#865〈エデン〉帰還。打ち上げパーティで盛り上がれ!
「お、おい、あれを見ろ!?」
「んあ? ああ〈エデン〉一行だな。最近はよく見る光景だ」
「バカ、見るのはそこじゃねぇ! 勇者の胸に付けてある証の方だ!」
「あ、あれって確か、歴史の教科書に載っていた、〈嵐ダン〉攻略者の証?」
「お、おかしいな。この前〈キングアブソリュート〉の人たちが着けていた物と同じに見える」
「は? はあ? はあああああ!? うっそだろおめえ!? 遠いしもっと近くじゃなくちゃわからないだろ!?」
「いや、俺斥候だから、普通に見える。あれ、間違いないぞ?」
「そ、そんなマジで!? まさか本当に〈エデン〉は上級ダンジョンを攻略したって言うのかよ!?」
「おあ!? あ、あれは〈キングアブソリュート〉のラムダ氏じゃねぇか!?」
「きっと攻略者の証のことを聞きに行ったに違いねぇ。みんな静かにするんだ。耳を澄ませ」
「……何ぃ!? 今『間違いない』と言ったか!?」
「ほ、本物か、本物の攻略者の証なのか!?」
「ちょ、その話もっと詳しく!!」
「ああ! 言っているそばから男子が勇者氏に聞きに行ったぞ!?」
「先を越された!?」
「勇気あるな。しかし、無謀でもある」
「おおっと、勇者ファンと思わしき人たちに捕まりましたね」
「それにもめげずにどんどん突撃者が!」
「気持ちは分からんでもないが、捕まるぞ!?」
「いや、だが手が足りていない。次々と勇者氏に聞きに行く人が続出だ!?」
「上級ダンジョン攻略したかもしれないとなればそりゃあな!?」
「勇者ファンと親衛隊と思わしき人物たちのブロックが神技」
「お、俺も行ってみるぜ! この騒ぎなら捕まりゃしないだろ!」
「お、おい、勇者氏に迷惑を掛けてはいけない!?」
「ちょっと、そこのあなた! 何しようとしているんですか!」
「ひっ!? ちょっとした出来心だったんだーーー!」
「……この混沌が心地良い」
◇
ハーッハッハッハー!
俺は帰ってきたー!
いやぁ、楽しかったねぇ〈クジャ〉の周回。
初めてのHPバーが3本あるボスの周回ではあったが、シエラのジト目にさらされつつも13周も周回してしまった。
倒すのが少しだけ大変ではあるが、慣れてしまえばどうということはない。
最初は25分以上掛かっていたが、だんだんとそのタイムも短くなり、最後は20分ほどで倒すことが可能になっていた。パーティメンバーも一段とスキル回しに磨きが掛かった感じだな。
報酬はすっごいぞ、あれから〈金箱〉は3回出て内2箱は〈上級転職チケット〉だった。さっすが上級、この調子でどんどんチケットを落としてくれ!
そして最後の1箱だが、これはなんと装備シリーズのレシピ全集が入っていた。
その名も〈勇敢愛護シリーズ全集〉だ。完全にルル用装備だな! これもマリー先輩に渡しておこう、きっと驚くぞ~、ふはははは!
〈イブキ〉や〈勇敢愛護シリーズ全集〉の要求素材が嵩んでしまったがそこは安心。新しいカルアの装備、〈増幅闇短剣・コウセイ〉のドロップ2倍のおかげで素材もがっぽがっぽだ。
〈イブキ〉は最上級品を作りたければレアボス素材を狙わなければいけないが、とりあえずは間に合わせで良いので〈クジャ〉素材を使った上級品を先に作ってもらおうと検討している。
最上級品を作るには生産職の方もLVをがっつり上げなくちゃいけないしな。これはもうちょっとしたら作ってもらおう。
そんな感じで初の上級最奥のボス周回は終わった。
帰るとき転移陣を起動させるか否かは少し迷ったな。
これはゲーム〈ダン活〉の裏技なのだが、上級のダンジョンギミックはボスと連動している。ボスがギミックを起こしているという設定だからだ。
つまり、ボスを倒した状態で〈転移水晶〉で帰還すればボス部屋にボスは不在となり、ダンジョンギミックが起こらなくなるというテクニックがあった。
一度攻略したダンジョンでギミックが発動するのはうっとうしいという声に配慮したRPG系あるある設定だな。
とはいえここはリアル。他にも必死に〈嵐ダン〉を攻略しようと頑張っている人たちがいるので妨げてはいけない。
ということで普通にボスを復活させてから〈転移水晶〉を使って最奥から帰還した。ふっふっふ、これでもう一度〈転移水晶〉を使えば最奥に転移出来るという寸法よ。〈クジャ〉よ、日を改めてまた挑んでやるからな!(クジャ「グア!?」)
そして帰ってきたら、〈上下ダン〉は人で溢れていた。
いやあ、ずいぶんここも人が増えたものだ。
それもこれも学園が〈転移水晶〉と〈霧払い玉〉の併用を伝え、ランク2の〈霧ダン〉を上級ダンジョン入門口にしたおかげだろう。
そのおかげでAランクギルド以上は〈霧ダン〉へ進出できるようになり、〈上下ダン〉はかつて管理者しかいない殺風景だったころとは打って変わって大盛況となっている。
まあ、ここに集まっているのは大体が野次馬らしく、まだ入ダンしているギルドは少ないらしいがそれも時間の問題だろうな。
「予想通り、見られているわね」
「今回ばかりは仕方ありません。堂々としていましょう」
見られるのが好きではないシエラが眉を下げて周りを見渡し、エステルは肩をすくめた。
ラナが振り返って俺の胸に着けている攻略者の証をジッと見つめた。
「ゼフィルスが着けている攻略者の証、すっごく目立ってるわね」
「いやぁ目立っちゃうなぁ、参ったぜぇ」
「ん、全然参ってなさそう」
攻略者の証をゲットしたらまず身に着ける。基本だ。ラナたちは装備の見た目上、胸に攻略者の証を着けたがらないので着けていないが、俺は堂々と胸に着けている。よって注目されているわけだ。
いやあ、注目されて参ってしまうな!
しかし、ラナの声が聞こえたのだろう、周りが一層ざわついたかと思うと、まずラムダが寄ってきた。
「ゼフィルス、もしかしてそれは」
「おお、ラムダ。なんだか久しぶりだな。これか? ふっふっふ、見るが良い」
「これは! 〈嵐ダン〉の攻略者の証に間違いない!」
よほど気になっていたのだろう、ラムダが単刀直入に聞いてきたので見やすいように角度を調整して見せてあげた。
ラムダの一言によってさらに〈上下ダン〉内がざわめくと、傍観していたと思わしき学生たちが詰め寄ってきた。
「あ、あの! ゼフィルスさんですよね!? 上級ダンジョンを攻略したって本当――」
「はいそこのあなた、こっちでお話しましょうね」
「ひゃ!?」
そして1人連れて行かれた。
しかし、それには目もくれずどんどん人が詰め寄ってくる。
「あの!? 〈嵐ダン〉を攻略したんですか!?」
「5人パーティで最奥まで行ったのですか!?」
「あの! 攻略のコツを!」
おおう! 俺大人気だな!
ふはははは! どんどん聞いて良いぞ! でも順番にな。そんないっぺんに言われても困っちゃうぜ、ふはははは!
詰め寄ってきたのは女子が多かった。
男子も突撃してこようとしたようだがすぐに女子たちに弾かれてしまっている。
相変わらずこの世界の女子は強いな!?
学園に来た当初の勧誘合戦を思い出したぜ。
しかしシエラとラナがそれを見てなぜか鋭い目に変わり始める。
おおう。なんだかヤバそうな雰囲気だ。背筋に寒気が。
こ、こほん。ここはいけない。なんだかこれ以上浮かれると怒られてしまう気がするのだ。なんとかしなくては。
そう思っていたところ、そこへ腰の曲がった小さな影が入ってきた。
「はいはいどいたどいた。あんまり帰ってきたばかりの子たちを困らせるもんじゃないよ」
「ケルばあさん!」
ここの管理人、ケルばあさんだった。
「お疲れ様〈エデン〉のみな。さて、帰還手続きをするからこっちにきな」
「了解。――そう言うわけだから悪いがまたな~」
ちやほやされるのは嫌いではない。むしろ好きだ。
でもあのままだとラナとシエラに怒られてしまいそうだったので即で話に乗る。ふ~助かったぜ。
「ゼフィルス、後で話があるわ」
「シエラ、その話、私も参加するわ!」
「もちろん、歓迎するわラナ殿下」
どうやら手遅れだったらしい。
俺たちはその後、受付にいた知らない女性の管理人さんにしっかりダンジョンから帰還したという手続きをしてもらう。
少し前まで受付にはケルばあさんしかいなかったが、今ではこうして別に受付を入れる程に〈上下ダン〉は賑わっているのだ。
ケルばあさんは例の見きわめに注力し、手続きやらなんやらは別のスタッフがやるとのことだ。
「気をつけて帰りなさい」
「また来まーす!」
名残惜しそうにこっちの様子を見る先輩方の視線を受けながら、俺たちはギルドへと帰還した。
〈上下ダン〉を出て帰る途中、多くの学生が〈上下ダン〉に向かって走る光景を見かけたが、きっと俺たちに触発されて上級ダンジョンに挑もうとしたに違いない。
良い傾向だ。みんな、頑張れ!
そして帰還したギルドハウスで待ち受けていたのは「パン」「パパパン」というクラッカーの音と紙吹雪の雨だった。
「「「「上級ダンジョン攻略、おめでとう~~~!!」」」」
「おお!」
「わあ!」
思わずビックリ。
俺とラナが驚きと嬉しさの混ざった声を上げる。
ギルドハウスの中はなんと、色々な飾り付けでいっぱいだったのだ。
これは俺たちが帰還してからギルドに戻るまでには作れないほどの規模だった。
さては俺たちがダンジョンに出発してから示し合わせて作っていたな?
見事なサプライズおめでとう~だった。
驚きが治まり、俺は片手を軽く挙げてギルドハウスに勢揃いするメンバーたちにお礼を言いながら入室する。
「みんな、ありがとな! まさかサプライズを用意してくれているとは、ビックリだぜ」
「うん! ゼフィルス君なら絶対上級ダンジョンだって攻略して帰ってくるって思ってたから!」
「このサプライズはハンナさんの提案ですのよ」
代表して応えてくれたのはハンナとリーナだった。
おお! ハンナが考えたのか!
それでギルドをまとめて、本当にできるかも不明な上級ダンジョン攻略の祝いの席を用意しちまったのか~。
「私だけじゃないよ。リーナさんもセレスタンさんも、みんなが協力してくれたの!」
「そうか~」
嬉しさがこみ上げる。
信じて待っていてくれるギルドメンバーがいる。
俺は、とても幸せ者なのだとこの時深く思った。
ジーンとくる心の衝動のまま、俺は胸の攻略者の証を外し、その手に持って掲げ、ギルドメンバーに発表する。
「ありがとなみんな、凄く嬉しいぜ! 期待通り俺たちは、上級ダンジョンを初攻略したことを、ここに発表する!! これが上級下位ダンジョンが一つ、〈嵐ダン〉の――攻略者の証だ!!」
「「「「わああああああ!!」」」」
ギルドが大歓声に包まれた。
「さあ打ち上げだーー!!」
第十七章 -完-




