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117.王の思惑

「エイダ、経緯を」

「は。昨日夕刻、城に王宮より書状が届いたとの事。王宮からの繋ぎとしては異例であったため家令の判断で開封。本日の昼、エドワーズ侯爵邸に届けられました」

「…なるほど」


 私が渡した書状にじっくりと目を通すのは、かつてカールとして出会った男…カルロス・ダンヒル。

 リンジーとゾーイの言う通り、はっきり言って怖い。

 ルーカス様の持つ雰囲気とはまた違う、底の知れない怖さを感じる。

 そのカルロスが書状を一頻り眺めた後、こう述べた。


「…これは王宮官吏からの書状ではありません」

「…そうなのですか?」

「ええ。この封蝋に押されているのは、国王の紋章です。…そもそも王子の婚約者参集の通知が、このような期近に届くはずがない」

「考えてみればごもっともです。ではこの書状は陛下が直接差し向けたものだという事ですか?」

「……おそらく」

「陛下が……」

 一体どうしてこのように手が混んでいるように見えて、すぐに事実が露見する方法を取る必要があるのか…。


「…カルロス、この書状がルーカス様…エドワーズ侯爵宛に届かなかった事に、何か思い付く理由がありますか?」

 カルロスがジッと私を見つめて、静かにこう述べた。

「…役目の違いかと」

 役目の……。


「カルロス、それからクリフ…あと、後ろのローさんも、こちらへ来て頂けますか?」

 絶対に私の側を離れないローさんは、ここにもいた。

 それをわかっていて、この場にいる誰もが何も言わない。

 私とルーカス様の婚姻は、密かに、だが確かに皆に知れ渡っている。


「私の考えを聞いて下さい」

 三者三様に首を縦に振る。

「私は、この書状は陛下からの緊急通信だと思います」

 皆の視線が私に降り注ぐ。

「私がベゼル公爵家を継承した事を陛下はご存知です。そして、それにはルーカス様との婚姻があった事もご存知…。それならば私宛の書状はエドワーズ邸に届ければよかった、そう思いませんか?」

「確かにおっしゃる通りだ。そして支離滅裂ながらも事実を織り交ぜられた書状の中身」

「クリフ、事実とは?」

「明日、間違いなく王宮ではヨハン殿下の婚約者候補を集めた茶会が催されるのです。ロジャーズはそのための商品の納入で今日は動けなかった」

 ヨハン殿下…。

 そう、陛下のお子はヨハン殿下だけのはず……。


「…あっ!…と失礼、大きな声を上げてしまって…」

「いえ姫様、何かお気づきになられましたか?」

「カルロス、それからクリフ、ローさん、書状をよく読んで下さい。…おかしいでしょう?この文面」

 ローさんが胸元から老眼鏡を取り出して耳に掛ける。

 …遠くはすごくよく見えてるのに……

「なるほど。クレア様、私ならばこう思います。〝第二王子殿下はどこにいるのだ〟と」

「ローさんもそう思うでしょう!?…あ、失礼、そう思われましたか」

 3人が目を見合わせてクスッと笑う。

「姫様、固くなられず楽になさって下さい。我々は…家族です」

 カルロスが言う。

「家族…?」

「左様。我々は姫様が幼き頃、同じ城で暮らした家族です」

「私は今現在ともに暮らしておりますな」

 家族…。

 私の、家族……。

「皆さん…ありがとう。ふふ、頑張っていたのですけれど、私、緊張感が続かない性格なのです。…公爵としては頂けませんわね」 

「何の。私も本当は、ひめさまかわいいでちゅねぇ!…と言いたい所を堪えております」

「…クリフ殿、気持ち悪いにも程がありますな」

「何を言うか、エドワーズの蛇が。姫から離れんか!」

「…無視ですな」

 …皆、顔馴染みなのね。


「話を纏めます。ルーカス様がいらっしゃらないため確実ではありませんが、王家からベゼルへ、ベゼルからエドワーズへ、この流れには意味があるのだと思います。…父の遺言は、私からエドワーズへ渡るように準備されていた」

「……………。」

 カルロスが何かを思い出す仕草を見せる。

「そして…〝第一王子殿下〟という文言。陛下は…ヨハン殿下以外に、御子がいらっしゃるのでしょうか」

 ローさんが苦虫を噛み潰したような顔で言う。

「………可能性は………大いにあり得る」

 カルロスが眼鏡を光らせながら言う。

「…陛下の身も安全とは言い難いのでしょう。…誰かに読まれる事を前提に書状を出している」

 

 しばしの沈黙。


「クレア様……あなたはエドワーズとしても合格ですぞ」

「…ローさん?」

 クリフが目を閉じて、ゆっくりと声を響かせる。

「…我が手は王の敵を討ち……」

 ローさんが静かにそれに続く。

「我が目は王の道を佑く……」


 きっと、ベゼル公爵家とエドワーズ侯爵家に伝わる〝王の右手と左手〟の話なのだろう。

 …本当の事は、私とルーカス様だけの秘密。


「姫様…いえ、我が主人。御命令下さい」

「カルロス…?」

「クレア様、ルーカス様の代理権をお持ちなのでしょう?エドワーズにも働かせて下され」

「ローさん……」


 ルーカス様……間違っていたらごめんなさい。

 けれど陛下からの書状を無視する事は出来ない。

 今考えられる中で、私にやれるだけの事をやります。

 

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