#822 司会者と実況席は熱く実況を語る。
「いやぁ、毎年〈迷宮防衛大戦〉の第一アリーナはド迫力でたまりませんね! 実況のキャスさん、スティーブンさんはどう思いますか?」
「もちろん私も心躍っている! 否、躍りまくって歌まで歌ってるほどさ! 実は第一アリーナの実況になれたのも初でテンションは二倍増しだよ!」
「僕も第一アリーナで実況は初めてです。去年は第七アリーナの実況でしたからね。それにしても今年のボス、〈ヘカトンケイル〉は大迫力ですね」
「なるほどなるほど! 2人とも〈ヘカトンケイル〉を見るのは初めてなのですね!? では私の方から観客さんにも分かりやすく〈ヘカトンケイル〉というモンスターがどういう存在なのかを実況していきます!」
「こら司会者、実況は私たちの仕事でしょうが!」
「まあまあ、観客を楽しませるのが僕たちの仕事ですよキャスさん」
「お、スティーブンさんは話が分かりますね~。ではご説明しましょう! 毎年ボスが変わって3年でローテーションしている第一アリーナ、その3体の超大物ボスの一角、〈百手巨人のヘカトンケイル〉と呼ばれている物理攻撃に定評のあるボスです! とても強いですよ!」
「強いのは見れば分かるよ! もうあれはなんだろう? 軽く山じゃん!? 山が鎧着て人をぶん殴ってるよ! ほら、またパンチで2人退場した! Aランクギルドのあの〈獣王ガルタイガ〉から2人退場した!!」
「資料によれば3体のボスの中でも勝率は高いボスのようですね。それでも選手側の勝率が1割を切っているようですが」
「スティーブンさんの言うとおり! 〈ヘカトンケイル〉は比較的弱いボスとして有名です。比較対象が鬼強いだけとも言いますが!」
「アレで比較的弱いとか、他の2体どんだけよ!?」
「資料によれば残り2体は選手側に勝利体験が無いようですね。1体はもう少しの所まで行ったそうですが、もう1体は鬼強く、速攻で選手側が負けてしまうのが恒例のようです。去年登場したようですが、開始から30分で出場者5000人が全員退場していますね」
「それなんて化け物よスティーブン君! だけど、つまり今年は勝てる可能性もあるって事だよね?」
「その通りですよキャスさん。特に今年は高位職が爆発的に増えた年ですからね。1年生からも出場者が多いのはそういうことです」
「〈エデン〉とかよね! あの敵に寝返った黒衣たちを一気に殲滅した手際はマジよっしゃーってなったわ!」
「あれで空気が変わりましたよね。って2人とも司会者の私が説明しようとしたこと取らないでくださらない!?」
実況席は騒がしい。
今年の第一アリーナは司会者のお姉さん、実況のキャス、そしてスティーブンが解説席に座り、実況を繰り広げていた。
「おお! あれは、ついに〈ギルバドヨッシャー〉が動き始めたよスティーブン君!」
「はい。ギルドバトルで常勝無敗の〈ギルバドヨッシャー〉、〈ヘカトンケイル〉を相手にも最善手を取っていましたからね、さすがの一言です。そして彼らが動くということは何か掴んだのでしょう」
「〈エデン〉の黒衣掃討から有利を取ってきた選手たち! しかし、〈ヘカトンケイル〉も負けてはいません、パンチが振るわれる度に人が飛び、退場者が続出中です! 5000人いた選手たちもすでに残り4000人だー!」
「だけど選手たちが退場するスピードは減ったよね! 退場したのは多くが学外の参加者みたい、学園のAランクギルド以上はほとんど退場者はいないみたいだよ!」
「キャスさんの言うとおりですね。最初の5分で500人が退場したときは肝を冷やしましたが、現在15分経過の時点で1000人が退場ということはあれから半分のペースでしか人数が減っていないということです。残ったのは強者たちということなのでしょう。これからどんどん退場者が出るスピードも緩やかになるものと思われます」
「〈ヘカトンケイル〉の残りHPも80%! ずいぶん好調な滑り出し! 残り5分の4だー! 今年は勝てるのか!?」
「ここで活躍している参加者をピックアップ! 注目はやはりこの人、ユーリ王太子殿下! 凄まじい猛攻によってどんどんダメージを稼いでいるー! 黄金鎧が格好よすぎるわ!」
「〈千剣姫カノン〉さんも凄まじいですね。千の剣を操り〈ヘカトンケイル〉の全身にダメージを入れています。さらには〈獣王子ガルゼ〉さんや〈ハンターアーロン〉さんの勢いも凄まじい。特にアーロンさんはギルドバトルにこそ出てきませんのでほとんど知られてはいませんが、対モンスター戦のスペシャリストでもあります。与えたダメージはあのユーリ殿下を上回り、なんとダメージ総量1位です」
「あの光ってる大剣使いがアーロンさんか! ウルフに乗って駆け回ってる! すご、あれはすごい! かっこいい~私もウルフに乗りたい! モフりたい!」
「さらに〈ミーティア〉の特大魔法攻撃の一斉攻撃、これは派手で観客席を熱狂させています。〈流星のアンジェ〉さんの『メテオヘッドストライク』で〈ヘカトンケイル〉が大きくノックバックしたときは手に汗握りました」
「そして忘れてはいけない、私たちの〈エデン〉! 開幕と同時に動き出し速攻で黒衣を壊滅に追いやった手腕はかっこよかったー! それからも位置取りが早い! 良い位置からのヒットアンドアウェイと遠距離攻撃を繰り返して有効打を多く与えているのに未だ退場者はゼロ! なんて鮮やか、まるで〈ヘカトンケイル〉の動きが分かっているかのようだよ!」
「さらに注目するのは〈獣王ガルタイガ〉と〈百鬼夜行〉ですね。なんとこの二つのギルド、共闘しています。いえ、おそらく〈獣王ガルタイガ〉を〈百鬼夜行〉が雇ったみたいですね。手数が増え大胆な動きで〈ヘカトンケイル〉を翻弄しています」
「やはり上位ギルドのギルドマスターは傑物揃いですね。おっとあれは雷の雨! 〈ミーティア〉のみなさんの集団マジックスペルです! 雷属性に切り替えてきた!?」
「わー! 目がーって言いたくなる光景に凄くテンションが上がる! 集団魔法ってなんでこんなにロマンに溢れてるんだろうね!」
「あ、今度は〈カオスアビス〉が動こうとしているー! 最近〈テンプルセイバー〉を下しAランクの座に納まったその実力やいかにー!? ってあーっとこれは!? 〈ヘカトンケイル〉大ダメージ! 一気に3%近くのダメージが入った!? いったい何が!?」
「今のは〈カオスアビス〉の必殺技ですね。詳細は伏せられていますが、レイドに特化したスキルを発動出来るらしいです。相変わらず特殊なギルドですね」
「あ、〈エデン〉来た! 〈エデン〉来た! Bランクギルドですらあまり活躍出来ていない戦場にまた〈エデン〉が乗り込んでー! って、えええええ!? 〈ヘカトンケイル〉がダウンしたーーーー!? ちょ、今何したの!? 説明プリーズ!」
「〈ミーティア〉が上半身を攻撃したタイミングでの膝かっくんかと思います。あのシビアなタイミングに合わせてきたというのが信じられません。あれが〈エデン〉の有名な同時着弾攻撃!!」
「こ、コレは凄まじい!? 運悪くダウンした〈ヘカトンケイル〉の下敷きになった人たちは退場しちゃったけど、大チャンスを生み出したことには違いないー!! ここで今まで消極的にしか動けなかった集団が攻撃を仕掛けたー!」
「おお眩しい!? 雷系の攻撃のようです!? どうやら選手たち、〈ヘカトンケイル〉に雷属性の攻撃でダメージを与えている模様です。雷属性が弱点なのか、いつの間にそれを看破したというのか!?」
「す、凄まじいダメージだー!? 何しろほぼ全ての選手の攻撃が突き刺さったのだからそれも当然だー! 今ので15%近くのHPが吹っ飛んだー!? そろそろ残り50%を切るぞー!?」
「〈ヘカトンケイル〉ダウン復帰ーー! 〈エデン〉のヒットアンドアウェイのタイミングが見事すぎる!? 〈ヘカトンケイル〉が起き上がり際に全方向へ腕を伸ばしたが、これを完全回避した!? 他のギルドはここで痛い反撃ー、大丈夫なのか!?」
「他の選手たちは思ったより深刻なダメージでは無さそうですね。まるであらかじめ指示があったかのように素早い回復で戦線に復帰しています。これはおそらく〈ギルバドヨッシャー〉が裏で動いていますね。お、おおお!? ついに〈ヘカトンケイル〉のHPが半分を切りました!」
「な!? これは、変形!? 〈ヘカトンケイル〉、HPが50%を切ったところで変形したー! まるで四つん這いのポーズで――こ、これは、〈ヘカトンケイル〉の移動速度が!? 大量の手で地面を歩き回っている!?」
「あ、〈カオスアビス〉巻き込まれた―!? ああっと〈カオスアビス〉ギルドメンバーの半分が退場した模様だー!? これは〈ヘカトンケイル〉の第二形態だー! 二足歩行を捨て、腕歩行で移動速度が速まり、移動と攻撃を同時に仕掛けてくる強力な形態だー!?」
「また退場選手が大量にでました! 残り3500人です! 選手側は、果たして〈ヘカトンケイル〉に勝つことが出来るのでしょうか!? とても目が離せません!」




