#818 ガルゼ先輩の妹登場、後輩(予定)たちを勧誘?
「ではこれにて君たちの学園祭での仕事を満了とする! 皆の働きと協力に感謝する。残り少ない時間だが学園祭を楽しんでほしい。また、〈迷宮防衛大戦〉に参加する者は気合を入れるように! では、解散!!」
「「「お疲れ様でしたー!!」」」
午後2時、校内放送にて学園祭の一大イベント〈迷宮防衛大戦〉の開催が告げられるとほとんど同じ時間に、俺たちは〈秩序風紀委員会〉の詰め所に集まってライザから仕事の終わりを告げられていた。
そう、終わりだ。これから夜まで〈迷宮防衛大戦〉が行なわれる、それに参加するため3日目はこの時間に学生は解散されるのである。
また参加しない者でも学園祭の残り時間を有意義に過ごしてほしいという目論見もあるようだ。
〈秩序風紀委員会〉はこれから夜パトの人員も含めて総出で警邏を行なうとのことだ、心の中で頑張ってくださいと応援を送っておいた。
「よし、早速第一アリーナへ行こう! 一緒に行く者はついて来い!」
「「「おー!」」」
ついテンションが暴走してクラス全員の前でそんなことを言ったら、なぜか全員がついてきた。
え? これから行くのって一番強い第一アリーナだよ? 他のところに行かなくていいの?
「ゼフィルスについていけば間違いない。それに、第一アリーナには兄たちも来る」
そう思ったらミューがそんな言葉を呟いた。いやぁ照れる。
ってそうか、アーロン先輩たちも来るのか。そりゃ頼りになるな。
続いてメガネ無しのキールまで近くに寄ってくると補足するように言った。
「僕たちは元々第一アリーナに行く予定だったから大丈夫さ。というより、1組に所属していて他のアリーナに行くのは少し体裁が悪いんだよ。実力があるんだから1組なら第一アリーナに出るだろ、とか思われてたりしていてね」
「うわ、そりゃ大変だな」
この世界は実力主義、つまりはそういうことらしい。
キールの能力は〈即死〉に特化しているのでボスには通用しない。そのため周りの雑魚の掃討をメインに頑張る予定とのことだ。
30人という大所帯で進んでいると、俺たちと同じような集団を多く見かけた。みんな考えることは一緒らしいな。
「む! あれはマッスル先輩ではないか! ゼフィルス、俺は向こうに合流する。じゃあな、良い筋肉を!」
「お、おう。行って来い」
中には上半身タンクトップで露出している腕の筋肉をムキムキひけらかしている集団もいて……。
あれはマッスラーズだ。間違いない。先頭にマッスル先輩がいるし。
アランが制服の上着をなぜか脱いでタンクトップ姿になって行ってしまったので見送る。なんだろう、彼らにとって脱ぐのが正装なのだろうか? あながち間違いじゃなさそうなのが怖い。
なんか「一昨日の筋肉格闘大会」がどうのって言っているが、そんな大会は無いぞ? 一昨日あったのは普通の〈格闘大会〉だ。筋肉にするんじゃない。
別の場所では猫耳をつけた集団もいる、しかし様子がおかしい。そこからはこんな口論まで聞こえてきた。
「兄貴! あたいも参加したい! 大きなボスもあたいが倒してやる!」
「だから何度も言ってるだろう! お前はまだ職業に就いてないから無理だって」
「じゃあ今すぐ職業に就く! 学園では職業に就かせてくれるんだろ!」
「それは16歳からだ。15歳では無理だ。諦めろ」
「むむむむ~~~!! 兄貴のばかやろう!」
「な、ばかとはなんだ! お前、それでも偉大な獣王の娘か!」
あれは、ガルゼ先輩? よく見れば集団は〈獣王ガルタイガ〉じゃないか。
おお、全員が「猫人」だ。猫人の集団だ。ライオン系のガルゼ先輩を始め、小さな猫系のミミナ先輩、トラ系、ヒョウ系と色々いる。なんか感動。
でもなんだか全員がアワアワしているな。ミミナ先輩もおろおろしている。
おそらく、いや間違いなくガルゼ先輩が相手にしているちんまい女の子が原因だろう。
むっちゃガルゼ先輩に突っかかっている。
あのライオンの鬣を持ち、がっしりを軽く超える体格を持つガルゼ先輩に突っかかれるなんて相当だぞ。何物だ?
「ん、あれ?」
「お、何か知ってるのかカルア?」
「誰だろう?」
「知らないのかーい!」
こんのカルアー!
期待を裏切らない子だよ本当に。
思わずツッコミを入れた俺は悪くないと思う。
そんな俺の声にガルゼ先輩が反応する。
「ん? おお、ゼフィルスじゃねぇか。こりゃ、情けねぇ姿を見せちまったぜ」
「まったくだ! 兄貴は情けないぞ!」
「お前が言うな! 大体お前のせいなんだぞ!」
おお! あのガルゼ先輩がツッコミを入れてる!?
中々にレアな光景だぞこれ。しかし、大迫力のツッコミを受けてなお女の子は平然としていた。大物だ。
改めて女の子のほうを見ると、ハンナとカルアの中間くらいの身長、つまりロリ。
ガルゼ先輩と同じ赤毛の短めの髪と金色の瞳をしており、黄色に近い白を基調とした、私立小学生の男の子が着るような服を着ていた。
「ええい、お前は少し黙ってろ。――ゼフィルスよ、軽くだが紹介させてくれ、こいつが例の来年面倒をかけるかもしれんと言った、俺の妹だ」
「そんな紹介の仕方があるか!? あたいのイメージが崩れちまうだろ!?」
「とまあ、こういうやつだ。こんなんでも俺の妹だからな。〈獣王ガルタイガ〉の次のリーダーに、いややっぱり難しいか……」
「そ、そんな目であたいを見つめるんじゃない! こら、兄貴この、ばか兄貴!」
うーむ、どうやらガルゼ先輩の妹さんはお転婆のようだ。しかも来年入学するという。なるほど、人を引っ張って行く素質は少し感じるな。
とりあえず紹介されたからには簡単な挨拶だけ済ましておこう。
「俺はゼフィルス。ガルゼ先輩とは、それなりに取引させてもらっている仲だ。よろしくな」
「む、イケメンじゃん! あたいはゼルレカ。来年入学するんだ、よろしくな!」
ん、明るい雰囲気、なんだか話しやすそうな感じ。
とはいえ〈迷宮防衛大戦〉が午後3時からなのでゆっくりは話せないな。
クラスメイトたちも興味がありそうだが、早めに切り上げないと。
「〈ガルタイガ〉もこれから第一アリーナなのか?」
「おう。そう思ってたんだが、こいつが参加してみたいとうるさくてな」
「うるさいだって!? あたいの友達だって今日を楽しみにしていたんだよ!」
「あの、私たちはこれを楽しみにしていましたが、別に参加したいわけじゃないですよ」
「え!? そうなの!?」
ゼルレカが向く先には、ゼルレカよりもさらにロリ、いや幼女な子と狐耳な少女がいた。「狐人」!?
「あの子たちはゼルレカと同い年の友達でな。来年ここへ入学する予定らしい」
ガルゼ先輩が補足してくれる。ということはあの幼女も〈幼児化〉のシンボル! 「子爵」か!!
早速勧誘を、いや待った。確か彼女たちはまだ俺たちより一個下だったと言ったか? まだ職業に就ける年齢ではない。無念。
否、来年入学といったか? ふ、ふはははは! なるほど、読めたぜ。読めたんだぜ! 俺の読みにぬかりは無い!
俺は早速行動を起こす。
「ゼルレカ、この〈迷宮防衛大戦〉は現在職業に就いている人じゃないと参加できない。だが、来年入学するのならちゃんと来年には出場できるように俺が協力しよう。もちろん友達もだ」
「え? ほ、本当か?」
「もちろんだ。ガルゼ先輩からも頼まれているしな」
頼れる先輩をアピールする。
俺はそう言ってガルゼ先輩に目配せする。今は話をあわせてくれというアイコンタクトだ。そしてそれはどうやら伝わったらしい。ガルゼ先輩も早くこの揉め事を終わらせたいと思っていたようだ。
「本当なのか兄貴?」
「ああ。来年は出場できるだろう。だから今年は我慢しろ」
「う~ん。わかったよ~。――ごめんなアリス、キキョウ、あたいも勘違いしてたっぽい」
「大丈夫だよ? うん。来年出場しよう?」
「だから言ったじゃないですか、今年は出場できないって」
俺たちの説得に項垂れながら幼女と狐少女の下へ向かうゼルレカ。
俺はそれにさりげなくついていった。
「やあ、君たちは来年学園に来る子たちかい? 来年入学したら是非俺たち〈エデン〉を頼ってくれ。職業のお困りごとなんかも解決するぜ?(キランッ)」
さわやか勇者風でそう少女たちに話しかけてみた。
すると狐少女がささっと幼女を抱きしめて隠しながら顔だけこっちに向ける。
「な、なんですかあなたは、怪しい人ですね、おまわりさんを呼びますよ!」
バカな!? 俺が怪しい人だと!?
なんてしっかりした子なんだ狐少女! 狐少女は警戒心が強いらしい。幼女を守るように俺に相対していた。
しかし安心してほしい。俺はまだ持っていた〈秩序風紀委員会〉の腕章をスッと取りだしてこう言った。
「ふっふっふ、俺がそのおまわりさんなんだ。だから安心してほしい」
「!」
あぶなかったぜ、〈秩序風紀委員会〉の腕章をまだ持っていて良かったぜ!
俺は怪しい人ではない。おまわりさんなのだよ。
腕章を見て、再び俺の顔を見比べる狐少女が困惑の表情だった。
さらに幼女が狐少女の袖を引く。
「キキョウ、キキョウ、この人は大丈夫だよ? だってアリスのこと、助けてくれたもん」
「へ? そうなの?」
「お? よく見れば昨日と一昨日助けた女の子じゃないか?」
「うん。アリス、助けてもらったの」
そこにいた幼女をよく見れば、一昨日はパレードで、昨日はフィギュアが倒れた所にいて助けた幼女だった。まさか「子爵」だったとは! 学園で制服を着ていないと〈幼児化〉は分かりづらいんだ。てっきり本物の幼女かと思っていたぜ。
そこへゼルレカも俺を紹介してくれる。
「へぇ、知り合いなら話が早いね。キキョウ、アリス。こちらのイケメンさんは兄貴が頼りにしろって言ってた人だからな。信用できるぜ」
腕章に幼女を助けた話、さらにゼルレカの紹介もあって狐少女の警戒があっと言う間に軟化した。
「えっと、失礼しました。その、分かりました。もし分からないところがありましたら、よろしくお願いします、先輩。私、キキョウって言います」
「アリスはアリスだよ。よろしくね、お兄ちゃん」
「(ぐほ!)ああ。呼び方は何でもいいぞ、俺はゼフィルスって言うんだ、覚えておいてくれ」
狐少女の先輩呼びと幼女のお兄ちゃん呼びがクリティカルヒットしたが何とか耐え、俺はさわやかに頼りになる先輩をアピールできたのだった。
しかし、やはり「子爵」っ子はすごい。ルルはお兄様呼びだし、エリサはご主人様呼びだし、フィナは教官呼びだ。前にルルから子爵には秘伝がある的なことを聞いたが、マジでよく効く。今度の子はお兄ちゃん呼びか~。来年は絶対にギルドに入れなければ。もちろん、狐少女のキキョウちゃんもだ。掴みは良し!
俺は決意を新たにして、3人の後輩に手を振って分かれると、そのまま〈獣王ガルタイガ〉とクラスメイトと共に第一アリーナへ向かったのだった。
ちなみに、なぜか〈エデン〉の女子の一部の視線が強かったような気がしたが、きっと気のせい、ということにしてほしい。そんなに怪しかったかな?




