#083 おかしい呼ばわりされる俺。おかしいなぁ。
「今の気持ちをハッキリ言うわ。あなた、やっぱり頭おかしい」
「ひでぇ言い草だ」
本日第二回目のボスをリポップさせて、みんなにボス周回を説明したところシエラがジト目でそう言った。
「ボスの周回が出来るなんて、こんな話初めて聞きました。さすがはゼフィルス殿、博識です」
「ほら。エステルはこう言ってるぞ?」
「別に悪く言っているわけじゃないわ。確かにすごい発見だと思うわよ。ボス周回なんて私でも初めて聞いたもの。ラナ殿下はどうです?」
「私も初耳よ! 王書庫でもそんな記述見た事無いわ。―――単に忘れちゃっただけかも知れないけど…」
「じゃあ何がおかしいんだ? レベル上げの効率を考えたら最善だと思うんだが」
「そうじゃなくて、せっかくボスクリアして、ダンジョン攻略して、金箱も開けて、証も手に入れたというのに余韻も何もあったものじゃないわ。しかも今度はボス周回ですって? 余韻が吹き飛んじゃったじゃない」
「丁寧な解説!」
うん、まあ。
確かに今の〈ナイトゴブリン〉戦は良かった。
みんなの連携がピタリとハマって、これぞパーティ戦って感じで素晴らしく楽しかった。
ドロップも大当たりだった。
確かにゲームをやり始めた頃の俺ならこの状況、感動や余韻を噛みしめていたような気が……、しないな。「今の戦術もう一度試したい!」とか言って10回くらい再挑戦していた気がする。
「じゃあ救済場所で余韻を楽しんだらボス戦やろうぜ」
「何がじゃあなのかしら? まったく。けれど私は賛成しておくわ。確かにわざわざまたここまで来るのは苦労するし…」
「私はゼフィルス殿に付いていくと決めていますから」
「良いじゃない! 私ももうちょっと魔法使ってみたかったのよ!」
「私ももちろんやるよ」
なんだかんだ言いつつも満場一致だ。
ラナはバフと回復を使えるのが今のところボス戦だけなので積極的だ。
みんな楽しそうで何より。
というわけで二周目だ。
一回目も良かったが、やはり二回目の方がもっと連携が深まっていた。
〈ナイトゴブリン〉に対してすでに攻略ではなく連携の練習になりつつあったな。
無事10分ほどで倒して終える。宝箱は木箱だった。残念。
俺は木箱に慣れているが、何気に〈姫職〉組は初めての木箱だったらしい。盛大に肩を落としていた。今までが強運過ぎただけだ、普通銀箱でもそう簡単には出ない物だぞ?
帰ったら〈幸猫様〉にお供えしような。
二周目もあるんだから三周目以降も当然ある。
周回の醍醐味だな。結局夕日が沈みかけるまでMPポーションを活用して周回しまくってしまった。
周回数はなんと20回! 新メンバー組は初めてのボス周回だったのに頑張ってこなしてくれた。
おかげで俺のレベルは【勇者LV26】に、ハンナは【錬金術師LV29】に上がった。
ハンナは中位職だからレベルの上がりが早いな。初級中位のレベル限界はLV35までなので、次のダンジョンでカンストするかもしれない。
〈姫職〉組も全員LV20まで上がったそうだ。今日だけで5レベルも上昇している。
これがボス周回の効果だ。ついでに言えば初級中位ボスの効果でもあるな! さすが、いい経験値してる。
初級下位では俺がLV20になるまで4,50回はボスを倒さなければ成れなかったのに、初級中位ボスなら20回でこのレベルだ。すばらしい。
やはり最低基準のLV15で初級中位に来させておいて正解だったな。
効率が良い。
彼女たちは職業LV20になって次の段階、〈スキル〉〈魔法〉の第二段階が解放されたはずだ。
これで戦闘の手段がかなり開けたな。
「日も暮れそうだしキリも良いので今日は解散しよう」
「賛成よ! さすがにヘトヘトだわ!」
「十分元気じゃねぇか」
ラナはほとんど動いていなかっただろうが、俺たちの方が動きまくっていたはずだぞ?
証拠に声にはまだまだ覇気で溢れている。
おそらく「もういっちょボス行こう!」と言えば「オーイエー」と返してくれるだろう。(※そんな事は無い)
「明日はギルド集合な。三人とも第二段階目が解放されて相談したい事もあるだろう?」
「そうね。また相談に乗ってくれるかしら?」
「私も是非。お願いいたします」
「私に教えるのも当然よね」
「ラナ以外は承った」
「なんでよ! 私にも教えなさいよ!」
「あのゼフィルス君『素材返し』もLV10になったの。次は何を取れば良いのか教えてもらえないかな」
「いいぞ。だけどハンナの次のスキルはな――」
「ちょっと待ちなさいよ。私にも、その、お、教えて、ください!」
焦るラナが最後には素直になった。さすがツンデレ。
最初から素直に言えばいいのに、と思わなくはないが。しかし、このツンデレこそラナの持ち味なので俺はツンツンしたラナを推奨する。その後特大のデレをください。
結局ラナにも伝授すると約束し、その日は解散になった。
〈空間収納鞄(容量:大)〉は俺が預かり、マリー先輩のギルドへ売りに行く。
使う物以外を仕分けして売りに出すと、マリー先輩が目をパチクリさせて言う。
「兄さんっておかしぃなぁ」
「マリー先輩、あなたもか」
シエラに続きおかしい呼ばわりされる俺。おかしいなぁ。
「毎度ボス素材をこんなぎょうさん持ってきたら正気を疑うのも当たり前やん。とりあえず預かるわぁ。あ、そういえば〈エンペラーゴブリン〉の査定が終わったんよ。これ査定表な!」
「おう。査定額はこれでいいぜ」
「ほな、学生手帳出して。入金するわぁ」
「オーケー。今後もたくさん持ってくるからぁ」
前回の〈野草の草原ダンジョン〉の買取額は380万ミールだった。
初級下位の時より低いがこれはしょうが無い。素材の需要の問題で価値に逆転現象が起こってしまったからな。所謂インフレだ。
それにボス周回もしていないのでこんなものだろう。むしろ思ったよりだいぶ多かった。
これも初級中位ダンジョンに2年生がほとんど潜っていないせいだろう。この素材も少し品薄だったからこそこの値段のようだ。なら、次は少し落ちるな。と予想する。
あと、この金額の多くはレアボスの〈エンペラーゴブリン〉の素材関係みたいだ。
あいつは初級上位並のボスではあるが初級上位に出現するわけではない。レアボスがそんな簡単にそこらにポップしたらレアじゃないからな。
〈エンペラーゴブリン〉は初級中位に偶にしか出現しないボスで、しかも一段上のボスだから倒せるか微妙な相手だ。
故にその素材は市場に出回る事はほぼ無く、今回はオークションで落札が行われたらしい。そして付いた値段が一体で170万ミール。
日本円にしても170万円なのでかなりの儲けだろう。
今回の〈エンペラーゴブリン〉は俺一人で倒したのでその査定額170万ミールはそのまま俺の懐だ。ハンナもそれはゼフィルス君のだよって言ってくれたからな。
その他素材分はハンナと山分けして受け取るのは計275万ミール。
締めて今の手持ちは559万ミールだな。
中級になれば吹けば飛ぶような金額だ。中級でも使える〈優しいスコップ〉なんかを買えば余裕で全財産が溶けるだろう。もうちょっと稼がないとな。