#797 上級ダンジョン帰還。初の〈転移水晶〉起動!
「アーロン先輩、ナイスファイト! 初のエリアボス撃破もおめでとう~!」
「おう! ありがとよ! 〈エデン〉が控えていてくれたおかげで全力で戦えたぜ」
〈サンハンター〉、エリアボスに単独で勝利する。
その戦いは際どい時もあったが勝ちは勝ちだ。
たった一勝ではあるが、エリアボスが〈サンハンター〉でも倒せない相手ではないと実証出来たことは大きい。
俺たち〈エデン〉組とミューとリャアナは戦闘が終わったばかりで座り込む人が多い〈サンハンター〉の下へ行き、労いと祝いの言葉を贈る。
俺たち〈エデン〉の目的は〈サンハンター〉が全滅、ないし危機が訪れたときのバックアップ。最悪俺たちが抑えている間に〈転移水晶〉で撤退することも視野に入れられたため、〈サンハンター〉の面々は後のことを気にすることなく全力で戦えたのだ。
「みんな、お疲れ様、おめでとう」
「先輩方、お疲れ様です。エリアボス撃破本当におめでとうございます!」
ミューとリャアナも先輩たちにポーション類を渡しつつ労いと祝いの言葉を贈っていた。
実際初の上級ボス相手でタンクが崩れたのに勝利するのは中々できる事じゃない。
結局〈エデン〉の手を借りず自分たちの力だけで成し遂げたからな。
今後を見れば単独でエリアボスを撃破できたのは非常に大きい。
俺にとっても嬉しい結果だった。
さて、一通り気分が盛り上がったところで本命に行こうか。
エリアボス〈ヤギキイノシシ〉の沈んだ後には金色の宝箱が残されていたのだ。
これはビギナーズラックか。初撃破の時は大体良いものが当たるとされている。
しかし2連続で〈金箱〉とは幸先が良いな! いやマジで。
「〈金箱〉」
「誰が開けるの?」
「そりゃあ最初はギルドマスターだろ。俺の時もそうだったし」
目の前にあるのは心躍る〈金箱〉、しかしそれは別パーティのもの。
自分たちは手に出来ないし開けることはできないのだ。
そのことにやきもきしているのが目に見える形でカルアとラナが俺に聞くが、俺に言われても開けられないのだ。
静かに全員の視線がアーロン先輩へと向く。
「兄、さっさと開けて」
「強大なボスを死力を尽くして戦った兄に向かってずいぶんじゃねぇか妹よ」
「今度はジェイウォンとニャルソンと、〈金箱〉を一緒に喜びたい」
「うぐ、あいつらには後で別に褒美をやるか」
ミューの言葉にアーロン先輩は沈黙、テイムモンスターが全滅したのは大きかったな。復活させるにはアイテムを使うか【ブリーダー】系テイマーのスキル、【神官】や【巫女】など特定職業の復活魔法などが必要だ。
アーロン先輩はどうやら復活系アイテムは使わない気らしい。あれはすんごくお高い物だからな。今日はこれで終わりの予定だし、帰って復活させてもらったほうがコストが安いという判断だろう。
そんなことが背景にあり、ジェイウォンとニャルソンは勝利の〈金箱〉を一緒に喜べない。それがミューにとって少し不満があるらしい。
とはいえ初のエリアボスを倒せたんだからすごい事だと思う。
頑張れアーロン先輩。
「よし。じゃあギルドを代表して俺が開ける。異論は無いか?」
気持ちを切り替えて今一度確認するアーロン先輩だが、特に異論も出なかったので〈金箱〉の前に座り、そのままパカリと開いた。
「「あ」」
小さく声を漏らしたのはラナとカルアだな、その顔にはお祈り忘れてるよと出ているかのようだ。
しかし、それ以上口には出さない。
〈サンハンター〉のギルドには御神体がいないのだよきっと。
全員が注目する中、アーロン先輩が宝箱からそれを取りだした。
それは巨大な漆黒の盾。
「おお! これは大盾、いや両手盾か?」
「上級装備の盾か!」
大男のアーロン先輩でも少し屈めば身体全体が入りそうなほど巨大な盾にダンカン先輩がはしゃいだ声を上げた。
黒を基調とし、いかにも硬そうな印象を与えるカイトシールド型の盾だった。特徴的なのがその上部に生えている2本の巻き角。それは先ほどの〈ヤギキイノシシ〉の角を思わせる。
もちろんそれが何か俺は知っている。
しかし、それを言うわけにはいかないので取りだした〈幼若竜〉で『解析』させてもらう。
「アーロン先輩、それは〈黒角盾・メギノノ〉というようだ。分類は両手盾。中々強いぞ」
「両手盾か!」
解析結果に喜色の声を出したのはアーロン先輩ではなくダンカン先輩だった。タンクだしな。両手盾は両手で装備する盾なので防御重視、つまりほぼタンク専用装備だ。
この中で装備するのは誰になるのか、考えるまでも無い。
上級の〈金箱〉産装備がドロップしたこと、そしてそれが両手盾だったこと、その能力に〈サンハンター〉で歓声が上がる。
「今回のボス戦で危険だった原因は、やはりタンクが戦闘不能になったからだ」
「その原因となったのは、あの捕獲からのダウン、連続攻撃」
「この盾の能力『捕獲無効』は非常に心強いね」
アーロン先輩が今のボス戦を振り返り、ミューが原因を述べ、リャアナが顔を綻ばせながら言う。
そう、この盾は〈ヤギキイノシシ〉からドロップした装備だ。それ故か『捕獲無効』というちょっとマイナーだが一部のモンスターにとても有効なスキルを持っていた。
これで再び〈ヤギキイノシシ〉に挑んでも善戦できる可能性は高くなる。
何度もエリアボスを倒せればそれだけ装備も良くなり、ボスも倒しやすくなる。
最初のドロップとしてはかなり良い方だった。さすがはビギナーズラック!
これは俺たちが〈サンハンター〉に付かなくても単独で上級ダンジョンのエリアボス周回ができる日は近いかもしれないな。
今回俺たちも〈上級転職チケット〉を1枚手に入れたし、戦果は上々。
〈エデン〉は今回あまり動くことは無かったが、〈サンハンター〉の動きを見れただけでも十分有用だった。
こうして初の上級ダンジョンエリアボス撃破ツアー、もとい〈上級転職チケット〉回収周回の記念すべき1回目が終わったのだった。
「ジェイウォンもニャルソンもいないし、今日はこれでおしまいだな。じゃ、撤収するぞ!」
「「「「「「おー!!」」」」」」
〈サンハンター〉もミューたちがボスドロップとテイムモンスターの〈御霊石〉を回収して帰還準備に入る。
「んじゃ、俺たちも少し早いが帰るとしよう」
「分かったわ」
「Aランクギルドの戦闘を見ているのもためになりました」
「本当ね。普段とは違う有意義な時間だったわ」
「ん、強かった」
こっちも了承。すでに採集は結構やったので良い感じに素材も集まっている。
残る理由も無い。
俺とアーロン先輩はお互いを見て頷き、〈転移水晶〉を取りだした。
「じゃ、帰るぜ! 〈転移水晶〉起動!」
「〈転移水晶〉を起動する!」
俺とアーロン先輩がそれぞれ〈転移水晶〉を掲げて起動すると、一瞬で光りに包まれ俺たちの見る景色がガラリと変わった。
そこは〈上下ダン〉、転移リングのある場所の真下だった。
「ふわ、本当に転移陣がなくてもここに転移出来るのね!」
ラナが周りを見ながら感心した様に言う。
〈転移水晶〉は一つで1パーティをダンジョンから出入りさせる転移アイテムだ。広く迷いやすい上級ダンジョンでは非常に便利だと言わざるを得ない。
この1パーティというのはゲストメンバーにも適用されるのでちゃんとミューとリャアナも一緒だ。
ただ、ダンジョンに入る時は同じメンバーじゃないと〈転移水晶〉が発動しないので注意だな。
〈サンハンター〉のメンバーも初の〈転移水晶〉の効果にビックリしながら周りを見渡していた。俺も見渡すと出入り口付近にはざわめく学生が見えた。こっちを見てざわめいている。
「これが〈転移水晶〉。これがあれば上級ダンジョンの常識がひっくり返るな……」
そんなアーロン先輩のボソッとした呟きが聞こえてきたのだった。




