#857 レアイベントの〈金箱〉は――激レア。
「〈幸猫様〉〈仔猫様〉ありがとうございます!」
それを見た瞬間、俺は即〈幸猫様〉にお礼を言いながら〈金箱〉に飛びついた。
今度は逃さないんだぜ。
横を見ればカルアも〈金箱〉を確保していた。早ぇ! そしてあぶねぇ!?
「あ! ゼフィルスに取られたわ!」
「ん、ラナ、一緒に開けよ?」
「え? カルア一緒に開けてもいいの? ありがとカルア。ゼフィルスはカルアを見習いなさい! 次はゼフィルスが一緒に開けるのよ!」
「ええ~」
それは次回一緒に開けなさいというお誘いだろうか?
まあ、それはそれで嬉しいので問題は無い。
しかし一瞬不満そうな声が出てしまったことにより急にラナがしおらしくなる。
「な、なによ、私じゃいやなの?」
少し不安そうに上目遣いで見上げてくるラナがグッドです。
もう少し堪能していたいが、さすがに可哀想なので俺は首を横に振る。
「そんなことないぞ。もちろん構わない。じゃあ、次〈金箱〉が出たら一緒に開けるか!」
「ふふ、約束よゼフィルス!」
「おうよ」
ラナに笑顔が戻った。
ラナの表情の変化はいつも見ていてホッとするのだ。
「これは、私も約束を取り付けるべきかしら」
「今のタイミングで行けば、ゼフィルス殿なら「じゃあ全員でやろう」と言いそうですね」
「……難しいわね」
シエラがなぜか難しい顔を、エステルがニコニコとそれぞれしながら俺とラナの様子を見つめていた。どうしたのだろう?
「シエラたちも一緒に開けるか?」
「! 開けるわ」
「あ!」
俺の言葉にいつもの表情に戻ったシエラがスッと俺の横に来た。ラナがそれを見て眉を吊り上げる。
ラナの次にって意味だったんだけど。まあ今回でも問題ないな!
何しろ、今回は徘徊型だ。しかもレアイベント、もう絶対良いのが入っているの確定だもんな! みんなで分かち合わなければ!
そんなわけで俺はシエラと、カルアはラナと一緒に開けることになった。
エステルはニコニコ微笑みながら〈幼若竜〉を準備している。
なぜかラナは「むむむ」と何か言いたげだったが、カルアを見て言葉を飲み込んでいた。
悪いなラナ、次は一緒に開けるからと心の中で言っておき、シエラと横並びで宝箱の前にしゃがみこむ。
「徘徊型の〈金箱〉ということは、レアボス並のドロップが出てもおかしくは無いってことよね?」
「ふっふっふ。実はそうなんだ」
このレアイベントの美味しいところである。
〈嵐ダン〉では徘徊型と強制的にバトルするイベントが起こる。
攻略の邪魔をしようと仕掛けてくるのだ。
「宝箱の中身を取ったら襲ってくるって、お前守護型じゃなくて徘徊型だろ!? いつの間にジョブチェンジしたんだ!?」と何度かツッコミを受けたイベントだ。
そしてこのイベントの良いところは徘徊型と強制的にバトルする他、なんと徘徊型が逃げないところだな。
普通徘徊型は危険水準までダメージを負えば逃げる。
しかし、このイベントでは逃げる行為は確認されていない。
それはさっきの戦闘でも明らかだったな。いや、さっきの戦闘では囲ってぼこったので逃げる隙なんてそもそもなかったか? まあいい。
そして確実に撃破できれば待っているのは〈金箱〉確定だ。さすがはレアイベント様だ。レアイベントではかなり激レアなレアドロップが落ちやすいんだ!
しかも今回、二つも〈金箱〉が落ちた。期待するなと言うほうが無理である。
「みんな、全力だ! 全力で〈幸猫様〉と〈仔猫様〉に祈るんだ! 〈幸猫様〉〈仔猫様〉お願いします! 後でたんまりとお供え物をさせていただきます!」
「いいものください。〈幸猫様〉〈仔猫様〉、よろしくお願いします!」
「お願い〈幸猫様〉〈仔猫様〉!」
俺の言葉と真摯な祈りにラナとカルアも続く。
何しろ、ひょっとすれば上級中位級のドロップが手に入るのかもしれないのだ。
みんな真剣度が違う。
それはシエラとエステルも一緒だ。
ここで祈らなきゃいつ祈るの! うおおおおおおお! 〈幸猫様〉〈仔猫様〉! どうか俺に幸運をお与えください!!(すでに与えています)
「シエラ開けるぞ!」
「ええ。いつでもいいわ」
俺が右、シエラが左から手を添えて、ゆっくりと宝箱を開いていく。
そうして中から出てきたのは――レシピ!
取り出した瞬間にエステルに即『解読』してもらうと、俺ですらビックリするくらい激レアな〈乗り物〉装備のレシピだった。
「こ、これは!?」
「何、これ? 乗物なの?」
「マジか、すげぇ激レアだぞこれ! まさかここで出るとは思わなかった! これはパーティを乗せることが出来る〈戦車〉だぞエステル!」
「パーティを乗せられる戦車、ですか!?」
いつもは冷静沈着な俺(?)が取り乱すほどの一品。
〈幼若竜〉を抱っこするエステルも俺を見て呆然と呟いた。
それは〈乗り物〉〈馬車〉〈戦車〉のカテゴリーを持つ、アクセサリー装備。
―――〈浮遊戦車イブキ〉のレシピだった。
今エステルが装備している〈蒼き歯車〉は1人用。仲間を乗せることは出来ない。
しかしこれはパーティを乗せて移動することが可能な〈馬車〉としての性能も持っている。
完全に激レア装備。レアボスか徘徊型か希少ボスからしかドロップしない、上級ダンジョン攻略用の乗物であり、同時に戦闘にも参加できる〈戦車〉系統でもある。
おいおいおいおい、レアボス周回できるようになったら絶対〈乗り物〉出るまで周回しようと思っていたのに、奥に着く前に出ちゃったよ上級〈乗り物〉!?
マジか、マジか!! しかも上級中位級の〈イブキ〉だと!?
と、とりあえず落ち着け、落ち着くんだ。まず言うことがあるだろう?
そう、〈幸猫様〉たちに!
「〈幸猫様〉〈仔猫様〉! ありがとうございます! 後でお供えたっぷりさせていただきます!」
今日は豪勢に行こうじゃないか! ふははははは!!
〈幸猫様〉と〈仔猫様〉がニコっと微笑んだ気がした。
「ちょっとゼフィルスしっかりしなさい」
おっと、俺とした事が、若干トリップしてしまったか?
シエラに肩を揺らされてようやく我に返ることに成功した。
「ふう。まあ待て、少し落ち着こう。ラナとカルアのほうを見ようぜ」
「落ち着くのはゼフィルスだけだと思うのだけど」
シエラが微妙にジト目になりつつあって俺のテンションがまた上がりそうになるが、なんとかラナたちの方を見て落ち着こうと試みる。
「もう、そっちが気になって仕方がないわ」
「悪い悪い。後でラナたちにも見せるから許してくれ」
「わかったわ、ゼフィルスたちよりも良い物を当てるのよカルア!」
「ん、お祈りはいっぱいした。開ける」
「いくわよ、せーの!」
今までの期待を込めに込め、ラナが左、カルアが右から宝箱を開ける。
俺たちは全員でそれを覗き込んだ、そこに入っていたものは――一振りの短剣だった。
「武器よ!」
「ん! 短剣!」
「カルアの新装備になるかもしれないわね」
ラナとカルアが目を輝かせ、シエラもにっこり微笑む。
それは刃渡り30センチメートルほどの、やや大きめの短剣。
刃が黒く、闇属性を纏っているのを教えてくれる。
それの効果を知っている俺からすれば、これまた当たりの短剣だ!
早速エステルを手招きして〈幼若竜〉で『解析』してもらおうとする。
「よしエステル、早速『解析』だ!」
「はい!」
「カルアが持って良いわ! 取り出してみて」
「ん!」
黒く、しかしツヤがあり、小さな黒刀とも言えるそれの柄を掴み、カルアが取り出した。
すぐにエステルが抱っこした〈幼若竜〉で『解析』する。
「出ました。〈増幅闇短剣・コウセイ〉ですね。効果は――え? モンスターの素材ドロップ2倍ですか!?」
「「え!?」」
エステルの言った言葉に目を見開いたラナとシエラが慌てて詰め寄った。
「いえ、すみません、全てのモンスターでは無いです。えっと爬虫類型に限られるようで、トカゲ系、恐竜系、怪獣系が該当するようです」
「もう、脅かさないでよエステル」
エステルの次の言葉に安堵の息を吐くラナとシエラ。
そりゃ全てのモンスターの素材ドロップ2倍は強いわ。
そう〈コウセイ〉は爬虫類モンスター限定だが、止めを刺したとき素材ドロップが2倍になり、キラー系能力も兼ね備えた強力な武器だ。
パメラが使っている〈解体大刀〉と同じ系統の効果だが、あっちは初級産で通常モンスター限定なのに対し、こっちはボスも素材ドロップが2倍になるという破格の性能である。
かなりのレアだ。ボス周回が捗っちゃうかもしれない!?
また、上級下位のランク9では恐竜のさらに上、怪獣が登場するのでそこでも活躍するだろう。
当然、これはカルアが装備することになった。
初のレアイベント戦、大当たりだ!




