をよそに、邸では夜遅くまでベゼル家とエドワーズ家の叡智を集めた暗号の解読大会が行われていた。

 はっきり言って、保安上それでいいのかは大いに疑問だった。しかしおそらくはその道のプロである皆がいいのなら構わないのだろうと理解して、私は早々に大会を離脱した。

 …正直言って、ついていけなかった。



 翌朝、私は優勝者のゾーイの希望で髪を灰色に染められた。

「…私とお揃いです」

 ゾーイは無表情ながら大層嬉しそうだったが、私は鏡に映る自分の衝撃的な姿にしばらく口がきけなかった。

「あっはっはっは!ベゼル、貴婦人の次は別人だね!」

「オ、オリバー!?あなた…帰らなかったの?」

「うん。ゾーイさんとの勝負が白熱してね。気づいたら朝だった」

「……朝だった」

「彼女すごいよ!暗号解読の英才教育受けてるんだって!」

 …これは…もしかしたらもしかするのかしら。オリバーが女性に興味を持つなんて……。

「いえ、兄が怖くて覚えただけです」

 ゾーイがオリバーにすかさず返す。

「…あの、ゾーイのお兄さまって……」

「言っておりませんでしたか?カルロス・ダンヒルです」

「…………ええーーっ!?」

 オリバーごめんなさい。

 素直に応援するには障壁が高すぎるわ……。

 それにしてもカルロスさんとゾーイ…そう言われて見ると似てる…!


「姫様、失礼します。朝刊でございます」

 遅めの朝食の場に、静々とエイダがやって来た。

「ありがとう、エイダ。あら?最近リンジーを見かけないのだけど……」

「彼女は淑女教育の受け直し中です。…姫様の雰囲気とはあまりにもかけ離れておりますから」

「…?そうなのね…?」

 雰囲気ならエイダもゾーイも違うと思うけれど…。そんな事を思いながら、手に取った新聞の一面記事に目が留まる。


『国王陛下ご容体悪化。ポラック州の離宮で療養へ。』

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