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104.相関図

 オリバーの返答も、ルーカス様の応諾もものすごく早かった。

 オリバーの友人に会ったその日の週末、私とルーカス様はカーソン邸へと出向いていた。

 …名目は叙爵の祝いの品を届けるために。

 準備だけはしていたものの、バタバタした事もあって未だカーソン家への祝いの品を渡せていないという体たらく。

 人としていかがなものかと反省しなければならない。


「や〜ん!見てこれ見てこれ!可愛い〜!!」

「…母さん気持ち悪い。一体いくつだと思ってんだよ。落ち着いてよ、お願いだから……」

「うるさい子ねぇ!ちょっとクレアちゃん聞いてよ。オリバーったら反抗期みたいなの。最近不機嫌で取り付く島も無いのよ?」

「…違うから。反抗期だったら家出してる」

「またお前らはそうやって…。ルーカス殿とクレア嬢が困ってらっしゃるだろう!」

「「…お気になさらず……」」


 確かにオリバーは少し元気が無いけれど、シンシアさんとセドリックさんに変わりがないようで何よりだ。

「クレアちゃん、これどうやって開けるの?」

「ああ、これはですね、こうしてこうして……」

 私がシンシアさんに贈ったのは、見た目は宝石箱に見えるコスメボックスだ。

 食器やリネン、華やかな石鹸など色々と考えはしたのだけど、おそらく使い切れないほど贈られているだろうと思って、カーソン家の皆それぞれに一つずつ少し変わった贈り物を用意した。


「あ!開いたわ!キャー!何これ素敵!お姫様のお化粧道具よ!!」

「ふふ、昔お世話になった職人さんに作って頂いたんです」

「わ!ベゼル、僕の箱にはたくさんのペンと…すごい!何色あるの、このインク…!!」

「ああ、君への贈り物は私が選んだ。スクイドという国でカラーインクが流行っているんだ」

「うわぁ!暗記がはかどりそう…!ありがとうございます!」

 ようやく笑顔になったオリバーにホッとしながらルーカス様と2人で微笑んだ。

「私にもよろしかったのですか…?これは、その…特注品では……」

「セドリック殿、これからの貴方に付いて回るものだ。…面倒くさい貴族相手の手紙にはこれを使うといい」

 ルーカス様がセドリックさんに贈ったのは、カーソン家の家紋があしらわれた封蝋を押すための印章と、家紋の透かしが入った便箋だ。

「…家紋の作図でもお世話になったのに…。何から何まで本当にありがとうございます」

 セドリックさんもすごく嬉しそうだ。

 ルーカス様は隠しているつもりだけど、彼は本当はすごく面倒見がいい。

 …エドワーズの血、なのかしら。



 贈り物の話題でひとしきり盛り上がったところで、オリバーが少し重たそうに口を開いた。

「エドワーズさん、今日はお呼び立てして申し訳ありませんでした」

「いや、構わない。私に何か話があるのだろう?」

 オリバーが、セドリックさんとシンシアさんをチラッと見る。

「…父さんと母さんも、話す事があるだろ?」

 オリバーの言葉にご両親が目を見合わせて、少し姿勢を正す。

「船上パーティーのあと、僕ら家族はこの国の商会とその後ろ立てになってる貴族家の相関図を作ったんだ」

「相関図…って、それぞれの関係の見取図のこと?」

「そうだね。…見てもらった方が早いな。少し待ってて」

 そう言ってオリバーが席を立つ。


 オリバーが部屋を出た瞬間に、セドリックさんが小声で話し出す。

「…ルーカス殿、例の2人の公爵、我々は…レアード公爵の方に当たりをつけました」

「!」

「…何か、決め手がございましたの?」

「オリバーが持ってくる図を見ながら説明いたしますが、私どもも爵位を得た以上、今までと同じように〝なんとなく〟では商売できなくなったという事です」

 シンシアさんがお茶を飲みながらこぼす。

「本当に面倒よねぇ…。私知らなかったわ。貴族家の成り立ちに二通りあるなんて。各家を覚えるだけでも大変なのに、その上まで……」

 二通り…。シンシアさんの言う意味はおそらく…

「主家と従家…か」

 ルーカス様が呟く。

「ええ。…オリバーは昔から凝り性で、私が簡単な関係図を作って欲しいと頼んだところ……」

 セドリックさんの話の途中で、オリバーが戻ってくる。

 …分厚い紙束と、丸められた大きな筒状の用紙を持って。


「お待たせしました。…調べられる範囲で作ってみたんです。おかしなところがあったら教えて下さい」

 そう言ってオリバーが応接間の広いテーブルに並べ始めたものは…。

 彼は教科書を作る側の人間に回った方がいいのでは。

 …そう思わせるほど、緻密に調べられた貴族家の資料だった。

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