#853 ボスのターンは一瞬で終了。そして〈金箱回〉!
「やってきました〈嵐ダン〉45層!」
「まずは〈風除けの指輪〉発動よ!」
すでにするべきことが分かっているメンバーたちが流れるようにルーティーンをこなす。
〈風除けの指輪〉で突風ギミックをバリアした。今日はラナが担当らしい。
これで中級と変わらずの探索が可能だな。
「45層のフィールドボスがリポップしていますね」
「ん、『エージェント猫召喚』! みんなよろしく。――『ソニャー』!」
「「「にゃー」」」
カルアがある程度周りを調べてくれるまで、俺たちはショートカット転移陣の近くから動かない。
この周囲は狭いが救済場所だ。ボスに攻撃しないかぎり安全だな。
45層の前には守護型のフィールドボス、〈ジェネラルリザードマン〉が跋扈しているが、すぐに攻撃を仕掛けたりはしない。
しっかり索敵して、近くに他のモンスターやボスが居ないことを確かめないと、ダブルエンカウントする可能性がある。警戒すべき徘徊型や階層ボスが近くにいれば戦わずにスルーだ。
「ん。ボスは周囲にいない。でもモンスター、いる、あっち」
少しするとカルアから報告。
「サンキューカルア! モンスター避けのアイテムを使ってボス戦だ!」
「「「「おおー」」」」
というわけで、いきなりボス戦だ!
こいつと戦うのは2回目だけどな!
カルアが探知したモンスターのいる方角へモンスター避け用の〈モンスターケムリン〉というアイテムを投げておく。これはモンスターが近寄らない煙を出すアイテムだ。
移動中は使えないが、ボス戦で他のモンスターの参戦を阻止するのなら有用なアイテムだな。
上級ボスと相対するのもだいぶ慣れてきたように思う。
中級ボスとはステータスがえらい違いだし、敵の行動バリエーションも増え、一部の防御スキルを無力化してくるボスも現れるほどだ。
だが、全員が上級装備にアップデートした俺たちの敵では無い。
「カアアアアア!!」
「くっ! ですがこの程度、大したダメージではありません! 『閃光一閃突き』!」
エステルだってスピードで翻弄している時にダメージを食らってしまうこともある。
しかし、そのダメージは大体2割弱、多くても4割もいかない。
そうなると継続回復だけでも割と戦えるレベルになってしまい、ラナはヒーラーよりまたバッファーとアタッカーの比率の方が多くなっていた。やっぱ継続回復が強いよ。ヘイト貯まらないし。
大きさ3メートルを超え、中級に出た〈ジェネラルブルオーク〉より立派な全身鎧に身を包んでいた〈ジェネラルリザードマン〉も大して良いところは無く、最後の最後で怒りモードになって暴れるも、俺たちを倒すには足りない。
「行っけー! 『聖光の耀剣』!」
「うおりゃー『サンブレード』!」
「カアアアアアア!?」
「エステル、止めだ!」
「行きます。―――『戦槍乱舞』!」
「カア…………」
たとえ怒りモードになってステータスが5割増しになっていても関係無い。
防御力に不安が無いため踏み込む事が可能だ。
ラナには継続回復を切らさないよう気をつけてもらいつつ、トドメの攻撃。
ラナの耀剣がズドンと刺さったところで俺も『サンブレード』をぶつけてきっちりHPを削ると、ボスの斜め後ろに回り込んでいたエステルがトドメを刺した。
これくらい余裕なら最奥のボスも勝てるだろう。
エフェクトに沈んでいく〈ジェネラルリザードマン〉を見ながら俺はニヤリと頷いた。
しかし、すぐに目を見開く。
そこには〈金箱〉が二つもドロップしていたからだ。
「「「〈金箱〉が二つも!!」」」
俺、ラナ、カルアの声が見事にハモる。
フィールドボスからの宝箱は通常一つ。つまりは〈幸猫様〉の恩恵。
「イエス、〈幸猫様〉バンザイ!」
俺はボスの目の前に居たので、宝箱が目の前にあるのは自然の摂理。
二つあるのだからどっちかは俺のだろう! そんな余裕から両手を挙げてバンザイした。
「何が入っているのかしら?」
「ん。久しぶり」
そして気が付いたらそれぞれの〈金箱〉の前にしゃがみ込んだラナとカルアがいた。
あっれぇぇぇぇぇ!?
「早くね!? というか速くね!? どんなスピードしてんだ!?」
「ゼフィルスが隙だらけだったから、開けてもいいのかしらって思ったのよ」
嘘だろ!?
最近、ラナとの宝箱争奪戦で敗北が目立つ俺。ラナめ、腕を上げてきている。
「でも本当に久しぶりの〈金箱〉ね。最近は隠し部屋ならともかく、ボスからのドロップはほとんど〈木箱〉か〈銀箱〉だったもの」
「はい。私もそのように記憶しています。隠し扉の〈金箱〉は全てラナ様たちがお開けになりました。全て良いものでしたからこれも期待が持てますね」
シエラとエステルがゆっくり歩いて来ながら、期待を込めた視線を〈金箱〉へ向ける。
実は最近、エリアボスを見つけ次第積極的に狩ったのにもかかわらず、〈金箱〉のドロップはゼロだったんだ。
俺の〈幸猫様〉への信仰が薄れたわけではないはずだ。
証拠に今日はたくさんお供え物してきました。これがその成果である。
ふはははは!
ちなみに〈木箱〉〈銀箱〉の中身でも立派な上級装備、アイテム、素材なためこれらは後日、妥当な値段を付けて〈エデン店〉で売りに出す予定だ。楽しみである。
また、隠し扉は出来るだけ回るようにしていた。〈嵐ダン〉の隠し扉には上級下位ダンジョンを攻略するための様々な装備やアイテムが手に入る。特にダンジョンギミック救済アイテムの確保は必須だ。俺たちはここまで来るのにさらにランク5~ランク8までの救済アイテムのレシピをゲットしていた。
次は55層でランク9とランク10の救済アイテムが隠されている。これだけは絶対にゲットする予定だ。
「うーん、そうね。隠し扉の中ではたくさん開けさせてもらったし、今回はシエラとエステル、開けてみる?」
「俺は?」
ラナが顎に指を当てるちょっと可愛いポーズでシエラとエステルに聞いていた。
一応俺も聞いてみたのだが、今回はシエラとエステルの番にするのだそうだ。
なら仕方ないな。
「カルアはどう? 開けたい?」
「ん、いい。見てる」
「ありがとねカルア」
場所を交代し、ラナとカルアが退いてシエラとエステルが〈金箱〉の前にしゃがむ。
シエラの後ろから覗き込む構えだ。〈金箱〉を開ける瞬間は本当にドキドキするな!
「開けるわね。……〈幸猫様〉と〈仔猫様〉、お願いします」
「「「お願いします!」」」
シエラもお祈りが板に付いてきたな。うむうむ、いいことだ!
きっと良い物が当たるだろう。俺も〈幼若竜〉を抱っこして見守った。
シエラが意を決してパカリと開けると、そこから見えたのは、植木鉢に植えられた木だった。
俺はそれを理解してテンションが上がる。
「おおお! ギルド設置アイテムの〈成樹〉系か! シエラとりあえずそのままにしておいてくれ、すぐ鑑定する! 〈幼若竜〉様、お願いします!」
この木は、以前レアモンスターの〈ゴールデンピップス〉通称〈ゴピップス〉を倒して〈精霊樹の苗木〉をゲットしたときにチラッと話した、上級からゲット出来る〈成樹〉系のアイテムだ。
主にギルドハウスの庭に植える物で、時間経過でアイテムや素材を落っことす。
〈成樹〉の種類によって落とすアイテムは変わるのだが、さすがに俺も〈成樹〉は鑑定無しで見分けることはできないので〈幼若竜〉に『解析』してもらった。
宝箱から取り出すと、多分デッカくなってしまうので入れたままだ。
すぐに『解析』結果が出る。
「出たぞ! これは、〈精霊樹の成樹〉だな! って〈精霊樹〉かよ!」
学園が欲しがっていた〈精霊樹の苗木〉の上位互換出ちゃった!
〈精霊樹〉が落とすのは復活系アイテムを作るのに必要な素材系だ。
多分、今でも学園が一番欲しいものだろうな。それが出た!
「〈精霊樹〉ですって? それの成樹?」
「間違いないのですかゼフィルス殿?」
ほら見ろシエラとエステルのこの食いつき、このアイテムが非常に希少で有用なものの証拠だ。
中級上位ではたとえレアボスからでもドロップしないものだからな。
「成樹、これはまた大変なものがドロップしたわね」
「これから上級ダンジョンで大攻略時代が訪れます。その時に復活系アイテムは非常に需要が増すでしょう」
そうだな。エステルの言うとおりだ。
シエラとエステルがどうしようみたいな雰囲気を出して俺を見上げていた。
「もう、そんな細かい事は後で考えれば良いわ! 今は有用なアイテムがドロップした事を喜びましょうよ!」
「はっ、そうですね。ラナ様の言うとおりでした」
「そうね。まずは喜びましょう」
ラナの言葉にエステルがハッと目を覚ましたかのようにして、シエラも顔を綻ばせて頷いた。
やっぱりラナはこのパーティのムードメーカーなんだと改めて認識した一幕だったな。
結局〈精霊樹の成樹〉は宝箱から取り出すと同時に素早く〈空間収納鞄〉に収納することでなんとかバッグに入れることが出来た。取り出したら10メートル近いものだからな。入ってよかった。入らなかったら持って帰れないところだったぜ。
さて、続いてはエステルの方の〈金箱〉だな。
と期待を込めてエステルが開けると、中身は――〈上級転職チケット〉だった。
まあ〈金箱〉3回開ければ1回くらいの確率で出るからな!




