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121.本当の狙い

 今回の5日間の出張で、私には手に入れたいものがあった。

 それを手に入れる為に、ソフィアの捕縛はこの船の上でなくてはならなかった。


「…ソフィアはケンドール伯爵の為に働いていた人間では無い。アイツは、プロの工作員だ」

 目の前で書類を読み耽るザックに告げる。

「ルーカス…お前、何でわかった。確かにこれは…この書類は、ただの薬の運び屋の仕事じゃない」

 なぜわかったか…。

「ザック、子ども時代をトラウトで暮らした人間…しかも貧しい暮らしだった人間が、あんなに流暢にタングルの言葉を話せると思うか?しかもソフィアが操るのはトラウトとタングルの言葉だけじゃない。…サーディンにスクイド……努力だけでどうにかなるレベルでは無い。幼い頃から訓練を受けている」

 自分がそうだったから分かる。

 母国語以外の言語の習得には、莫大な時間と金と手間がかかる。


「…薬以上にヤバいもんを運んでたって事か」

「ああ。…だが実際は、船の上でその書類を書き上げ、船室に残しておくのだ。そして、次にその船室を使う人間がトラウトまで運ぶ。…船の上が情報の受け渡し場所だ」

 ソフィアの渡航歴を調べる中で気づいた事。

 彼女がトラウトからタングルまで使った船室を、毎回同じ人間がタングルからトラウトまで予約する。

 …考えられる可能性は、一つだけだった。


「ルーカス…俺の訳が間違っていないか確認してくれ。ここに書かれているのはアバロン州の貴族家の家名、経営商会との交渉記録、そして…クレア・ベゼルの現状。向こうの狙いは……アバロン州って事で間違いないか?」

 私は頷く。

「…内陸国のトラウトが外洋に出る為には、タングルが…いや、実際はアバロンが必要。ザック、アバロンはベゼル公爵家が治める土地だ。…全て繋がる」

「………この一連の事件で出た死者は、ハワードさん夫妻だけだ。後は…国を弱らせているだけ。チッ胸糞悪ぃ!…国を売るって、まさにこういう事じゃねえか!」

 そう、弱らせているだけ…。

 自分が国王になる可能性のある国を、死滅させる訳にはいかないからな。


「私は往復で船に乗り、この書類を取りに来る人間を捕らえるつもりだった。…だが、急ぎ邸に戻らねばならない」

 鳥が運んでた来た赤色の花火…。あれは緊急参集の印。

 …そして2連は第二地点。クレアを移動させる時の集合場所だ。

 何かが起こっている。…激しく胸騒ぎがする。


「ルーカス、俺が誰だか忘れたみたいだな」

 ザックがやれやれといった顔をする。

「…俺が一番得意な事は何だ?」

 一番得意な…

「情報戦…」

「ああ。この書類……きっちりトラウトの親玉の所まで運んでもらえばいいじゃねえか。ちょいと中身は書き換えるけどよ」

 書き換える…。

「…だからそんな顔すんな。今にも泣きそうな…気色悪い顔。お前らしくねぇんだよ。お前はふてぶてしく、フッとかハッとか…そういうキャラだろうが」

 

 泣きそう…?

「誰が……何だと?私がいつそんな顔をした!」

「あー?お前自覚ねえの?何だっけなぁ。あ、クレアちゃんに振られそうな時、あん時も目から何か出そうだったし、アンダーソンのホテルに変装して行った帰りもウルウルしてたし?」

「……………嘘だ」

「プププ!お前、クレアちゃんいなくなったら毎日泣き暮らすんじゃねえの?あーきっも!」

 この大非常時に、余計な一言を言わずにいられない男を魚の餌にしたい…!

 と思った瞬間に、ザックの顔付きが変わる。

「ルーカス、お前はどっちが望みだ?現状維持でやり過ごすのと、敵をおびき寄せて、迎え撃つの」

「…やり過ごす気は無い。ハワード殿が亡くなってもうすぐ2年だ。……もう十分に待った」

 これ以上待つ事に何の意味がある。

「よし。んじゃ泣かずに聞け」

「…あ?」

「敵さんが虎視眈々と狙ってるのは、王家とベゼル公爵家だ。…あと、上手くいったご褒美がお前」

「…言い方は腹が立つが、現状認識としては正しいのだろう」

「…例のアレ、使えんじゃねえのか?お前がしつこくしつこく調べさせただろ?」

「……!」

「わかったんならしっかり守れよ。…確実に食いつかせるからな」

 そう言ってザックが書き換えた書類には、事実に巧妙な嘘を折り混ぜ、最後にこう記されていた。

 …破り捨てて海の藻屑にしたいような、怒りで逆に冷静になるような…大嘘が。


『クレア・ベゼルに婚姻の動きあり。相手はタングル国王に繋がる人物の模様。』


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