#834 上級職を増やそう! チケットを使うのは君だ!
「ダンジョン週間に突入したため、まずは上級職を増やそうと思う!」
上級ダンジョンで20層を攻略して戻ってきて翌日、今日は日曜日。
俺はテンション高くギルドハウスの大部屋に集まったメンバーたちに宣言していた。
「ついにやるのね」
「また上級職がたくさん増えるのね! 今〈上級転職チケット〉は何枚くらいあるのゼフィルス?」
シエラとラナの言葉に頷き、〈空間収納鞄〉からそれをペラリと取り出して俺は発表した。
「現在〈エデン〉が持っている〈上級転職チケット〉は、なんと6枚だ!」
「「「「6枚!!」」」」
「「「「おお~!」」」」
そのチケットに大注目してざわめくメンバーたち。
現在俺たちのギルドで上級職に就いているのが、俺、ハンナ、シエラ、ラナ、エステル、カルア、リカ、シズ、リーナ、タバサ先輩、ニーコ、アルル、カイリだ。
合計13人。
これ、現在の〈迷宮学園・本校〉のギルドの中でもAランクギルドに匹敵する人数らしい。
そこからさらに6名追加だ。合計は19人になる。
評価はSランクギルド並となるだろうな。
う~む。たった19人でSランクギルド並となってしまうのだから、この世界はやっぱり弱い。まだまだたくさん〈上級転職チケット〉を集めさせないと!
「それでゼフィルス。今回は誰を〈上級転職〉させるのだろうか?」
おっと、考え事に集中してしまった。メルトの言葉に呼び戻される。
「そうだな。〈アークアルカディア〉には悪いが、近々〈エデン〉は防衛戦をすることになるだろう。そのため今回は〈エデン〉メンバーが対象になる」
「「「あ~」」」
俺の言葉を聞いて〈アークアルカディア〉の面々から少々落胆の声が漏れた。
しかし、これは譲れないのだ。
〈アークアルカディア〉の面々が〈エデン〉に昇格したくても、今の〈エデン〉は20人在籍しているので枠が無い。枠を作るにはBランクギルドになる必要がある。
ギルドがBランクに上がるためには「防衛戦で1回勝利」が条件となっている。
つまりCランク戦だ。
Cランク戦とは〈15人戦〉。15人の選手が出場することになる。
現在、〈エデン〉の上級職は10人、〈アークアルカディア〉が3人だ。
その内〈エデン〉のハンナが生産職なので戦闘職のギルドバトルには不向き、ということで除外され9人。あと上級職の戦闘職が6人欲しいところ。
おお! 今〈エデン〉の持っている〈上級転職チケット〉でぴったりだ。
というわけで、今回の〈上級転職チケット〉は〈エデン〉で全て使いたい訳だな。
「〈15人戦〉、相手全員が上級職か……」
メルトがなぜかとても遠くを見つめた目をしてぼそりと言っていたが、これがCランク戦の普通だぞ? 負けるとランク下がるし、上級職でメンバーを揃えるのが最低限の条件だ。
確かに、今のこの世界ではこれだけの上級職は過剰戦力かもしれないが、〈上級転職チケット〉の取り方は学園に伝授したのだ。近い将来、俺の常識に世界が追いついて来るさ!(※まだまだ遠い)
「では、〈上級転職〉してもらうメンバーを発表する」
俺のその言葉にざわめいていたメンバーがピタリと静かになった。
聞き逃さないという気迫みたいなものを感じるかもしれない。
「今回〈上級転職〉してもらう人は、ダンジョン、ギルドバトル、どちらか、もしくは両方に秀で、足りないポジションを埋めるメンバーを選出させてもらった。つまりこのポジションが欠けると困るというところをメインに選ばせてもらっている。まずはなんにしてもタンクが必要だ。ということでラクリッテ」
「う、うち!? こ、こほん。私ですか!?」
驚きすぎて一瞬素が出たラクリッテが飛び上がる勢いで反応した。
「今後の上級ダンジョン進出も視野に入れているからな。安定した盾タンクは是非とも欲しいんだ。頼むぞラクリッテ」
「わ、分かりました! 精一杯頑張ります!」
「続いて同じタンク枠で選んだ。パメラ」
「やったデース!」
「そしてアタッカーからタンクまで出来るルル」
「わーいなのです!」
2人は席が隣通しだったため、立ち上がってハイタッチしていた。
諸手を挙げて喜んでいる。尊い。良いリアクションだ。
「ルルはデバフアタッカーでもあって非常に強いからな。擬似タンクも可能でパーティ全滅の防波堤にもなれる。頼りにしているよ」
「まっかせるのです! 守って戦って勝利を掴むのです! ルルにお任せなのです!」
「可愛い。――こほん、パメラは避けタンクだ。上級なので難しいところはあるかもしれないが、嵌まれば強い。メインタンクと一緒に2タンクで挑めば安定して戦えるだろう」
「上級職になるからには全部避けてやるのデース! 盾タンクの仕事を奪う気持ちでやってやるのデス!」
「その意気だ。――続いてヒーラーポジションで、ミサト」
「良かった~呼ばれた~」
「そしてアタッカーしつつサブヒーラーもこなせる、メルト」
「そうか。ようやく上級職になれる。今度は相手の上級職にも遅れは取らん」
ミサトは安堵のため息、メルトはまだ〈テンプルセイバー〉戦で上級職のカサンド先輩と相打ちになったことを気にしているらしかった。まあ下級職の時に上級職を相討ちで倒せたんだから、メルトが上級職になれば問題なく勝てるだろう。
「2人とも、よろしく頼むぞ。ダンジョンではヒーラーが頼りだ。メルトもサブヒーラーとして厳しいときはサポートしてくれ」
「任せてよ! いっぱいヒールするよ!」
「俺はサブヒーラーか。ダメージが大きい上級ダンジョンでは俺も回復を意識しよう」
現在の〈エデン〉の上級ヒーラーはラナとタバサ先輩の2人だけだった。そのためミサトは確定。メルトはサブヒーラーポジションだ。パーティが危ないときは頼りにしているぞメルト。
「さて、最後のメンバーだが」
まずアイギスとシャロンだが、アイギスはまだ上級職【竜騎姫】の条件が満たせておらず、シャロンはレベルが足りていないので今回は見送る。
残ったのは純アタッカー枠のシェリアとレグラム、バッファー枠のノエルだ。
ルル、パメラ、メルトがアタッカーもこなせるため、バッファーのノエルを採用しても良いところだが、ダメージディーラーとして魔法アタッカーのシェリアか、物理アタッカーのレグラムを入れても良い。
なんとも難しいところである。
俺は一度目を瞑り、そして一つ頷いて決めた。
「散々悩んだんだが、やはり上級ダンジョンでは探知系が有効だ。そこが決め手になって、ノエルを上級職とする」
「わ! やったー!!」
両手を上に挙げるポーズで飛び上がって喜ぶノエル。
ノエルはバフの他にも探知系の『サウンドソナー』を始め、回復や状態異常攻撃など、幅広いスキルを獲得できるオールマイティ職だ。
そこが今回の決め手になった。
「シェリア、レグラム、アイギス、シャロンは悪いな」
「なんてこと、これではルルと離れ離れになってしまうではありませんか」
「大丈夫なのですよシェリアお姉ちゃん、ルルはいつもここにいるのです。いつでも会えるのです!」
「俺は構わない。レベルもカンストに届いたばかりだからもう少し今の職業の理解を深めてからでも良いと思っていた。それにオリヒメとこれからもダンジョンに潜れるしな」
「れ、レグラム様」
ルルと一緒にダンジョンへ潜れないことにガーンとなったシェリアが嘆くが、ルルに励まされて、ついでにギュッと抱きしめて元気が戻った。
レグラムのほうは婚約者といちゃついていた。
「アイギスは中級上位ダンジョンの攻略者の証を五つ獲得できたら〈上級転職〉させたいと思う。それまでもう少し待ってくれ」
「わかりました。では早く中級上位ダンジョンを攻略しなくてはいけませんね」
「シャロンはレベルがまだ足りていないからな。悪いな」
「ううん、大丈夫だよ~。それに私は〈転職〉したばっかりだしね。今回は選ばれるって最初から思ってなかったから」
アイギスとシャロンは元々今日〈上級転職〉できるとは思っていなかった様子ですんなりだった。
そう言ってもらえると助かる。
これで〈上級転職〉するメンバーは決まった。




