#880 良妻現る。ランクアップに加わるオリヒメさん!?
ブリーフィングも終わり、Bランク戦出場メンバーであるシェリアとレグラム、シャロンには早速〈上級転職〉してもらおうと思う。
早速測定室へと4人で向かった。
特にシェリアはずいぶん待たせてしまった。
「やっと、私も上級職に至れる日がやってきたのですね」
「待たせて悪かったなシェリア。ちゃんと最強の職業に就かせるから楽しみにしててくれ」
「はい。とても楽しみにしています」
シェリアが弾むような声でそう言う。とても喜んでいた。浮かれているようだ。
そりゃ楽しみだよな!
「俺だけ先に上級職になるとは、オリヒメに少し悪い気がするな」
レグラムは近頃どんどんオリヒメとの仲が進展しているようで、最近は何をするにも一緒にいるからな。オリヒメさんがレグラムを1人にしたがらないとも言う。
そんなこんなで、こういう1人だけ先に進むような行為は気後れというか、オリヒメさんに悪いと思っている様子だ。
「私も、第二回大面接のメンバーと同時期に加入したのに私だけ先に行くのは少し気後れがあるかも」
シャロンもレグラム寄りみたいだ。
第二回大面接で加入したメンバー8人のうち、シャロンだけ親ギルドの〈エデン〉に加入し、さらに一足先に上級職に至ろうとしているのだ。
シャロン的には同期に罪悪感があるのだろう。調和を大事にする子なのだシャロンは。
だが、シャロンの能力はギルドバトルで非常に有用だ。早めに〈上級転職〉させたいところ。
「悪いなシャロン。〈アークアルカディア〉のメンバーも随時〈上級転職〉して行く予定だから我慢してくれ。シャロンもみんなから祝福されていただろ?」
「そうなんだけどね」
ブリーフィングの時、シャロンを先に〈上級転職〉させたいという話をしたところ、〈アークアルカディア〉の同期メンバーはシャロンを祝福してくれたのだ。
「頑張って」とか「直ぐ追いついちゃうんだからね」とか言われていたが、概ね祝福だった。
「えへへ。みんなにああ言ってもらえて嬉しかったなぁ。でもだからこそちょっと気後れしているというか、せめて誰かと一緒だったら違ったんだけど」
シャロンは両手を背中で組む格好で、少し気にしつつも喜びと半々な様子だった。
続いてレグラムの方へ向きなおる。
レグラムもタイミング的にはオリヒメさんと合わせようとしていたようだ。
だがBランク戦、その後のAランク戦が間近に控え、そうも言っていられなくなった。
「レグラムは、俺も本当はオリヒメさんとセットで上級職にしてあげたかったんだけどな。タイミングが合わなくて悪いな」
そうフォローしたところで思わぬ声が聞こえてくる。
「なら私が一緒でも構いませんわよね?」
「ってオリヒメさん!?」
「オリヒメ!? なぜここに」
そこにオリヒメさんがひょいっと現れたのだ。
おかしい、俺たちは4人で廊下を歩いていたはずなのに!
この人、レグラムが絡むとたまに神出鬼没になるんだよなぁ。
「話は聞かせていただきました。レグラム様は私と共に〈上級転職〉したいとのこと、ならそれを叶えるのが良妻の勤めです」
「いや、オリヒメ、だからそれは難しいのだと」
さすがはオリヒメさん、レグラムへの愛が半端ない。
しかしオリヒメさんはLVカンストしたとはいえ〈アークアルカディア〉所属だ。〈エデン〉昇格もまだの今、上級職になるのは気が早い。
今回〈上級転職チケット〉がまだ余っているのになぜ〈エデン〉メンバーにしか使わないのかというと、ランク戦に出場できるのは親ギルドのみだからだ。そしてランク戦出場者は全員上級職で固めたい。
現在下部組織の〈アークアルカディア〉に所属していて〈エデン〉に昇格するか否かまだ決まっていないオリヒメさんには、〈上級転職チケット〉はタイミング的に使えないのだ。
しかし、そんな俺の心境を知ってか知らずか、オリヒメさんはピラっと1枚のチケットを取りだした。
「これならどうでしょう?」
「ん?」
竜の絵が描かれたそれ、オリヒメさんが持つそれはどこからどう見ても〈上級転職チケット〉だったのだ。
「これで私も上級職になれますわよね?」
「これは、〈上級転職チケット〉じゃん!?」
「オリヒメ!? どこからそんな物を!?」
あのレグラムが珍しく動揺して問う。俺も凄く気になる。これって〈エデン〉が持っている物じゃ無いよな!?
「これは家にあったチケットですわ。万が一レグラム様との間に猫が入り込んだ時用に持って来ていたんですの」
なんとビックリ。これ、オリヒメさん個人の持ち物だそうだ。
しかもその理由よ。猫って、泥棒猫のことだろうか? つまり婚約者のレグラムが泥棒猫によってあーだこーだなった時に取り戻す用と?
確かこの世界では〈上級転職チケット〉は〈嫁チケット〉的な側面があったはずだ。この場合は〈逆嫁チケット〉か? レグラムと結婚したいので〈上級転職チケット〉を結納品として渡すつもりだったと?
「ですがレグラム様も上級職になりますし、味方も増えました。もうこれが無くても安心できました。それにこれも結納品としての価値も少しずつ落ちつつありますからね。ここが使いどころでしょう」
なんだかオリヒメさんが恐ろしいことを言っている気がしたが、きっと気にしないほうがいいだろう。
深く聞いてはいけない気がする。
だがちょっと待て? ということはだ。
「え? ということはオリヒメさんも〈上級転職〉するって事でいいのか? だけど少し待てばギルドから支給されるぞ?」
「レグラム様のためですもの。構いません」
「オリヒメ……」
「オリヒメさん、すごい」
「素晴らしい愛です」
愛が大きい。
レグラムは少し照れ気味に頬をかき、シャロンはそんな2人をキラキラ見つめていた。
シェリアも軽く頬を染めている。
そこは構おうぜオリヒメさん!? とも少し思うが、本人が良いと言うのなら俺がとやかく言うことでもないだろう。まあ、いっか。
「じゃ、オリヒメさんも一緒に行くか」
「はい。夫共々、よろしくお願いいたします」
「お、おいオリヒメ、だから気が早いと何度も言っているだろ」
「わ~! オリヒメさんが一緒に上級職になってくれてとっても嬉しいです!」
「仲間が増えましたね。歓迎しますオリヒメさん」
というわけで〈上級転職〉に急遽オリヒメさんも加わることになった。
だがそんな突然言われても今持っている持ち物でオリヒメさんの上級職の条件なんて――あ、満たせるな。オリヒメさんも〈上級転職〉できるわ。
なんだか神様がこの夫婦を導いているんじゃないかと思ってしまうぞ。
そんなことを考えながら、俺たちは測定室へ到着する。
さて、ではいよいよ〈上級転職〉を始めようか。
まずは、散々待たせてしまったシェリアからだな。




