102.三人の侍女
邸に帰れば、相変わらず私の部屋にはベッドが無い。
…本当にどうしたものかしら。
夕べ彼は絶対に一睡もしていない。
彼の部屋のソファでウトウトしてしまった私を、あの部屋へ運んでくれたのは間違いなくルーカス様。
夢うつつだったけれど、明け方近くにお風呂上がりの彼が部屋に入って来たことは覚えている。
そして朝目が覚めた時、なぜか私、彼の頭を抱きしめてたのよね…。
そして恐る恐る腕を解いたら、彼とバッチリ目が合ったの。
……私、寝相が悪かったのだわ。
このまま同じベッドだと、きっと彼を睡眠不足にしてしまう。これは由々しき事態なのよ。
溜息をつきながら、恐らく私の息遣いさえ聞き逃すまいと、どこかに潜む侍女3人組に向けて一人言を言う。
「エイダさ…リンジー、ゾーイ、聞こえますか?」
「「はいっ!!」」
「もちろんです。クレア様、いかがなさいましたか?」
…本当に彼女たちはどこに潜んでいるのか。
「ベッドをどこかから探して来ていただけませんか?…ルーカス様にご迷惑をおかけするわけには参りません」
3人が顔を見合わせる。
「畏まりました。では、一晩で離縁……という見事な策だったのですね」
「はい?」
3人が最敬礼のお辞儀をする。
「クレア様…いえ、御当主、この度はようやくの爵位の御継承誠におめでとうございます。ベゼル家家臣一同、この時を心よりお待ち申し上げておりました」
「…え?ベゼル家?」
エイダ…に合わせて、3人の顔が上がる。
「昨晩、公爵領では花火が上がったのです!新しい御当主の誕生を祝う花火が!」
「リ、リンジー…?」
「計略が成立されると見越しお部屋を整えたのですが、さすが御当主。エドワーズ侯を見事に出し抜かれるとは……」
「ど、どういう事なの、ゾーイ!」
「一度成人されてしまえば、離縁しようが未成年者に戻る事はございません。爵位の継承には何の影響もない。さ、このような危機感の無い邸など出て、ベゼル公爵邸に入りましょう」
は、はいーーー!?
「…3人とも、もう一度ゆっくりと、最初から、説明してもらえるかしら…?」
混乱する気持ちを抑えて、動揺を悟られないように、あえてゆっくりと直立不動の3人に話しかける。
「はい。私エイダと、後ろの2名、リンジーとゾーイは、前御当主がお亡くなりになる前より、御当主の護衛を務めておりました」
「ちょ…っと待ってね。話が入って来づらいから、名前でお願いできるかしら」
「…なんと寛大な…!!畏まりました。ではクレア様。私どもはあなた様の影護衛なのです」
影…護衛……?
てっきり過保護なルーカス様が新たに雇い入れたプロの侍女なのかとばかり……
「あの、今までどこに……」
「コレット伯爵邸でございます。…継承法の壁に阻まれ、名乗り出る事も叶わず、ほぞを噛むような日々でございました」
「コレット邸!では、ルーカス様とのお見合いを整えたのは…」
「あ、それはエドワーズ侯の独断です!私たちはベゼル領からの命令でエドワーズ侯の仲介役をしました!」
リンジーが元気良く答える。
「…泣く泣くでございます」
ゾーイが神妙に答える。
「あのエドワーズの当主は、事もあろうにこの邸にクレア様を囲うなどという暴挙に出た。私たちはあなた様がここに囚われた翌日に、こちらに討ち入りに参ったのでございます」
「う…討ち入り……」
何かしら、すごく…物騒なのだけれど…。
ベゼル家って皆こんな感じだったらどうしましょう…。
「ですが私どもも考えを改めました。あのお屋敷は、防衛の面からはここには遠く及ばない。ならば利用するのもやぶさかでは無いと」
「…嫌々エドワーズ侯に頭を下げました」
「でも私たち気づきました!クレア様がむざむざ冷徹男に囚われるはずがないと!きっと利用し尽くして私たちの前に現れて下さると信じてました…!」
「…………なるほど」
彼女たちが私をずっと影から守ってくれていた…。
そうよね、よく考えたら世間知らずの私が何の危険もなく朝も夜も1人でフラフラできていた事が異常なのよ。
それは本当にありがたい。
…が、しかし。
「…3人とも、お話はよくわかりました。ですが、私はルーカス様とは離縁いたしません。…打算的な結婚ではないのです」
「「!!!」」
「な、な、何をおっしゃいます!ベゼル公爵家はどうなさるのです!」
「…エイダ、どうしたらいいのか、よろしければお話を聞かせて貰えないかしら」
「クレア様……」
「…ベゼル家の秘密を知ったのは、つい昨夜の事なのです。私は…あなた達のことを何も知らない。教えて欲しいのです」
「……………。」
「あと、これだけは先に言っておきます。私がベゼルを継いだ事は極秘です。…家臣の皆さまに、くれぐれも早まった…花火…は手遅れ、御祝いやお祭りや、そういった事は控えるようにお伝え下さい。…春には必ず参りますと、そうお伝え下さい」
きっと皆がベゼルの当主を待ち侘びている。
…その気持ちは痛いほどわかった。私の貞操が二の次になるほどね!
さてと…どうしたものかしら。




