男の記憶
男は残りの3日を普通に過ごした
兄弟達と遊び、喧嘩し、今までと変わらない光景をただ見つめていた
みんなが寝静まった後、1人思い出に浸りながら兄弟に1枚ずつ手紙を書いて大事に机にしまった
女の後ろ姿があった
〈なぁ、エマ〉
〈ん?〉
男が声をかけるとエマと呼ばれた女が振り向いた
サラに似ていると思っていた女は、エマだった
〈もし俺が死んだらどうする?〉
エマは少し考えた後、
〈身体中の水分が無くなるまで泣き続けるか...私も一緒に死ぬかも〉
〈ハハ、それは死なないな...〉
男はこの日、初めて泣いた
不思議と男の感情が頭に流れ込んでくる
男の流した涙はエマを残して死ぬという罪悪感と、もっと生きていたいという願いが込められていた
〈え、ちょっとどうしたの⁉︎〉
〈愛されてるなと思って...〉
〈なに当たり前のこと言ってるの?私はずっと前から愛してるわ〉
エマの腕の中で男は子どものように泣いていた
しかし、時間というものは残酷で約束の日がやって来た
その日は朝から晴れていた
男は兄弟達を抱きしめて周った
ローザ以外はその行動の本当の意味を知らず、男が疲れておかしくなったのだと考えた
昼は14人でピクニックをした
今までで食べた食事の中で一番幸せだった
外でくつろいでいると、夕陽でオレンジ色に染まった空を灰色の雲が覆った
それを見て男はそろそろだと直感した
ローザもそれを感じ取ったようで男を見つめていた
〈みんな、俺の家族でいてくれてありがとう。みんなが家族で本当によかった〉
そう言って男は空を見上げた
ローザは無言で涙を流し、他の兄弟はローザを心配した
エマ以外は...
エマだけは男を見ていた
〈ねえ、昨日からどうした...〉
ドサッ
男が急に倒れた
光の矢が男の胸を貫通し、地面に突き刺さっていた
ドクドクと流れる赤い血
〈い、や...いやぁぁ〉
エマの声に反応してみんなが振り向く
〈奇襲か...⁉︎〉
〈でも、どこから?〉
みんなは男に背を向け、敵から隠すように囲んだ
エマは治療しようと男に刺さった矢を抜こうとするが、男が止める
〈...何もするな〉
〈嫌よ。死なせない!〉
エマの焦り様を見て男は笑った
〈俺が死ねば、世界は滅ばないから...な?〉
エマは首を激しく横に振った
〈あなたが良くても私は良くない!ルイがいない世界に私の生きる意味なんて無い!〉
ルイ......?
男が手を伸ばしエマの涙を拭った
そして、そのままエマの顔を引き寄せてキスをした
〈エマ...愛、してる...〉
〈っ...私も愛してる〉
男はエマの返事を聞いて微笑むと、ゆっくり瞼を閉じた
そうだ、あれは二千年前の俺だ...
エマのことを思い出せないはずだ
自分でローザに頼んで記憶を消してもらったんだから
「ここまではルイの記憶」
「俺の記憶...?」
「そう。ここからはルイが死んだ後の私の記憶」




