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118.黒髪の悪魔

 実はちょっとだけ興味があった。

 あの鉄面皮のルーカスが、どうやって貴族の令嬢を落とすのか。

 


 ルーカスとソフィアが接触した。

 俺の仕事は簡単だった。

 もぬけの空になったソフィアの部屋から、ブツを回収するだけ。

 …ソフィアはよっぽどやり慣れてたんだろうな。何の隠蔽もせず、旅行鞄に無造作に薬が詰め込まれてた。

 後は部屋の中からルーカスの指示通り何かしらの書類を拝借して終了。


 戻ってみれば何とまあ、同期同士何やら怪しい雰囲気。

 興味はあったがな、見たい訳じゃ無いんだぞ?

 おい、何だその手は!どひゃ〜!!クレアちゃんごめん!!

 …なんて思った俺が馬鹿だった。

 アイツ…ルーカスやりやがった!

 お前は鬼か!?いや、やっぱり悪魔だったんだな!?

 あの場面で…ソフィアの歯ぁ折りやがった!!



「…ぐっ……」

 ソフィアの苦悶の声が漏れる。

「…自分だけが死に場所を選べると思うな」

 ルーカスが冷たい声を投げ付ける。

 そして何の感情も見せずに、ただ淡々とソフィアに猿轡をかませ、手錠をかけた。

 

 知ってたよ、知ってた。

 仕事中のアイツは機械みたいな人間だって。

 …そうじゃ無いとやっていけない事もわかってる。

 それが正しい事も…わかってる。


「…ザック、そっちは片付いたか」

「おうよ。丸っと完了だ」

「わかった。ならこれを鑑定に出せ」

 こちらを見もせずに淡々と告げて、布に包まれたソフィアの歯…のような物を俺に持たせる。

 ルーカスが手を挙げた瞬間甲板になだれ込む男達。

 …今日の為にルーカスが仕込んだ船乗り達。というかこの船の上の人間は全員エドワーズの人間だ。

「連れて行け」

 アイツの一言で、ソフィアが連行される。

 出口付近ですれ違った彼女の瞳には、何も映っていなかった。

 


 幼い頃の事をぼんやり思い出す。

 俺の母親は酒場の踊り子だった。

 別に大して美人だったとは思わない。けれど俺にとっては唯一無二の存在で、それがある日貴族の男と一緒になった。

 連れられて行った豪邸に度肝を抜かれたが、なぜかあの時は母親を悪の親玉から守るんだと、妙な正義感に燃えていた。


 悪の親玉の邸には小さな悪魔が住んでいた。

 その小さな悪魔は、喋りもせず、笑いもせず、俺がどんなちょっかいを出しても完全無視。

 俺が部屋の配置物を動かした時だけ、不愉快そうに眉を顰めた。

 

 おふくろは、この無表情な黒髪の悪魔に、サーディン語を教えてた。

 俺はその時まで、おふくろがサーディン語を読み書きできる事を全く知らなかった。それどころか、サーディン出身という事すら知らなかった。

 それが妙に悔しくて黒髪の悪魔をいじめたが、4倍になって返ってくるのを体感して止めた。


 悪の親玉はこまめな人物で、よく土産を買って来た。

 俺には百科事典や世界地図、世界の七不思議なんかの男児が喜びそうな本。だけど息子には…何故か世界中の無表情な人形を。

 はっきり言って意味不明で、ある日黒髪の変な悪魔に聞いたんだ。何で人形なんか欲しがるんだって。

 そしたらソイツはこう言った。

『お前そんな事も知らないのか。人形は魔法がかかると人間になるんだ』って。

 俺は悟った。

 …ああ、コイツ、馬鹿なんだなって。



 目の前で俺が失敬して来た書類を物凄い早さで読み耽る、元黒髪の悪魔をチラッと見る。

 …馬鹿だとばかり思ってたんだがな……。

 だからフェリクスさんは俺にコイツを手伝って欲しいって頼んだもんだと……。


 ふと船窓から外を見れば、赤い光の点滅が見える。

「あ…花火…?」

 いやいや待て待て、海のど真ん中でどうやって花火が上がる。

「…2連発、何かが運んで…?おい!ルーカス外見ろ!」

「…何だ騒々しい」

「何か近づいて来る!鳥…か?ほら!また花火だ!」

 ルーカスの顔色が一瞬で変わる。

 そしてあっという間に甲板まで走って行く。

「ったく何なんだよ!!」

 アイツはいつも説明が足りないんだ!!頭の中で悪態をつきつつヤツを追いかける。



 甲板ではルーカスが立ち尽くしていた。

 頭上を羽ばたきながら飛んでいく、デカい鳥が打ち上げる2連の花火を見上げながら。


 ルーカス、俺は知ってるんだからな。

 お前は魔法をかけたつもりだろうが、かけられてるのはお前だ。完全に。

 何だその蒼白な顔は。

 結局こう聞くしかねぇだろうが。

「…作戦継続か?」

 お前はきっとこう言うな。

「…修正だ」

「ほいほい。んじゃ、次の着地点はどこにするよ」


 本当に世話が焼けるヤツだ。

 悪の親玉が出張に出かける朝、目を真っ赤に腫らしながら口を真一文字に結んでいた小さな悪魔と、隣の可愛くない男の横顔をそっと重ねる。

 まぁ…思うことは色々あるが、とりあえず早く事件解決してくれ。

 俺は結婚休暇すらまだ取ってないんだからな。

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