101.あげるよ
「はー…。オリバーお前、羨ましいポジションだな」
「何がだよ。彼女とはどう見ても友だちだろ?」
アーロンさんとオリバーが仲良さげに話している。
オリバーの顔が広い事は知っていたけれど、友だちが多いのは素敵なことだ。
「僕らも法学部行けば良かったね。経営学部は今年で5年連続女子ゼロだよ」
エディさんも話に加わる。
「なー、オリバーだけ裏切り者だよな」
「そうだよ。商会の息子が官僚にでもなるのかって話だよ」
そう言えばオリバーはどうして法学部を選んだのかしら。
ルーカス様との勉強会の時に何か話してたわね。
3人の掛け合いを黙って聞いていると、オリバーが私に話しかけた。
「置いてけぼりにしてごめん。こいつらとは幼馴染なんだよね。初等学校から高等学校までずーっと一緒の」
「まあ…!羨ましいわ。幼馴染って憧れだったのよね。私は子どもの頃からあまり……」
…友だちがいなかった事は話さなくていいかしら。
「とは言っても、みんな家が商売してて親が忙しかったから、放課後自然とつるむようになっただけだけど」
「そうなのね。ではお二方ともご実家は商会の経営を?」
私の問いにアーロンさんが応える。
「うちは…菓子の製造から販売までやってる。お菓子のビバリーっつって、ド派手な看板見た事ない?」
ビバリー……
「ああ!私、ビバリー菓子商会の前を毎日歩いてましたわ」
「コンガー通りを?けっこう下町なんだけど……」
パン屋が目の前ですから…。
「僕のとこは製紙業。化粧箱の加工とかもやるけどね。可愛い便箋とかも作ってるから、よかったらプレゼントするよ」
「まぁ!お気遣い頂きありがとうございます」
さすがオリバーが付き合う人たちだわ。すごくいい人たちみたい。
「そうだ2人とも、会計学の入門書で何かお勧め無い?彼女勉強したいんだって」
「会計学?お嬢さまが?……変わり者?」
アーロンさんはオリバー以上の毒舌みたい…。
「だったら僕の教科書あげるよ」
「まあエディさん、大学の教科書は高いものでしょう?いけませんわ。私程度には市販の入門書で十分…」
「…いいんだ。多分、二度と使わないから……」
「…え?」
「んじゃ俺もだな。もらってくれるなら教科書も喜ぶ」
「…アーロンさんも?」
どことなく様子がおかしい2人との会話をオリバーが打ち切る。
「了解。じゃあ受け渡しはまた連絡する。…ベゼル行くよ。昼休み終わる」
「え、え?」
「んじゃ2人ともまた」
「あ、では私も失礼しますわ。今日はありがとうございました」
「「こちらこそ!」」
3人でお辞儀し合ったあと、先に講義室を出てしまったオリバーを追いかける。
「ちょっとオリバー、どうしたの?お友だち…あんな感じで大丈夫なの?」
「大丈夫。…腐れ縁ってそういうものだから」
「…そうなの?」
幼馴染どころか友人もいない私にはよくわからないが、彼らが大丈夫ならばそうなのだろう。
「そう言えば今さら疑問に思ったのだけど、オリバーはどうして私の事名前で呼ばないの?」
「本当に今さらだねぇ。そんなの決まってるだろ。どこに目と耳をつけて歩いてるのさ」
オリバーが呆れ顔をする。
「こことここ……そういう問題では無い?」
「無いね。あー…でもそろそろちゃんとクレア嬢って呼ぶ練習しとかないとなぁ」
「えっ、どうして!?」
「…君はやっぱり少しお馬鹿さんだよね。エドワーズになるんでしょ?」
「!」
「さすがにベゼルのままじゃ差し障りあるでしょ」
ち、違うのオリバー!私はベゼルのままなのよ!
…と声を大にして言いたいのに!!
「だ、だめ!クレア嬢なんて嫌よ!私たち親友でしょう?クレアって呼んで!そうしてちょうだい。もう決めたわ!」
「……君は僕をとことん罠にかけるつもりなんだね」
「罠?…って何のことかわからないけれど、駄目だからね!もう決めたから」
オリバーが溜息をつく。
「じゃあエドワーズさんに連絡取って。…なるべく、早く」
「え、ええ」
そう言ったオリバーの顔には、いつもの柔らかさの欠片も見当たらなかった。




