115.頭領
「王子殿下…ヨハン殿下だわ。確か今年11歳だったはず。…きっと何かの手違いだわ」
足りない頭で考える。
貴族簿への名入れ、復籍、爵位の継承、いずれ王宮に露見する事は当然だ。
だがその前提には、ルーカス様との婚姻がある。そこを飛ばしては何も出来なかった。なのに私宛に婚約者内定通知…
「クレア様、私たちの上司に会ってください〜!!」
「…リンジー?あなたの上司はエイダでは無いの?」
「エイダはリーダーです!少ししっかり者なので!」
「ちなみに…リンジーが1番年上です」
「えっっっ!?」
「ゾーイ、バラさないでよぉ!あ、クレア様、でも私が1番心が若いですから!」
こ、心が若いと、外見に奇跡が起きるのかしら…。
きっちり黒髪お団子のエイダは…20代後半…かしらね。灰色のポニーテールゾーイは、20代…?薄茶色のフワフワハーフアップのリンジーは…10代……にしか見えない…!!
「リンジー、良い事を言いました。クレア様、エドワーズ候に急ぎ使いを出しますが、侯が戻るまで待つ余裕はありません。一刻も早く身の振り方…方針を決めねば。登城の指定日は…明日です」
「…あなた達の上司は、頼れるお方なの?」
「正直言って…怖いです」
「あはは!あんなギラギラ眼鏡グーパン1発よぉ。…でもよく見たら怖い…かな?」
「ふざけている場合ではありません。クレア様、我らの上司はベゼル公爵家の……幹部でございます。攻守ともに抜きん出た存在です。判断を仰ぎましょう」
…本当はルーカス様の帰りを待ちたい。けれど、おそらくはそんなに簡単に戻れない場所にいる。
そうじゃないと、わざわざ私に出張の話などする訳がない。
「…わかりました。私だけではいかんともしがたい事は確かです。ご相談させてください」
3人が頭を下げる。
そしてテキパキと動き出した。
「リンジー、頭領に繋ぎを。ゾーイ、エドワーズ候に急使。参集場所は第二地点!」
「「はっ!」」
わかってたのよ?彼女たちが只者じゃない事は。
でも頭領って…何?
…出張先のルーカス様にどうやって連絡を?
頭に浮かぶ疑問をよそに、彼女達にテキパキ支度をされ、あっと言う間に車の中へ。
私はどんどん駄目な人間になっている。
そしてその駄目人間は、首都のメインストリートのとある建物の前で停車した車で待機している。
「第二地点とは…ここですの?」
目の前には、そびえ立つ巨大な…百貨店。
「さようでございます。ウィルキンソン商会が経営する…あ、出迎えが参りました」
「え、え?」
「ささ、お忍びですから、姿を隠して…」
出迎えだという黒づくめの男性達に取り囲まれ、人生初の高級百貨店へと足を踏み入れる。
…絶対に目立ってる…!!
視界不良の中私が通された部屋の中には、忘れもしないあの人物がいた。
「…カール…さん」
間違いない。灰色の髪、鋭い目つき、そして…冷たく光る眼鏡…。アンダーソンの右腕のカール、その人…。
「…姫様、その節は色々と失礼な態度を取り、誠に申し訳ございませんでした。ご挨拶が遅くなりましたが、私はベゼル公爵家家臣、カルロス・ダンヒルでございます。…あなた様にお会いできるのを、今か今かとお待ち申し上げておりました」
ーー!?
「カ、カルロス…さん?え…あなたアンダーソンの……」
逮捕されなかった?あなた、逮捕されたでしょう?
「カルロスと。私はハワード様の命で、潜伏捜査の任についておりました」
「せ、せんぷく…?父の命令…?」
頭の混乱は最高潮である。
父がアンダーソンの元へ潜伏するように命令した。彼はそれに従って…アンダーソンからあれだけの信頼を得たっていうこと…?
…ただ者ではない。ただ者では無いが…
「…姫様のおかげで、長きに渡る任務に終止符が打たれた事、心より感謝しております」
「!!」
つまりこの人は…父が亡くなった後も命令に従っていたというの?
「カルロス、姫を立たせたままだ。…姫、ご無沙汰しております。クリフ・ウィルキンソンにございます。ささ、こちらへ」
「…ウィルキンソン会頭?」
「クリフと。…ここではあなたの家臣の一人です」
「……!」
ベゼルの事を知れば知るほど、自分がとてつもなく遠い世界に来たような気がする。
遠すぎて、前の世界への帰り道が分からなくなるほどの…。
「姫、ご懸念はごもっともです。ですが今は時が無い。書状を……」
カルロスの一言で、私の新たな人生が始まった。
…ベゼル女公爵としての、人生が…。




