#867 アポイントラッシュ! 上級攻略の影響力!
「アポイント? 俺に?」
「はい。1日で多くのギルド、組織、企業からアポイントが届いております」
11月25日月曜日。
上級ダンジョンの初攻略の翌日。ダンジョン週間が終わってしまい今日から登校日。
ということで教室に着いたところで、セレスタンから俺に大量のアポイントが届いていると連絡を受けることになった。
「いきなりどうしたんだ、何か問題でもあったのか?」
アポイントが届くのは別に今に始まったことじゃない。
前々から俺にアポを取りたいという層がいるというのは知っていた。
だが、それはほとんどセレスタンのところでブロックされていたはずだ。
セレスタンブロックは鉄壁の要塞。セレスタンに合格を貰わないと俺につなぐことはできないのだよ。
俺個人へ直通のアドレスを持っている人はもちろん素通りだが。
つまり、今までセレスタンが処理していたはずなのに、俺に話を持ってきたということは何か問題が発生したということに他ならない。
「はい。おそらく昨日の上級ダンジョン攻略の件が広まっている影響ですね。これまでは基本下位のギルドや個人からの話が多かったのですが、昨日来た連絡の中には無視できない上位のギルドや大企業なども含まれておりまして、一度ゼフィルス様に方針をお聞きしようかと」
「ああ、なるほど。う~ん、しかしそうか」
なんのことはない。昨日のあれが原因だったらしい。
まったくいつの間にこんなに広まったんだろうな! 攻略者の証は俺しか付けていなかったというのに(隠す気ゼロ)。
「おはようゼフィルス、話が聞こえたのだけれど私も話に加わっていいかしら?」
「おはようございますゼフィルスさん。わたくしもよろしいでしょうか?」
と、そこに来たのはシエラとリーナだった。2人に「おはよう」と挨拶して話の輪に加わってもらう。
「それで、先ほどの話だけど」
「ああ。どうやら上位のギルドや大手の企業? それと個人が俺に会いたがっているらしい」
「まあ、そうでしょうね」
「こうなることは予測の範疇でしたわ」
改めて説明するとシエラとリーナが納得の表情を浮かべた。
「それでどうすればいいんだ? これは会ったほうがいいの? それとも断っちゃってもいいのか?」
シエラとリーナなら心強い。
正直なところ、俺には判断が難しいところだ。
俺は楽しむことに全力投魂する、そのためには多少の面倒ごとは引き受けよう。
しかし、どれくらい引き受けたらいいのかよく分からない。
リーナの言うとおり、こういうのは予測出来たことだが、面倒ごとは無いにこしたことはない。
シエラたちに頼んで断っちゃってもいいやつを見繕ってもらおう。
「セレスタン、資料はある?」
「こちらに」
「ありがとう」
セレスタンがいつの間にか取り出した資料(おそらく『こんなこともあろうかと』で懐に忍ばせていたのだろう)をシエラが受け取り、リーナに一部を渡す。
そのまま2人でぺらぺら資料をめくって確認していく。
「ほとんどのBランクギルドがあなたに会いたがっているわね」
「あーなるほど」
「少し前に〈エデン〉はBランク戦の条件を満たしました。相手方はとても強く面会を希望しております。本来ならお断りさせていただく案件ですが、持ち寄った物が物ですから」
「貢ぎ物ですわね」
「必死さが見て取れるわね」
セレスタンの説明にリーナが微妙な表情だ。
〈エデン〉の一つ上のギルドが、今は格下ランクを相手に面会だけでさまざまな高価なアイテムや装備を貢ぎ物として持ってくると明記していた。
その必死さにシエラは向こうの心情を察して少し同情した様子だ。
「Bランク20ギルド中、生産ギルドの2ギルドと、〈筋肉は最強だ〉、あと〈サクセスブレーン〉以外の16のギルドから連絡が来てるわ。昨日の今日だというのに、さすが世を上手く渡る術を知っているわね」
生産ギルドには戦闘ギルドはランク戦を仕掛けることができない。
そして筋肉ギルドとして有名な〈筋肉は最強だ〉ギルドは〈エデン〉とすでに既知の仲だ。
〈サクセスブレーン〉はどうだろう? 順調に条件を満たし、そろそろAランクギルドへの挑戦権を獲得できるらしいので、こっちを気にしている暇は無いのかもしれない。
「この貢ぎ物は、とても価値が高いものが多いけれど、今の〈エデン〉からすればあまりおいしくはないかしら? ゼフィルス、見てくれる?」
「どれどれ? あ~、なるほど。大体持ってるか、あってもなくてもいい物だな。まあ俺に会うだけなんだからこれ以上求めるのは酷だろう」
「いいえ、下手をすれば10人が路頭に迷いかねないもの、必死に良い物を出してきているわよ。あなたの感覚が普通じゃないの。これは破格よ」
「シエラに普通じゃないって言われた!? え、もしかして褒め言葉?」
「Bランクギルドは〈エデン〉にランク戦を挑まれるのを回避したい狙いね。上を目指したいのなら、全部突っぱねたほうがいいわ」
俺の質問は見事にスルーされた。
でもシエラのアドバイスには従いたいと思います。
「んじゃ、Bランクギルドは全部お断りで」
「畏まりました」
「シエラもありがとな。助かったぜ」
「こういうことは私たちに頼って。いつでも助けになるわ」
おお、シエラ、かっこいい。ありがたい。
俺はシエラのアドバイス通りBランクギルドからのアポは全てお断りさせてもらうことにした。
シエラは負ければ路頭に迷うと言っていたが、ちゃんと救済処置の下部組織という存在があるのだ。そう簡単に路頭に迷うことは無いだろう。
一瞬〈テンプルセイバー〉が過ぎったが、あれは例外だと思いたい。
続いて今まで黙々と資料をチェックしていたリーナが最後の資料をチェックし終えた。
「こちらは確認し終えましたわ。大きな企業は顔つなぎ程度に会っておいたほうが無難ですわね。〈A地帯〉にある企業は今後も関わり合いになると思いますわ。ですがこれはゼフィルスさんでなくてもよろしいですわね」
「一応、向こう側が希望しているのはゼフィルス様なのでこちらにお持ちしました」
「代理を立てればよろしいですわね。今やゼフィルスさんは上級ダンジョンの攻略者の1人、多忙だと言っておけば向こうは飲むしかありませんもの」
「おお、リーナすっごく頼りになるな!」
「うふふ、ゼフィルスさんのためですもの。こういうことは任せてくださいませ」
おお、リーナ、かっこいい。ありがたい。
そんな感じで色々2人にアドバイスを貰った結果、分厚かった資料のうち大部分は断る、もしくは代理を立てるということに落ち着くことになった。
とはいえそれは全部ではない。
「残ったのは二つね。Aランク唯一の生産ギルド〈青空と女神〉、そしてSランクギルドの一つ〈ギルバドヨッシャー〉」
「〈青空と女神〉は生産ギルドのトップですわ。もしかすればゼフィルスさんが気に入るものがあるかもしれませんわね」
うむ。〈青空と女神〉は実はとても気になっていたギルドだったんだ。
ここ数年、ずっと生産ギルドのトップに君臨し続け、〈A地帯〉の大手企業全てと契約を交わしているほか、Aランクギルド以上の戦闘ギルドの装備・アイテムはその多くを〈青空と女神〉が製作しているという、正真正銘学園のトップの生産ギルドだ。
そのせいか非常に多忙との話でBランク以下のギルドからの依頼は細々としか受けられないのだとか。
そのため俺は余裕のあるCランクの生産ギルドを推していたわけだな。〈ワッペンシールステッカー〉とか〈彫金ノ技工士〉とか。
「顔つなぎかな?」
「なんとも言えませんわね。私も噂程度ですが、ものすごく多忙なギルドであると聞いております。ですがゼフィルスさんは上級ダンジョン攻略者、時期から見て上級ダンジョン最奥のボス素材が目当てなのではないかと思いますが……」
「それ以外だと、ちょっと思い浮かばないわね」
「上級最奥のボス素材かぁ。あれは〈エデン〉の関係者しか加工できないから受け取ってもどうしようもないと思うんだけどな」
俺たちは首を捻りつつ、とりあえずは会うことにした。
Aランクギルドで唯一面識の無いギルドだ。とても楽しみだ。
「そしてもう一つがSランクギルドの一つ、〈ギルバドヨッシャー〉ね」
「こちらは技術交流とのことですわ。あそこはギルドバトル研究オタクの集まりですからね。未だ負けなしのゼフィルスさんと話がしたいだけだと思いますわ」
「それは楽しみだな!」
ゲーム〈ダン活〉時代でもギルドバトルの戦略の話し合いは盛り上がり、熱くなったものだ。
それがもう一度楽しめるかもしれない、これは絶対受けたいところだ。
そう決めたところで俺の〈学生手帳〉にメッセージの通知音が「ピロリン♪」と鳴る。
「ん? ――あ~、っとこれは」
「どうしたの?」
あまりメッセージは来ないためつい取り出して見てしまったのだが、そこに書かれていた内容も俺のアポイントを願うというものだった。
「学園長から連絡だ。ちょっとギルドのことで話があるらしい」




