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126.仕上げへ

「…ルーカス殿、あの文章で指示は伝わるのですか?私ですら見た事の無い文字でしたが……」


 カルロス殿からベゼル伝統の鳥を使った通信手段を教わり、何度目かの試験を行ったあと先ほど公爵邸に放った伝文。

 …陛下の身柄をベゼル公爵邸に送る知らせだ。


「あれは旧グラントの古代文字です。あれを解読できるのは……まあ、どこかの調べ物好きぐらいなものでしょう」

「ほう…。偶然ベゼル邸にその調べ物好きが訪れていると。あなたも中々面白い人材を集めていますね。…そこのザック・タルボットといい……」

「ん、俺?」

 難しい顔をしながら明日の朝刊に載る予定の記事を見直しているザックが、ひょいと顔を上げる。

「…あなた、アンダーソンの一件でどれほどの情報を書き換えたのです?決して事実に辿り着けない、本当のような嘘に。…違いますか?」

 ザックがニヤリと笑う。

「そういうあなたは…あの時一つだけ調べもしなかった事があるでしょ?…クレアちゃんの本当の住所」

「フフ、ええ。…ストックブロス中央区ハリブット通り10。…聞く人が聞けば分かるが、聞いても普通は分からない。最初の住民登録の照会でこの住所を見ましてね、クレア様の居所をきちんとあなた方が把握していると理解しました」

「…俺はこの住所を尋ねて来たヤツを捕まえようと思ってたんですけどねぇ……」

 

 ザックとカルロス殿。

 お互いに腹の中を探り合ってはいるが、結局今の会話で双方ともが秘密警察に所属していると明かしあったようなものだ。

 だけど2人でも読めない文字。旧グラントの古代文字。オリバー・カーソンがそれを目にしたのは本当に偶然だったのだ。

 まさか白磁邸…カーソン邸の庭石に碑文が混じっているなどと誰が思うものか。

 そこからの彼は……ああいう人物を、天才と呼ぶのだろう。

 まあ、まさか今日のタイミングでベゼル公爵邸にいるとは思わなかったがな。彼がいなければ通常の暗号文を……


「ルーカス、お前…釘刺したんだろ」

「…なんのことだか」

「しらばっくれるな。オリバー君にわざわざ伝文出すなんて、ちゃんと見張ってるからクレアちゃんに手ぇ出すなって意味だろ?」

「馬鹿な事を言うな。より安全で漏洩しても差し支えない選択肢を…」

「はいはいはいはい。ったく子どもか、お前は」

 …そんな意図は…無い。少ししか。


「…なるほど。やはり今回の対トラウトへの仕掛けはザック・タルボット主導でしたか。おかしいと思ったのですよ。あの、ルーカス・エドワーズ侯爵が、偽情報とはいえクレア様を他人に譲るような真似をするだろうかと」

「あー…まぁ、そうっすね。本当はクレアちゃんに妊娠でもしてもらった事にしようかと…いてててててっ!ってーな!てめぇルーカス!」

「私では無い」

「はっ!?何だ!?針…?」

「…これは失礼。あまりにも不愉快な言葉が聞こえたもので……」

「………こえぇ」


 ザックの言わんとする事はわかる。

 敵が望むのはベゼルを滅し、傀儡の王を立てる事。

 それを最も効果的に覆す方法は…クレアがベゼルと王家の血統を持つ子を産む事だろう。

 ベゼルの後継も王家の後継も同時に一人ずつ増えて…

 …考えただけでも全身の血が沸騰する…!


「…話をまとめる。私たちの最終目標は、レアード公爵の捕縛、そして後ろで手を引くトラウトの黒幕を引き摺り出す事だ」

 二人が頷く。

「そのための鍵となるのが、国王陛下、クレア、そして…第一王子殿下、だ」

 カルロスが続ける。

「クレア様と陛下はベゼル公爵邸にて保護。第一王子殿下はあなたの管理下にある……という事でよろしいですか?」

「その通りです」

 ザックが大きく息を吐く。

「…偶然かどうかは知らんけど、お前の過保護っぷりも役に立つもんだなぁ。あの屋敷の借り主が王子様だもんなぁ」

「ルーカス殿、本当にあなたが意図した事では無いのですか?」

「…賃借人を厳選した事は確かです。クレアの所有物に得体の知れない人間を住まわせる訳にはいかない。…彼はおそらく王家に関わりのある人間だろうという確証はあった」


 全ては偶然が引き起こしたこと。

 クレアの屋敷を借りたいという希望者は数人いた。綿密に調査をした結果残ったのが、ある母子(おやこ)だった。

 女性一人の稼ぎで払っていけるほどあの屋敷の賃料が安くは無い事ぐらい私にもわかる。

 だが、彼女は国で最も有名な女優だった。そして彼女の連れた息子は……若かりし頃の陛下に瓜二つ。

 また面倒な事になったと思ったものだが……。


「…ここだけの話だ。あの母子(おやこ)の保護を申し出て来た人物がいる」

「え、そうなの?お前が護衛を派遣する前から?」

「ああ。…王妃殿下からな」

「…!!」

 生かさず殺さず…だが後継争いの芽を摘むためにはきちんと相手の所在を把握する…。

 あの国王を王たらしめているのは、王妃の力なのだろう。

 しかし今となっては、あの息子の存在が自分を王籍に留めるための命綱になろうとは、人生とは皮肉なものだ。

 

「…餌は撒いた。あとは……仕上げだ」

 終わらせたい。可能な限り早く。

 …彼女のいないこの邸は、とても寂しい。

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