#779 1対6の大激戦。全てぶった斬れば怖くない!
「みんな、ありがとう!」
ギリギリのところでHPが全回復したトモヨが喜色を浮かべて振り向いた。
今回もエステル戦と同じくほとんど孤軍奮闘状態だったが、前とは違う。
トモヨには今回、頼もしい仲間がいるのだ。
もうほんの数秒でトモヨを倒せただろうに全回復されてしまったソードマンは、しかし愉快そうに笑う。
「シャーッハハハハ! こいつはたまげたぜ! ギルメンが3人も退場してこっちは何の成果も無しかよ! しかもトモヨさんが全回復してるとか、ヒーラーいすぎだぜ!」
戦闘課ギルドはヒーラー不足に常に悩まされている。
なのに〈アークアルカディア〉には回復魔法を使える人材がとても多く、羨ましい限りだとソードマンは笑う。むしろ面白くなってきたと言わんばかりの表情だった。
察しているかもしれないが、ソードマンは戦闘狂いなのだ。
「笑っていられるのも今のうちよ!」
サチが剣を下段に構えダッシュする。
それに合わせ、全員でソードマンへと攻撃を開始した。
「『魔弓・チャージショット』!」
「『魔本・ラージボールフレア』!」
ユウカが威力の高い攻撃を放つ矢を構え溜めに入ると、エミが大きな火球を放つ。
「ユニークスキルのクールタイム終了までまだまだ掛かるわ! 援護に徹するわね! 『ダークバインド』! 『反転ヒール』! 『ダークハイヒール』!」
エリサはデバフや状態異常系の多くがクールタイムに入っているため、相手の足元から闇の手が伸びて捕まえ〈拘束〉状態にする魔法を選択する。そして次に直接攻撃に切り替えた。今回の『ダークハイヒール』は相手にダメージを与える攻撃なのだ。
これは【ナイトメア】の特殊性である。『ダークヒール』系は『反転ヒール』を使用することで攻撃魔法としても使用できるのだ。反転中は敵に当てるとダメージを与える魔法となる。味方に当てても回復はせずフレンドリーファイアになるのがやっかいだが。
しかし、ダメージが固定なためにタンク相手には相性が良いのが最大の利点だ。
「シャーらくさい! オララララ!」
「げっ! 何あれ、『ダークバインド』を斬っちゃったわよ!?」
「わ、私の火球も!?」
地面から生える無数の手で拘束しようとするが、ソードマンが全部切り払い、さらにはエミの火球までぶった切ってしまった。その後に高速で飛んで来た『ダークハイヒール』の小さな球体もぶった切って消滅させてしまう。正直言ってむちゃくちゃだった。
そこへチャージして威力を溜めたユウカが狙い撃つ。
「ッシ!」
「シャーハッ!! 『ブレイクソード』!」
しかし、それを目で追ったソードマンがスキルを合わせ、ぶった切って消滅させてしまった。チャージマックスな攻撃が相殺である。
「え、ええええ!?」
「ちょ、何あれ!? トモヨちゃんはあんなの相手にしてたの!?」
エリサが思わず叫ぶ。
いくら上級職だからと言って、この数の攻撃を全て斬るとか意味が分からなかった。
現在ソードマンはバフが五段階目に突入しており、現状では最高のバフを身に宿しているような状態。もう通常攻撃がスキルを相殺出来る域に達しており、ソードマンはノーダメージだ。
「飛んでくるものは全部斬る! それが真のソードマンだ! 全てぶった斬れば怖いものなんてない!!」
その理屈はどうだろう?
【アイ・アム・ソードマン】の強みは何と言ってもその段階的に強くなるバフにある。
『ワンブーストソードマン』から始まり、ワンランクずつブーストして強くなっていくのだ。
一度ブーストすると次のブーストまでクールタイムや条件があり、一気にマックスまでブースト出来ないという制限があるものの、ブーストすればするほど強くなる。【アイ・アム・ソードマン】が全開までパワーアップしたとき、高位職の上すら切り伏せることが可能なほどの強力な職業である。
ちなみに現在の状態である『ファイブブーストソードマン』は〈五ツリ〉スキルに当たり、ここまで強化させてしまうと正面からのぶつかり合いでは上級高位職でも1対1では遅れを取りかねないレベルとなる。
ソードマンも条件を満たして〈五ツリ〉を獲得しており、上級職に就いた学生の中でも頭一つ飛び出た強さを持っていた。
なお〈六ツリ〉は残念ながら開放されていないため、これが今のソードマンの全力の強化状態だ。
重複されまくった攻撃力と素早さは並ではない。ただその強すぎる強化と引き換えにして防御力が低下する。これも重複するので、攻撃が一発でも直撃すれば大変なことになる。そのため【アイ・アム・ソードマン】はゲームではネタ職業扱いされているのだが、ソードマンから言わせれば全部斬り捨てるので問題無しらしい。
「サチさんに続き援護します『ソニックエルソード』!」
「オッケー! 『魔剣・ホーリーストライク』!」
しかし、数の上では〈アークアルカディア〉が有利。
サチがトモヨの右側から回り込んで行くのに合わせ、フィナリナが左からソニック系のスキルで素早く回り込んだ。
「甘えぜ! そんなんで今の俺は止められねぇぞ! シャハハハハハ! 『二剣風斬』! オラー『剣斬』!」
「うそ! ちょ、速っ!?」
「くっ!」
「2人とも! 『ダブルシールドバッシュ』!」
「おっとー!!」
しかし、圧倒的な速度とパワーを誇るソードマンには通用せず、薙ぎ系スキルで2人はスキルごと払われてしまう。
しかも反撃のおまけ付きで、サチとフィナリナはギリギリ盾で受けるがダメージをかなり負い、トモヨが慌てて割り込んだ。
あまりにもステータスが違いすぎる。
フィナリナがサチと自分を回復させる『エリアヒール』系を発動する。
「『オーロラエリアヒール』!」
「バフを掛けるよ! 『魔本・スピードブースト』! 『魔本・ディフェンスブースト』! 『魔本・パワーブースト』!」
エミは攻撃をバフに切り替えて味方を援護。
「クールタイムが終わったわ! 『誘いの魅力』! 『悪魔の投げキッス』! 『悪魔の微笑み』! 『誘いの睡魔』!」
エリサはやっとクールタイムの終わったデバフと状態異常で妨害しようとする。しかし、
「シャハハハ! 状態異常など俺には効かん! 『気合』!」
『気合』は状態異常を防ぐ防御スキルだ。自己強化に似ており発動中でも動くことが出来る。自分にしか使えない上に耐性系パッシブスキルではなく防御系アクティブスキルという使いづらさだが、耐性ではなく防御スキル扱いなので『耐性貫通』系が効かないのが強みだ。つまり、発動中は状態異常をほぼ負わなくなる。
「ちょ!? これも効かないの!? ぐぬぬ、でもデバフは掛かったわ!」
状態異常こそ効かなかったがデバフまでは消せない。
攻撃力の下がる『悪魔の微笑み』によってソードマンの攻撃力が僅かに下がる。
フィナリナとサチが切り込み、トモヨが2人を守るように援護、しかしまったくソードマンに敵わない。
「フィナちゃん!? 『ダークエクスヒール』!」
「これは、このままではダメ、ですね」
エリサのダークヒールもすでに攻撃ではなく味方の回復に使われていた。
一歩間違えば誰かが退場してもおかしくは無い攻防で、フィナリナが切り札を切る決断をする。
「サチさん、12秒だけ任せてもいいですか?」
「ええ!? わ、分かったわ! なんとか持たせてみる!」
「任せて、サチは守って見せるから」
前をサチとトモヨに任せ、フィナリナが後退したのだ。
「シャッハー! 『投剣』!」
ソードマンは当然のように慣れた手つきで大剣を一瞬だけ空中に放ると、体に着いた剣を1本掴んで装備し、投擲してきた。しかしフィナリナは盾で防ぐ。
その間にサチが切り込み、トモヨが受け止め、ユウカが援護射撃し、エミがバフと回復、エリサも回復に集中する。
その間にフィナリナが温存していたユニークスキルを発動した。
「チェンジ――『大天使フォーム』!」
フィナリナが天使に変身した。




