#824 最終形態ロケットパンチャーモード――決着!
さーてとうとう第三形態、〈ヘカトンケイル〉の最終形態が登場だ。
まだ変形途中だが関係ない。今が隙だらけの大攻撃チャンス!
とにかく攻撃して攻撃して、攻撃してHPを削るのだ。
「〈ヘカトンケイル〉の鎧が剥げた! 遠距離攻撃ガンガン撃てー!」
「『祝砲』! 『先手必勝』ですわ!」
「私の出番ね! 『大聖光の四宝剣』!」
「ラナ様に続きます『優雅に的確に速やかに制圧』! 『マルチバースト』! 『デスショット』!」
「『巨大手裏剣の術』デース!」
「『大精霊降臨』! 『ルクス』! ――ルクス様、お願いいたします!」
「首を狙う! 『アポカリプス』!」
「たはは~私も行くよ! 『サンクチュアリ』!」
「私の歌を効いちゃえ! 『マイクオンインパクト』!」
「ユウカ『魔装暴走』で行くよ! 『魔本・火炎爆撃』! 『魔本・ビッグフレアバースト』!」
「エミに合わせる。『魔装暴走』! 『魔弓・シャワーアロー』!」
「腕を封じます! 『姫の変幻結界』! 突き刺さってくださいませ!」
「わはははは、倒れてしまえー『3連バースト』! 『クイックショット』! ――やっぱり僕がアタッカーは無理がないかい?」
「エリサちゃんのダークなヒールを食らえー! 『反転ヒール』! 『ダークエリアハイヒール』! 『ダークドレインエナジー』!」
「『勇気』! 顔面狙いだ! 『サンダーボルト』!」
「ヴオオオオオ!」
〈エデン〉後衛陣からの一斉攻撃が突き刺さる。
第三形態への移行に警戒したり距離を取る選手も多い中、〈エデン〉に釣られて攻撃する選手も多い。
さっきまでの鎧装備時とは比べ物にならないほどのダメージが入っていく。
これは〈ヘカトンケイル〉が全性能を攻撃に極振りしたからこそのダメージだ。
〈ヘカトンケイル〉はHPが20%を下回るとああして全身の鎧が剥げて真っ裸になり、攻撃特化の第三形態、別名〈ロケットパンチャーモード〉に変身する。
なぜこのタイミングで防御を捨てるのか、残りHPが20%で防御まで捨てたら簡単にやられてしまう、そう思うだろう。
しかし、そうはならない。
ここからは〈ヘカトンケイル〉の逆襲が始まるからだ。
ほら、他の選手からも大量の攻撃を受けまくって残りHPが12%まで減った〈ヘカトンケイル〉だったが、ついに完全な第三形態に変身し終わったぞ。
そして一度蹲った体勢を取った。百の手が全身を覆うようにして攻撃の効きが弱くなる。
このタイミングで攻撃を中止、全力防御を展開する。
「ラクリッテ! シャロン!」
「は、はい! ポン! ユニークスキルは夢幻の巨塔――『夢幻四塔盾』!」
「了解! 要塞化しちゃいますよ! 『プリンセスヴァレション』!」
ラクリッテのユニークスキル、巨大な四つの塔の壁が立ちはだかり、そこへシャロンの防壁や城を要塞化してしまうユニークスキル『プリンセスヴァレション』が加わった。
するとただでさえユニークスキルでとんでもない性能を誇る『夢幻四塔盾』がさらに非常に強力なスキルへと強化される。最上級レイドボスの攻撃を受け止めることが出来るほどに。
これはゲーム〈ダン活〉時代のテクニックの一つで『夢幻要塞』なんて呼ばれていた防御系の合体ユニークスキルだ。蓋を開ければラクリッテのユニークスキルをシャロンが強化しただけなんだけどな。
それが完了した直後、グッと力を溜めた〈ヘカトンケイル〉が、今度はその力を解放する。
大量の腕がそこら中に発射された。
〈ヘカトンケイル〉の――全体攻撃だ。
「「「「うわあああああ!?」」」」
「「「「ほびゃああああ!?」」」」
そこら中から阿鼻叫喚が聞こえた。
〈ヘカトンケイル〉がその鎧の腕を全方向へロケット発射し、巨大なロケットパンチをそこら中に放ったからだ。しかも発射されたパンチは怒りモードで火力が上がり、さらに自動で戻って再発射されるという極悪機能付き。これが24秒も続く。
しかもこれの対処が難しい。ロケットパンチが吹っ飛んでくる位置がランダムなのでここに居れば安心、という安全地点が無いのだ。
確実に防ぐにはこうして巨大な壁や盾で防ぐしかない。後は、かなり距離を取ればパンチが来る確率を減らすことが出来るだろう。距離を取った選手たちはこれの対処法を知っていたらしいな。
近距離にいると高い確率で食らうので、防ぐ方法が無ければ距離を取って回避に専念するのが正解だ。
〈エデン〉は強力なユニークスキルの盾に、さらにユニークスキルの強化を加えた超硬い盾で防ぐことに成功。ガンガンガンガンズドンと巨塔が殴られているが崩れず、その裏に退避した〈エデン〉メンバーは全員無事だ。
しかし、今回3年ぶりの〈ヘカトンケイル〉戦、その最終形態の対処法を知っている学生はほとんどいなかったらしい。
今の一撃で相当な数が減ったと思われる。
おお、頭上のスクリーンに表示されている残り人数がもんのすんごい勢いで減っているぞ。
「はわ、はわ! こ、怖いです!?」
「だ、大丈夫だよラクリッテちゃん! ラクリッテちゃんの巨塔と私の要塞化があれば、防げない物なんて無いよ!」
当の本人であるラクリッテとシャロンが騒ぐ。
これが破られると〈エデン〉メンバーが全員やられるので責任重大。ラクリッテはプレッシャーと脅威的なパンチに恐怖で震えていて、シャロンが励ましていた。しかし、そのシャロンも空元気であることは誰が見ても分かる。プルプルと震えてらっしゃった。こんな時にも関わらずちょっと和む。
とそこにメンバーで無い声が俺の真横から響いた。
「いや~、しかし間一髪だったぜ。まさかこんな盾があるとはな! ゼフィルス助かったぜ」
「まさか、あの攻撃を防ぎきるとは、あっぱれだの」
「なんでいるんだガルゼ先輩」
俺の隣にいたのは相変わらず狐人の女性を背負ったガルゼ先輩だった。
どうやら俺たちが建てた盾に便乗して隠れに来た模様。
「まあまあ、細かいことを気にするな」
「まあ良いけどな。それでそちらは?」
「おう、こいつは今日の俺様の雇い主。〈百鬼夜行〉のギルドマスターだ」
「こんな格好で失礼するの、妾は〈百鬼夜行〉のギルドマスターをしている3年生のヨウカという。〈エデン〉のギルドマスターじゃな? よしなに頼むぞ」
「あー、〈エデン〉のギルドマスターのゼフィルスという。こちらこそよろしく?」
「うむ」
なんとヨウカ先輩はあのSランクギルド〈百鬼夜行〉のギルドマスターなのだ。ハクから何度か聞いたことがあったが、やっぱり本人だったか。まさかこのタイミングで会えるとはな。ガルゼ先輩に背負ってもらっている格好だけど。
ヨウカ先輩は雪のような銀髪に青い瞳、モフモフな大きい尻尾を持つ美人系の女性だった。こんなに美人なのにボスを攻略するためとはいえ、異性であるガルゼ先輩の背中に乗るとか気合いが入っている。今度じっくり話を伺いたいところだ。
「はは、君たちはこんな状況で自己紹介しあっているのかい?」
「ってユーリ先輩までいるのか」
ヨウカ先輩と自己紹介中、知った声に振り向けば、そこには黄金鎧で身を包むイケメン、もといユーリ先輩がいた。
後方にはそのパーティメンバーやラムダの姿まである。
どうやら〈キングアブソリュート〉も全員無事みたいだ。
後方をよく見れば他にも〈千剣フラカル〉のキリちゃん先輩やセーダン、〈サンハンター〉のアーロン先輩やミューなど、他何百人もの選手の姿が確認できる。
実は狙ってました。
あのロケットパンチをこのレベル帯で防ぐ手段は相当限られてくる。
というか俺たちのレベル帯じゃまず防げない攻撃だ。
それこそ、ユニークスキルの重ね掛けくらいしないと難しい。
実際防ぎきったギルドは〈エデン〉の他に一つだけだった。あそこは、〈ギルバドヨッシャー〉かな? さすがはSランクギルドだ! つまりはSランクギルド級じゃないと防げないほどの攻撃だったということだ。
故に選手の多くはここで退場する可能性が高かった。
だが、そこへ俺たちが前に出て壁になればどうか。
ラクリッテの塔はかなり高く広いので広範囲のロケットパンチを完全にシャットアウトしてしまう。耐久時間もシャロンの『プリンセスヴァレション』の効果で〈ヘカトンケイル〉の全体攻撃が止むまで保たれる。
つまり『夢幻要塞』の後ろにいる人たちは全員助かるのだ。
そうして助かったメンバーたちや、ガルゼ先輩のように危機感知ビンビンにして安全圏に滑り込んできた人物たちがここにいる人たちだった。
〈ヘカトンケイル〉の最強の大技、これによってなんとか第二形態を突破したが全滅したという年も多い。
それでも勝利率が高いのは、〈ヘカトンケイル〉がこの技を使うと最後はしばらく手が無くなってしまうので攻撃しやすいのと、鎧が剥げてダメージが良く通るので、遠距離に退避してなんとかやり過ごした少数でもギリ倒せるからだ。
さて、そんなわけでスクリーンを見ると残り人数は――872人。
2400人くらいが今ので退場したようだが、十分すぎる人数が生き残ったな。
「ヴォォォォ」
「よし、攻撃は止んだし、トドメと行きますか! ユーリ先輩、お願いしますね」
「はは、ゼフィルス君にはいつも世話になるね。――よし! 全員聞け! このチャンスを逃すな! 我らが勝利を掴むのだ! 行くぞ! 一斉攻撃だ!!」
「「「「「おおおおおおおおお!!!!」」」」」
ユーリ先輩が体からオーラを放ち剣を掲げて宣言すると、まるで地鳴りのようなおたけびがそこら中から鳴り響き、選手全員が一斉に〈ヘカトンケイル〉へと躍りかかった。
あれは――【英雄王】のスキル『英雄王の鼓舞』。
【英雄王】を中心に範囲内にいる味方全員の攻撃力と魔法力を強化する継続バフスキルだ。他のバフと重複する【英雄王】の超強力なスキル。
それが目視で見えるほどのオーラを放ち、選手たちの能力を上昇させていた。
様々な魔法攻撃が飛び交い、多くの選手のスキルが〈ヘカトンケイル〉へ食い込む。
大量の攻撃にさらされ〈ヘカトンケイル〉のHPは一気に減っていく。
「もう少しだ!! 最後まで削り切れ!!」
「「「「うおおおおおおおおお!!」」」」
〈ヘカトンケイル〉の残り少なかったHPがもうほんの僅かとなり、このまま突破できるか、というところで〈ヘカトンケイル〉の最後の抵抗が周囲の選手たちを吹き飛ばした。
「ヴォオオオオオオオ!!」
「「「うわあああ!?」」」
「「「ぐはああ!?」」
最後の抵抗。だが、俺はそれをしっかり読んでいた。俺は振るわれる50の腕を地面すれすれまでしゃがみ回避する。そこへ、リーナとシエラ、そしてラナの声が届いた。
「『全軍一斉攻撃ですわ』! ゼフィルスさん、トドメです!」
「『攻陣形四聖盾』! 道を作るわ、ゼフィルス、行って!」
「『獅子の大加護』! 外したら許さないんだからねゼフィルス!」
リーナのバフが掛かり、シエラの四つの小盾が〈ヘカトンケイル〉への道を作る。ラナの言葉とバフに俺は全力で小盾を足場に跳躍した。
「はは! 任せとけ! 行くぜ〈ヘカトンケイル〉! これで最後だーー!」
最後の四つ目の小盾から跳ぶと、屈む〈ヘカトンケイル〉と目が合った。
「食らえ―――『勇者の剣』!」
「ヴォ!? ……オオ……オ……!」
最後の最後、俺の『勇者の剣』が〈ヘカトンケイル〉の弱点である喉を切り裂き、そのHPがゼロになる。
そして一瞬の硬直後、〈ヘカトンケイル〉は後ろにゆっくりと倒れながら膨大なエフェクトの海に沈んでいったのだった。
「「「「「おおおおおおおおおおお!!!!」」」」」
会場が大歓声に包まれた。




