#802 学園祭準備期間! 〈霧ダン〉へ初突入!
なんだか最近は怒涛の毎日を過ごしている気がする今日この頃、そんなこんなでカイリと〈救護委員会〉が協力して1週間が過ぎた。
気がつけば学園祭が間近に迫っており、この1週間はその作業を急ピッチで進めているところだ。
とはいえこの世界はスキルがあるため少ない日数でドドドンと出来てしまうのだけどな。
もう【クラフトマン】たちが大活躍だった。彼ら彼女らも数少ない見せ場だからはりきりまくってたな。
ちなみに俺たちのクラス、〈戦闘課1年1組〉は学園祭で何をするかというと。学園祭中に学園の治安維持を行なう警邏の仕事を手伝うことになった。
他にもいくつか催しや出し物をするか検討していたのだが、急遽学園側から連絡があって変更になったのだ。
なんでも今年は例年に比べ来場者が非常に多いだろうと見込まれていて、学園の治安維持の手が足りず、その対策として成績優秀な学生クラスには声が掛かっているのだそうだ。
なぜ今年だけ来場者が多くなる見込みなのかは定かではない。なんでだろうね?
しかし、要望に応えないのはちょっとダメな気がしたのでクラスで相談。
実はゲームでも警邏の仕事はあった。
ゲーム〈ダン活〉では主人公の職業によって学園祭で出来る催しが変わる仕様だったが、【勇者】系を含む特定の職業に就いている場合、警邏の仕事も選択肢の一つとして選べるのだ。
内容は怪しい人物などを捕らえたり、迷子探しを手伝ったりといった、ちょっと勇者っぽいお仕事で、お礼としてここでしか手に入らないアイテムも手に入る。
悪い選択肢ではない。
学園の仕事をすれば学園や企業からの覚えも良くなるため、結局〈1組〉はこの仕事を引き受けた。
〈戦闘課〉の1年生では1組~6組までが学園の警邏の仕事に就くそうだ。計180人。
この学園、でっかいからなぁ。
ということで学園祭準備から解放された俺たちはその間ダンジョンへ、ということには当然ならず。1組~6組は俺が講師をしているときに使っているのと同じタイプの大きな教室で、学生が学園祭準備であわあわしている間、警邏についての研修を学ぶことになった。
これはこれでちょっと楽しい。なんかワクワクと新鮮さが混ざった感じだ。
なんだか学園に入学してから、これが一番【勇者】っぽい仕事なのかもしれないと思ったのは内緒。
今後も俺たちはロングホームルーム&学園祭準備期間中は警邏の研修と実習を学び、学園祭に備えることとなった。ちなみにその司令塔は〈秩序風紀委員会〉、学園の秩序を司る学園公式三大ギルドの一つだ。
俺たちはその指揮下に入る形。
「みんな、良く集まってくれた。まずは学園の治安維持の協力に深く感謝したい」
相変わらず男装の麗人という格好の〈秩序風紀委員会〉のトップ、3年生のメシリア隊長が壇上で凛々しく俺たちに講義してくれた。その姿に黄色い声が頻発していた。なんだか俺が教師をしていた時と同じ空気を感じたよ。
とはいえみんな真面目な生徒たちだ。しっかりメシリア隊長の言葉に耳を傾ける。
なんでも学生の中でもはっちゃけたり、問題児であったりする人が居るらしく、その辺についても説明を受けた。
その問題児の中にセルマ先輩の名前があった気がしたが、きっと気のせいだろう。
そんな感じでこの1週間は学園祭準備が進んでいき、放課後になると、俺たちはなるべく多くの時間〈サンハンター〉のメンバーとエリアボス狩りへと勤しんだ。
やはり両手盾がドロップしたことでタンクが硬くなった影響は大きく、〈サンハンター〉はボス戦でタンクが落ちる場面が減った。
また、慣れてきた〈ヤギキイノシシ〉戦では楽勝とは言わなくても、辛勝ではなくなった。ドロップで徐々に全員の装備が更新されてきているのもいい感じに作用している。
まさに順調そのものだ。〈金箱〉はあれから一つ。念願の〈上級転職チケット〉をゲットしたことで、その日は宴会が開かれたほどだった。
〈サンハンター〉も初成果にガッツポーズが止まらないらしく、アーロン先輩は「おっしゃおっしゃ」という言葉が口癖になりつつある。
ミューからもお礼を言われた。どうやらミューは職業と実力を鑑みて、このまま行けば近いうちに〈上級転職チケット〉の使用権を勝ち取れるらしい。
ミューもそろそろLVもカンストとのことなので頑張ってほしいな。ふむ、宴会に浮かれてミューに発現条件の内容をポロッと漏らしてしまったかもしれないが、多分気のせいだろう。
〈サンハンター〉は結局その1枚をギルドメンバーのタンクに使用し、踊り子女子先輩とメンバーチェンジする形で2タンクパーティにして、ボス戦の安定度がさらに増した。そろそろ俺たちの手を離れる頃合かな。
〈救護委員会〉のほうではカイリをスパルタ育成中。
中級上位ダンジョンをガンガン突き進んで攻略者の証を集めさせつつ、良い狩り場にてレベル上げを同時に行なっているらしい。
ただし、カイリは〈救護委員会〉の足を引っ張ることは無く、むしろスキルがありがたがられていて着々とカイリの〈救護委員会〉での活躍の場は増えてきているとのことだ。
カイリも頑張っている。
このまま行けば、今月中にでも上級下位に進出できると〈救護委員会〉は息巻いていたよ。
金曜日の選択授業では、なんと〈転移水晶〉の質問があった。
なんでも長らく用途不明のアーティファクトだった〈転移リング〉が起動したかと思うと俺たちが転移してきた。その様子を見た人が多く噂になっているらしい。
まあ、ここ最近何度も使っているからな。
上級ダンジョンで自由に行き来できるアイテムが発見されたのではとか、そんな噂があるのだけれど本当ですか? と質問がされた。
まだ全容は話せないが、近いうちに学園から発表があるから楽しみにしていてほしい。とだけ返しておいた。
その後、無謀な学生が上級ダンジョンに突入しようとしたらしいが、ケルばあさんにダメって言われてとぼとぼ帰ったらしいとは後で聞いたよ。
上級ダンジョンはケルばあさんの許可が無いと入ダンできないので対策は万全だ。
そんな割と濃い1週間を終えて土日。
普通なら次の水曜日から金曜日の3日間行なわれる学園祭の準備でそれどころではないのだが、俺たち〈エデン〉組は大体が1組で警邏の仕事なので土日は時間がある。
ということでダンジョン探索を行なうことにしたのだった。
俺たちが今回向かう場所は上級下位の一つ、〈ランク2〉、〈霧雲の高地ダンジョン〉だ。
メンバーはいつも通り、俺、シエラ、ラナ、エステル、カルアの5人でダンジョン門を潜ったのだった。
「わ! 何ここ、真っ白で何も見えないじゃない!」
「話には聞いていましたが、本当に霧が深いダンジョンなんですね」
「みんな、離れないように注意して。逸れると大変よ」
「カルア、まずは眷属での探索を頼めるか?」
「ん、やってみる。――『エージェント猫召喚』!」
門を潜って最初に目に飛び込んできたのは、真っ白な霧。
ラナが驚き、エステルがすぐに周囲を警戒、シエラも注意を促した。
本当、この霧の中で逸れたら大変だ。
俺はすぐにカルアに指示。眷属猫を召喚してもらってサーチする。
今は霧が深くてカルアの『ピーピング』も使えないからな。
「「「にゃー」」」
「みんな、探索お願い」
「「「にゃー!!」」」
3匹の黒猫はいい鳴き声をあげるとシュタっと駆けて一瞬で見えなくなった。
これで少しすれば周囲の状況も把握できるだろう。
その間に俺はメンバーに向き直る。
「ゼフィルス殿、ここが〈キングアブソリュート〉が攻略の難しさに一時撤退したという霧の深いダンジョンなのですね?」
「そのとおりだ。まずこのダンジョンの概要から説明するな」
エステルの言葉に頷く。このダンジョンは霧が出ていて視界がとんでもなく悪い。
しかも階層を進むごとにその濃さが増していき、下層の41層からは1メートル先すら見えないほどの濃い霧に包まれている。とてもでは無いが普通では攻略なんて出来ないだろう。
「見て分かるとおり、ここは霧に覆われたダンジョンだ。環境的には広い平地が広がっていて障害物になりそうな物はあまり無いが、霧に包まれていて周りが見渡せないのが特徴だな」
ここは標高の高い山頂のような環境。
なだらかな斜面がいくつもあるところで、樹木はあまり生えていない。
そのため周囲はだだっ広く、露出した岩がところどころにある程度という優しい地形だ。
ただ、周囲を覆う霧が難易度を跳ね上げているんだけどな。
前方が見えないため〈馬車〉で進むこともままならない。さすがに運転は危険なダンジョンだ。リアルだと壁とか行き止まりとか無いため、端がどうなっているかも分からない。〈馬車〉は封印だな。へたをすれば山から落ちるかもしれないし。
「さらにここでは罠やモンスターの奇襲が多く、要注意なダンジョンでもある。ここのモンスターは霧の中でも正確にこちらの居場所を掴んで、奇襲を繰り出してくるからな。このダンジョンでは奇襲されるのが標準と考えて行動するよう心がけてくれ。そして罠にも注意だ。ここには数種類の罠が存在するが、どれも危険なものだ。いつの間にか眠らされてしまう〈レムスイカ〉を筆頭に見えない罠が張り巡らされている」
要は先制攻撃してくるダンジョンだ。ターン制のRPGで、エンカウントすると相手から行動を開始するダンジョンと言えばどれほど難易度が高いか分かるだろうか?
しかし、これが〈ランク2〉なのか? という疑問もあるだろう。
〈ランク2〉と言えば下から2番目に攻略しやすい、難易度の低いダンジョンという意味。
こんな強くていいの? 視界不良で攻略は難しく、エンカウントも相手から行動とかむちゃくちゃだ。
これで〈ランク2〉ならこの先はいったいどうなってしまうのだろうと思うだろう。
だが、それは開発陣の罠だな。
ここは元々、「先に〈ランク1〉を攻略させる」ためのダンジョンとして創作されたダンジョンなんだ。
〈ランク1〉を飛ばして先に〈ランク2〉に行ってもお先真っ白で攻略不可能、まずは〈ランク1〉を攻略しよう、とプレイヤーを誘導させているわけだな。〈ランク3〉も同様で知らなければ2層への門がどこにあるのか分からないダンジョンである。次の門を見つけるには普通、上級職の探索能力が必要なわけだな。
要は「〈ランク1〉で上級職をしっかり揃えて来い」という開発陣のメッセージだ。
とはいえ救済措置が無いわけではない。この〈ランク2〉のダンジョンだが、ちゃんと攻略する鍵は存在している。
それを今日は取りに行こうと思う。




