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9:因果は巡る


【監獄迷宮パンデモニウム】――第2階層B9F〝燃える海を泳ぐもの〟


「まさか同族がいるとは。世界は狭いですねイルザ」

「……銀貨を使ってしまった上に完全に無駄骨だ。主にどう報告する気だ、バネス」


 茶髪のがっしりと体系の商人(マーチャント)――イルザが金髪の商人――バネスへとそう言葉を返した。


「どうもこうもそのまま報告するしかないですよ。炎豹のハウレス、そしてその契約者と今、ことを構えるのはタイミング的に良くないですし。奴らも来ていますしねえ」

「約束はどうする気だ? ハウレスにはすぐにこの街を出るように言われていたが」

「……そんな約束しましたか?」

「かはは……だよな」


 2人が悪い笑みを浮かべながら、来た道を戻っていく。ときおり襲ってくる魔物も、ボウガンで撃退していく。既にレベルが30近い2人にとって、この階層には何の脅威もなかった。


 ただ単に矢が勿体ないのと、いざとなれば盾になり、そして生け贄にも出来ると思ってあの老人と若者を雇っただけだ。


 崩れた遺跡を通り過ぎ、マグマの上に掛かる橋を渡ろうとする2人の行く手を、阻む者がいた。


「ようやく見付けたぜ……クソ虫共が」

「あいつらっすね」


 現れたのは、黒衣の男と金髪の青年だった。その両手にはそれぞれシンプルな直剣が握られていた。まるで、十字架を無理矢理、剣の形にしたようなデザインだ。


「……っ!! 馬鹿な……なぜお前らがここにいる!」

「まずいですね……」


 バネスが逃げ道を探すが、背後には崩れた遺跡しかない。

 素早く考えを巡らすが、やはり、戻ってハウレスの協力を仰ぐしかないと判断した。


 前を塞ぐあの2人を倒すという選択肢はバネスの中には存在しなかった。もう一人の青年については謎だが、問題はあの黒衣の男の方だ。


 あれは、決してまともに戦ってはいけないとバネスは聞いていた。


 それほどまでに――その男は有名であり……そして異常だった。


 悪魔狩り、鬼斬り、黒衣の狩人……異名は様々だが――間違いなく、悪魔にとって会いたくない人間の1人だ。


 男の名は――ジョン・オースタイン。


「とりあえず、死んどけ」


 ジョンが細葉巻を咥えたまま、地面を蹴った。


「くそ! 逃げるぞバネス!」

「ああ!」


 二手に分かれて、バネスとイルザが逃げ出す。高レベルによる高い敏捷値のおかげでその姿があっという間に消えた。


「ジョンさん、良いんですか?」

「……やらせてやれ。どうせどっちもクズ同士だ。()()()()()()()()()()


 ジョンは、追うのを止めると剣を収めた。 


「なんやかんや、甘いっすよねえ。助けてあげたし」

「うるせえ。おかげで、あいつらをこうやって見付けられた。ほら、行くぞ」


 ジョンは煙を吐くと、ゆっくりと崩れた遺跡へと歩きはじめた。



☆☆☆



 バネスは崩れた遺跡の壁を乗り越えて、ジグザグに走りながら、後ろを確認する。


 とにかくアレと正面からぶつかっては勝てない。主から預かっていた〝銀貨〟はさっき使ってしまい、もう手持ちが1枚しかない。徘徊者を再び使役する方法もあるが、あの男に対して意味がさしてあるとは思えなかった。


 バネスは背後から追ってくるだろう男に注意を払いすぎていた。


 それも致し方ない事だ。彼がこの迷宮に来て、脅威を感じたのは2回だけだった。


 ハウレスの契約者による首を狙った攻撃と、あの黒衣の男の登場。その2つだけだ。


 だから、バネスは気付かなかった。今まさに足を置いた場所が、不自然に盛り上がっていた事を。ここまでの道中にあった罠については、全て雇っていた老人が予め解除していた。その脅威に、バネスは気付けなかったのだ。


 ヒュン、という風切音と共に、火矢がバネスへと向かってきた。


「っ!!」


 バネスはギリギリでそれを回避する為に、むりやり横へと飛んだ。


 しかし飛んだ先にも――罠があった。


「馬鹿な!」


 今度は地面からマグマが噴き出す。バネスはサイドステップするも避けきれず、右腕がマグマに触れ、燃え上がる。


「あああ!! くそ!!!」


 激痛に思わず悪態をつくバネス。後ろへと思わず引いた瞬間に、足下でカチリという音が鳴る。


「うそ……だ」


 今度は2方向から火矢が飛んでくる。


 そして、バネスはそれを避けながら――ようやく崩れた壁の陰からこちらをジッと見つめている老人の姿に気付いた。


「お前は!!」

「ほほほ……盗賊(シーフ)にはこういうスキルもあっての」


 バネスが右腕の痛みを無視してボウガンを向けるも、老人はスルリ壁の陰に隠れた。


「なぜ生きている!!」


 ありえない。死にかけていたはずだ。あの状態で生き残れるはずがない。


「くそ!」


 予定外が起こり過ぎている。


 バネスは老人を追うかどうか迷った末に、この場から逃げ出す事を優先した。あんな老人、いつでも殺せる。


 そう思って今度は罠がないか確認しながら、遺跡の廊下を走っていく。


 それこそが老人――ブラスの思惑通りとも知らずに。


 バネスが、不自然な地面の盛り上がりを見付けて、微笑むとそれを飛び越えて、遺跡の出口へと向かおうとしたその時。奥から誰かの悲鳴が響いた。


「イルザ!?」


 それが相棒の声だと気付き、バネスが立ち止まった瞬間――その首に、短剣が突き立った。


「――かはっ」

「人は一度罠に掛かると、しばらく異常にそれを恐れ、敏感になる……そしてそれを避けようと視線が無意識に下にいき、頭上の警戒が疎かになる……覚えておけ小僧、こういう入り組んだ場所で待ち受ける盗賊からは――逃げられん」


 それは崩れた天井から飛び降り、短剣をバネスの首へと立てたブラスだった。


「あり……えない……」


 いくら不意打ちでも、老人如きの一撃で死ぬほど耐久も耐力も低くないはずだ。


 なのになぜ……。


 それがバネスの最後の思考であり、そのまま経験値の光となると、ブラスへと吸収された。

 

「ふう……疲れるわい」


 何の感慨もないブラスがそう言うと、ついに、刃が折れた短剣をその場に投げ捨てた。回収した罠も使い尽くした上に、武器もない。


 あの黒衣の男も、もう助けてはくれないだろう。


 ブラスは知っていた。あの男は――人間ではなく悪鬼の類いであると。


「ジジイ! そっちもやったか!」


 ブラスが壁にもたれかかって息を整えていると、血まみれの青年が嬉しそうに声を出して走ってきた。


 それは死にかけていたあの、双刃士(ローグ)の青年だった。


「そっちも終わったようじゃな」

「ああ、ジジイの仕掛けた罠に見事掛かって、うろたえたところで1撃よ! いや2撃か。まあどっちでもいいや!」

「儂は疲れたわい」

「俺もだよ」


 2人して壁にもたれかかってしまう。もはや、帰還する体力も気力もない。


「なんで、あいつらは俺らを助けてくれたんだろうな。すげー回復魔術だったぜあれ」

「わからん。わからんが……あまり関わりのない方が良い類いの人間だ。特にあの黒い男は人を……沢山殺めておる」

「だろうな。滅茶苦茶強そうだしな!」

「いずれにせよ、復讐は出来た。生きて帰ることが出来れば一番だったが……」

「ははは……あのまま帰る手もあったんだけどなあ」


 ジョン達に助けられたブラス達には2つの選択肢があった。


 このまま帰還するか、それとも復讐するか。2人は何も考えずに復讐する道を選んだ。そして、ジョンはそれを許可した。


 なぜかは分からない。分からないが、結果としてこれで良かった。


「魔物に殺させるのは嫌だよなあ。ジジイ、やってくれよ」


 双刃士がそう言って、笑った。その顔には、覚悟した者特有の強い意志が浮かんでいた。


「短剣が折れてしもたからな。それも無理じゃ」

「んだよ使えねえジジイだなやっぱり」


 2人でそうして笑っていると、奥からこちらへと向かってくる人影があった。


 その正体を見て、ブラスは笑った。


「ほほほ……儂もお前も……まだまだ死ねないようじゃの」

「あん?」


 それは――帰還すべくたまたまやってきたトルネ達だった。


というわけで商人はあっさり死にました。仕方ないね。


ハイファン新作連載開始!

かつては敵同士だった最強の魔術師とエルフの王女がざまあしつつ国を再建する話です! こちらもよろしくお願いします。

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平和になったので用済みだと処刑された最強の軍用魔術師、敗戦国のエルフ姫に英雄召喚されたので国家再建に手を貸すことに。祖国よ邪魔するのは良いがその魔術作ったの俺なので効かないし、こっちの魔力は無限だが?


良ければ読んでみてくださいね!

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ハイファン新作です! かつては敵同士だった最強の魔術師とエルフの王女が国を再建する話です! こちらもよろしくお願いします。

平和になったので用済みだと処刑された最強の軍用魔術師、敗戦国のエルフ姫に英雄召喚されたので国家再建に手を貸すことに。祖国よ邪魔するのは良いがその魔術作ったの俺なので効かないし、こっちの魔力は無限だが?



興味ある方は是非読んでみてください
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