#819 〈迷宮防衛大戦〉開催。レイドボスVS5000人!
「さあ今年もやってきました! 学園祭3日目の大イベント、〈迷宮防衛大戦〉のお時間だーー!! 襲い来る最強のボスから君たちは学園を守ることが出来るのかーー!?」
「わあああああ!!」
場所は第一アリーナ。
そこに集まった選手たちの前でおそらく司会者であろうお姉さんがマイクに向かってノリノリで叫んでいた。
それに応えて大反響。
選手からも、観客席にいる来園者、見学者からも大歓声があがる。
「ルールは簡単! これから登場するのはこのアリーナで最強の防衛モンスターの一つ〈ヘカトンケイル〉! そしてモンスター側に寝返った悪の構成メンバーが100人! これを選手全員が協力して倒す! ただそれだけです! ここに集まる5000人の選手たちは果たして襲い来る〈ヘカトンケイル〉たちを倒すことが出来るのか!? これから細かいルールを説明していきます!」
「いよいよね」
「おう、テンション上がってきたぜ!」
隣のシエラの言葉に頷く。
クラスメイトとは第一アリーナに入ったところで別れ、今はそれぞれのギルドと合流していた。
ここに集まる5000人の出場者は相当な面々だ。
大体が学園関係者であるが、他校の学生の姿もちらほら。
腕試しなのか、別の理由か、大人もかなり混じっている。
只者では無い雰囲気の大人も多いな。
それに負けず、学園の上位ギルドも生産ギルド以外は全て参加しているようだ。
Aランクからは5ギルドが参戦している。
対モンスターやダンジョンを専門に狩りを行なうスペシャリストたちが集うギルド〈サンハンター〉。
対人、ダンジョン、ギルドバトルと幅広くオールマイティになんでもこなすAランク最強の一角〈千剣フラカル〉。
ギルドメンバー全員が猫人で構成され、幅広く傭兵業を行なっているAランク最古のギルド〈獣王ガルタイガ〉。
遠距離から大火力の攻撃で殲滅し、ギルドバトルではほぼ負け無し、魔法使いたちの集いしギルド〈ミーティア〉。
今年からAランクギルドに加わった特殊な変わり種、スタンダードとはほど遠い特殊な面子が揃う混沌とした強者のギルド〈カオスアビス〉。
おお、なんとド迫力。自分に大きな自信を持っているのだろう。選手全員にただならぬ風格が溢れている。
さらにはSランクの3ギルドが全員参加している。
王太子ユーリが率い、先日ついに上級ダンジョンを攻略したことで学園祭では多くの注目を集めている、学園最強のトップギルド〈キングアブソリュート〉。
獣人系を主な構成とし、高い戦闘力と強力な職業群を有する、万能の使い手〈百鬼夜行〉。
ギルドバトルこそが至上にして最高。研究に熱を入れすぎたギルドバトル特化型最強ギルド。未だ無敗を誇るオタクたちが集う魔窟〈ギルバドヨッシャー〉。
こっちはさらに凄まじい。
上級ダンジョンを攻略した〈キングアブソリュート〉の注目度は言うまでも無く、〈百鬼夜行〉は正直羨ましい面子ばかりだ。獣人だけというわけではなく、普通に人間もメンバーに入っている模様。筋肉も採用しているようだ。〈百鬼夜行〉に筋肉は入りますか?
そして異色の〈ギルバドヨッシャー〉は、何だろう、本当に異色のオーラを纏っている。まるでオタクたちの熱が目視出来るような迫力だ、うむ、要はオタクギルドだな。
無敗。そのあまりの強さにどこからもギルドバトルを受けてもらえないと噂で聞いたが、その実態を見られると思うとワクワクする。
ちなみにAランクの残りの1ギルド〈青空と女神〉は生産ギルドなので不参加だ。
この学園最高峰のメンツにBランクやCランクギルドの名だたる面々、学外の最高の選手たちが合わせて5000人。それでもなお倒せるか分からないのが〈ヘカトンケイル〉である。ぶっちゃけると〈ヘカトンケイル〉はレイドボス、つまり最上級ダンジョンのボス級である。本来なら、上級職のLV70越えが30人以上の規模で戦うボスモンスターだ。
下級職もまだまだ多いこの世界ではそりゃあ中々倒せないだろう。ステータスが段違いである。勝率1割以下というのも分かるな。
まあ、作戦は練ってきた。練ってきたが、正直言って勝つのは時の運。
俺たちだけが必死に頑張ったところでまず倒せないからな。5000人が協力すれば楽勝だろうが、交流も無い人を操るのは難しい。
せいぜいバフとデバフを切らさず、相手の攻撃は極力回避すべしとしか言えない。あとは一斉攻撃か。
それに5000人ともなるとヘイトがどうこう言う問題でも無いしな。
とはいえあんまり攻撃しすぎるとヘイトを稼ぎすぎて狙われる、最上級モンスターに狙われれば下級職なんて普通に一撃でやられることもある。さらにレイドボスなので攻撃が常に範囲級という厄介なボスだ。掠っただけでタンクが吹き飛んでしまう超威力を持っているし、俺だって運が悪ければ負けるだろう。ま、負ける気は無いけどな。
さてさて、どうなるかな?
司会者のお姉さんの細かなルールを聞きながらそんなことを考える。
「――注意点は敵に寝返ったボスの手下、全員が黒衣に身を包んでいるからしっかり撃退しましょう! また、マスの減退ルールは取っ払っておりますので遠距離から攻撃して倒すのもありです! 以上です!」
「お、ルールの説明が終わったようだな。全員理解出来てるか?」
俺がメンバーを見渡せばしっかり頷いていた。数名よく分からないながらも頷いている人物がいたような気がしなくもないが、まあいいだろう。
「さて、開始時間が迫ってまいりました! 制限時間は3時間! では準備は良いですね!?」
午後3時から開始される〈迷宮防衛大戦〉第一アリーナ戦は最大3時間の時間制限付きだ。
じゃないといつまで経っても終わらないということもある。
この第一アリーナは広大だ。
東京ドーム何十個分だろうか? さすがの〈ヘカトンケイル〉と言えど全域に全体攻撃はできないので安全地帯はたくさんある。
俺たちは〈ヘカトンケイル〉が登場する場所からかなり離れた位置を陣取っていた。
障害物は無し。視界良好だ。
「では、〈ヘカトンケイル〉の召喚です! 先生、お願いします!」
おっと司会者のお姉さんの隣にいるのはムカイ先生。
いつも無口な先生だが、アリーナの中は熟知しているらしく、一つ頷いてからすぐにタブレットを操作すると、俺たちから遠く離れたエリアに巨大な魔法陣が描かれた。
そしてそこから出てくる巨大な身体。
観客席から「おおおお!?」と驚きの声が漏れ聞こえてくる。
6メートルかけてまず顔が現れる。顔面だけで6メートルだ。さすが巨人族とも言われる〈ヘカトンケイル〉だ。デカい。
そのまま10メートル、20メートルと延び、そして40メートルを越えたところでようやく全体が現れた。
その身体は黒の鎧に包まれている。数を数えるのも億劫なほどの腕が肩と背中から生えており、巨人というより機械風の身体、顔面も顔が隠れる黒のヘルムを被っており威圧感を放っている。
あの黒の鎧、〈アダマンタイト〉なんだよな。欲しい。でもアリーナでは発掘できないのが辛い。
まあ、それは実際上級中位ダンジョンに行ったときまで我慢しておこう。
〈ヘカトンケイル〉の全体が現れると、その背後から何人もの黒衣の人たちが現れる、総勢100人。彼ら彼女らがボス側の参加者だ。
「よし! 全員聞いてくれ! 〈エデン〉のこれからの行動だ! 作戦は前に通達したようにまずはボスでは無く黒衣の参加者を狙うぞ。ボス戦の障害になるからな!」
「弱いところから狙うのが鉄則よね!」
俺の意見に頷き応えてくれるラナが頼もしい。
とはいえ前から言っておいた作戦の確認の意味が大きい。この広大なアリーナだ。〈ヘカトンケイル〉はまずは放置して良い。ボスは最後に倒すものだからな。
あらかた準備が整うと、司会のお姉さんがとうとう開始の宣言をする。
「お待たせいたしました! 定刻になりますのでこれより〈迷宮防衛大戦〉を開始いたします!」
そこから開始を告げるブザーがなると、大歓声と共に〈ヘカトンケイル〉とその足下の黒衣たちに一斉攻撃が放たれた。




