#823 〈ヘカトンケイル〉デストロイヤーモード攻略!
〈ヘカトンケイル〉第二形態。
おおう、第一アリーナを走り回るまさに災害だ。〈ヘカトンケイル〉が進む度に無数の拳の雨が降り注ぐ。別名デストロイヤーモードである。
まだまだHPに余裕があるうちにちょっと突っ込んで〈ヘカトンケイル〉のダウンを捥ぎ取ったら、集団からボッコボコにされていつの間にかHPが半分を割ってこの通りだ。
マジかよ。リアルの選手優秀だな!
ゲームの時のNPCではこうはいかなかったぜ。攻撃の機会を窺っていた選手が多かった模様だ。観客席には様々な企業が集まって観戦している。分校の学生なんて普段自分の学園には来ない方々に実力をアピールする大チャンスらしいからな。気合いが入ってるぜ。
しかし予想を超えちゃったな。デストロイヤーモードになった〈ヘカトンケイル〉は結構面倒なので、HPが半分近くになったら2度目のダウンを奪い、なるべくHPを減らしておくのがセオリーだが、まあこの人数だし難しいよな。
1度目のダウンでここまでHPを削ってくれる選手たちを頼もしいと見るべきかもしれない。
「ちょっとゼフィルス! あれどうするの!? なんか、タンクの防御スキルごと吹き飛ばしているわよ!?」
ラナが慌てた様子で聞いてくる。
現在〈馬車〉で移動中。
セレスタンの馬車も出し、四台の馬車に乗り込んだ〈エデン〉メンバー全員が〈ヘカトンケイル〉の進行方向からズレたところだ。
「まあまあ慌てるなラナ。ここから回り込んで〈ヘカトンケイル〉の後方から仕掛ける」
だが俺は慌てない。冷静沈着にそう答えた。
強大な敵が相手だからといって慌ててはいけない。
焦った者から消えていくのは世の常なのだ。
まあ、それは置いといて、〈ヘカトンケイル〉はこのモードになると前進か横移動しかしなくなる。
進行方向で轢かれたらもれなく退場だが、後方はむしろ安全なのだ。とはいえかなりのスピードで走っているので追いつければの話だがな。
また一時停止したり、旋回するという行動もするため注意を怠ってはいけない。
「む! エステル左へ行け!」
「はい!」
俺が乗っている〈サンダージャベリン号〉を操縦するエステルに指示を出すと、エステルが左へと逸れる。〈サンダージャベリン号〉は先頭を走っていたため、後ろの三台も左へと続いた。
続いて〈ヘカトンケイル〉が右へと方向転換する。
あのままだと〈ヘカトンケイル〉に俺たちの真後ろに付かれるところだったが、進路を左に変更することで前もって回避する。
「相変わらず、どうやって見分けているのかしら?」
「さすがゼフィルス殿ですね」
「勇者だからな!」
操縦席の後ろにある窓から今度はシエラの声がする。
ふっふっふ。この〈ヘカトンケイル〉はゲームの時も学園祭で登場したからな。
もう行動パターンは知り尽くしているのだ。
おっと、今度は横移動で右へ行くな。エステルに言って進路を変更する。
そうして少しずつ〈ヘカトンケイル〉の後ろに回り込みつつ近づいた。下手に近づくとパンチが飛んでくるので慎重にタイミングを計っていく。
相手もあの巨体だからスピードが速いんだ。
おかげで逃げ遅れた選手が轢かれまくっていた。形勢は一気に傾き、HPが半分になってからあまり〈ヘカトンケイル〉のHPは減っていないのにもかかわらず、すでに500人ほどがデストロイヤーモードによって退場しているようだ。
上方のスクリーンに表示されている人数は、残り3300人。
動きが速く、行動パターンが掴めないうえ移動速度も速いため追いかけることも難しい。
現在精力的に動いて攻撃を加えているのは集団戦を得意とする上位ギルドくらいだった。
とはいえ近づくことがままならないため遠距離攻撃が主体のようだ。
中には足の速い猫人が魔法使いの狐人を背負って〈ヘカトンケイル〉の真横を併走している猛者もいる。というかあれって〈獣王ガルタイガ〉のガルゼ先輩と〈百鬼夜行〉のギルマスじゃねぇか!
ガルゼ先輩たち何やってんだ。すげぇぜ。
「さて、そろそろ俺たちも追いつくぞ。――準備を進めてくれ、リーナ」
「『わかりましたわ!』 ――『号令』! 傾聴! みなさん、ゼフィルスさんから指示がありました! 準備を進めてくれとのことです!」
リーナの指示を聞いて前衛陣が動き出す。
後衛陣も気合い十分といった様子だ。
次に〈ヘカトンケイル〉が横移動にシフトしたときが狙い目である。
お、左足が揺れている。右移動の前触れだ!
「よし、そろそろだ。リーナ、停車を指示!」
「『はい!』 ――停車してください!」
「攻撃開始だ! 狙いは――左足だ!」
「「「「おおー!」」」」
「『サンダーボルト』!」
〈ヘカトンケイル〉は前方移動から横移動にシフトするとき減速する。
さらに進む方向と逆の足が左右に揺れるので割と分かりやすい。まあ慣れはいるかもしれないが。
俺はそれを察知して素早く下車。リーナも合わせて『ギルドコネクト』でメンバーに通信を入れると、次々とメンバーが外へと飛び出し、遠距離攻撃が使えるメンバーたちが揺れる左足の膝へ向かって大火力を叩き付けた。
センチピードみたいな腕で蹂躙する〈ヘカトンケイル〉だが、唯一弱点が存在する。それが足だ。進んでいるとき、〈ヘカトンケイル〉の足はハイハイをしている。
後ろから見ればコミカルな姿だが、理に適った戦法。しかし、だからこそ後ろから足を攻撃されると結構弱かったりする。
「ヴォオオオオ!?」
「ズドドドドン」と〈エデン〉の攻撃が足に炸裂して「ドシンッ」という音と共に足が止まった。腕は動いているのに足だけ止まったせいで、横に倒れそうになり慌てて踏ん張る〈ヘカトンケイル〉。するとまるで腕立てのような姿になって止まってしまう。
これが〈ヘカトンケイル〉を低レベルで止める方法。
高レベルの〈六ツリ〉なら正面から止められる〈スキル〉〈魔法〉が存在するが、俺たちはまだ無理なので弱点を攻めた形だ。
そして一度止まってしまえばこっちのもの。
「前衛、今だ! 乗り込むぞ!」
「「「はい!」」」
「「「了解!」」」
「リーナ!」
「『突撃指令』ですわ!」
後衛陣が攻撃を放っていたときから俺たち前衛陣のアタッカーはすでに走り出していた。
〈ヘカトンケイル〉っていうのは、こう攻略するんだよ!
腕立て状態で足から頭までピンと伸びた姿勢の〈ヘカトンケイル〉に俺たちは飛び乗るとそのまま背中を伝って頭部へとダッシュする。
他の逃げ回っていた選手たちが何事かと驚愕の視線で見つめてきたり、止まった〈ヘカトンケイル〉に攻撃を加えていたが、俺たちはそんなの無視だ。
「お、おいあれって、〈エデン〉か!?」
「〈ヘカトンケイル〉の背中を走ってる!?」
「何ィ!? おいゼフィルス、なんだそれ面白そうじゃねぇか俺にもやらせろぉ!」
「やかましいわい! 馬はさっさと近う寄るがいい、チャンスじゃぞ!」
「誰が馬だと、この貧乳娘が!」
「カチン。まずは貴様から屠ってやろうかのぅ、ガルゼ!」
なんだかガルゼ先輩の声が下から聞こえた気がしたが、多分気のせいだろう。
俺たちは腕が多く生えている背中エリアへ到着すると前衛陣に指示を出す。
「リカ! この腕全部斬り落としてやれ! 騎士組は『姫騎士覚醒』を許可する!」
「承った! 全員私に続け! 『二刀斬・炎紅刀華』!」
「「「はい! 『姫騎士覚醒』!」」」
実はこの腕、根元に攻撃すると切断、破壊ができる。腕の根元だけ鎧部分に隙間があるんだ。というか背中には腕がびっしり生えているので背中部分は鎧を着ていないというのが正確か。
切断できないのは肩から出ている通常の二本の腕だけで、背中から生えているものは全て切断可能だ。リカたちにはそっちの処理を頼んでおいた。その間に俺は〈ヘカトンケイル〉最大の弱点である延髄まで進んでいた。
「『太陽の輝き』! 『陽光剣現』! 『属性剣・雷』! さあピヨッてしまえよ〈ヘカトンケイル〉! 行くぜ! 『サンブレード』ォォ!!」
「ヴオオオオオ!?」
ズドンと一撃。
強力な攻撃によってガクンと〈ヘカトンケイル〉の身体が揺れた。
「おっと、動き出したか! だが、ヘロヘロ状態成功だ!」
俺が強力な一撃を与えた直後から〈ヘカトンケイル〉は再び動き出したが、動作が緩慢状態になっていた。
これは状態異常ではない。〈ヘカトンケイル〉特有の症状で、延髄に強力なダメージを食らうと起こる、ヘロヘロ状態と呼ばれていた状態だ。
第一形態では背中から生えた腕が邪魔で下からは狙えず、第二形態では真上に弱点を向けているため下からは攻撃ができない。
まあ出来る戦法ももちろん存在する。【姫城主】のシャロンに『物見台召喚』で物見台を建ててもらってそこから狙撃したりする方法とか。真上から攻撃するレイン系やメテオ系とか。
とはいえ俺は乗り込んでしまうのが一番手っ取り早いと思っている。腕も切断出来るし。
ヘロヘロ状態になるとしばらくの間〈ヘカトンケイル〉の動きは遅くなり、軽く回避可能、もし轢かれても即死するダメージには至らないだろう。
本当はずっとヘロヘロ状態にしたいが、2度目以降は耐性が出来てしまうので続けて継続するのは無理。そのためここで一気に決めておきたいところ。
俺の第一ミッションはこれで終わりだ。
続いてみんなに任せている腕の切断に加わる。
「だっしゃあらー『勇者の剣』! 『聖剣』!」
「ヴオオオオオオオ!?」
俺たちの斬撃によってまた一本腕が切断されて地面に落ちていく。
腕を斬ればヘロヘロ状態が解けても第二形態の移動スピードは格段に落ちるし、攻撃能力も低くなる。
背中乗り込みは〈ヘカトンケイル〉への常套手段だ。
ヘロヘロ状態が終わるまでに出来るだけ斬り落とす!
「ヴオオオオオオ!!」
「おおっと! 全員、背後側に飛び降りろ!」
どうやら〈ヘカトンケイル〉がヘロヘロ状態から復帰したらしい。
元気よく暴れ回り始めた。
俺たちも早く降りないと投げ出されるだろう。
下手に落ちるとダウンすることもあるため自分から飛び降りるのが正解。投げ出された先が〈ヘカトンケイル〉の正面だと目も当てられない結果になるため、まだ本調子に戻る前にさっさと撤収する。
成果は、――腕の切断50本はいったな。
半分以上切断出来たぞ。移動速度も半分以下になった。上出来だな。
軽く地上から10メートル近くある背中から〈エデン〉全員が飛び、なんとか着地。
ちょっとビビる高さだが、俺のギルドにこの高さから跳び降りられない人材はいない。
HPのおかげで痛みとか衝撃とかほとんど無いからな。
「な、なんとーーー! あの猛威を振るっていた〈ヘカトンケイル〉が今や赤子がハイハイしているようだー!? これはいったいどういうことだーー!?」
司会のお姉さんが驚愕した様子で叫んでいるのが聞こえる。
見れば〈ヘカトンケイル〉は先ほどの手が着けられない状態と比べて明らかに弱体化していた。
拳骨の雨の数も半分以下になっているため、雨を掻い潜って下から攻撃する猛者もいるほどだ。って、あれはユーリ先輩とアーロン先輩か! さすが!
こうして選手の退場ペースに歯止めが掛かり、選手たちからの反撃が始まった。
よしよし、いいぞいいぞ!
俺たち〈エデン〉もそれに加わり、ダメージを蓄積し。ついに残りHPが20%を切ると、〈ヘカトンケイル〉が膝立ちのまま立ち上がり、吠える。
「ヴオオオオオオ!!」
すると体の鎧が徐々に外れて行き、それが何本もの義手に生まれ変わっていく。
防御を捨て、攻撃力を最大まで極振りした〈ヘカトンケイル〉の第三形態。
ロケットパンチャーモードだ。




