#775 観客席。初動の動きに盛り上がり、中盤戦へ。
エリサ、フラーミナが〈ファイトオブソードマン〉の東部隊を足止めしている間に〈中央東巨城〉はカタリナ、ロゼッタ、フィナリナが落とすことに成功すると、会場が沸いた。
「なんだあの戦法、すげぇ!?」
「いくら状態異常の中でも掛かりやすい〈睡眠〉とはいえ、あれは異常すぎるだろ!?」
「悪魔っ娘可愛い」
「MPドレイン!? そんな魔法が存在するのか、聞いたことないぞ!?」
「吸収されたあの男子、立てるか? 立てないか?」
「俺も吸収されたい」
「俺、悪魔っ娘ファンに転向しようかな」
「〈睡眠〉強すぎるだろ!?」
「猫ひゃん!」
観客席では様々な感想が飛び交い、それを聞く〈エデン〉メンバーも初めて見る戦法に目を見開いていた。
「おおおおブラボー!! エリサ超強ぇ~ッ! 気持ちいいくらいメガヒットしたー!!」
俺も思わず叫んでしまう。
〈睡眠〉は数ある状態異常の中でも特殊で、付着しやすい特性を持っている。その代わり解除もしやすいため、状態異常にはしたが手を出せずに放置するか、さもなくば大ダメージを与えるため、タメを作って一撃で屠る戦法などが存在する。〈睡眠〉状態はダメージが倍になるからだ。
とはいえギルドバトルではほとんどタイマンなどはなく、大体の場合味方が近くに居るため〈睡眠〉はすぐに解除されてしまう。
そのためあまり強力だとは認識されていなかった。普通は〈麻痺〉の方が怖い。
しかし、〈麻痺〉はかかりにくい上に蓄積型で、一撃では〈麻痺〉にならないことが多い。というかそれが普通だ。4,5発当ててやっと〈麻痺〉になるという感じ。
一方〈睡眠〉は一撃型で、レジストが成功するか否かで状態異常になるかならないかの二択となる。
パーティ全体〈睡眠〉のスキルは非常に強力ではあるが、魔法職はRESが高く素でレジストされやすい、パーティ全員を〈睡眠〉にするのは難しいために対応は難しくない、と認識されていた。これも簡単に解除ができるが故の弊害である。
だが、エリサの魔法はまさに今までの認識を覆すに十分な威力を秘めていた。
〈睡眠〉は解除しやすいからこそ大きく問題視されていなかったのに、解除しにくい状態異常となると一気に化ける。
何それ〈麻痺〉とどう違うのと。一撃で掛かる〈麻痺〉ではないかと。しかもパーティ全体? は? 何それ状態だった。
しかもMPドレインのおまけも付く。
このコンボが強いんだ。ダンジョンでは通常モンスター相手にこれをぶっ放してMPを全回復。その後に〈即死〉のコンボで通常モンスターを全滅させるという、意味不明な強コンボで無双していた強職業だからな。
だが〈即死〉は自分よりLVの低い相手じゃないと有効打になりにくい特性があるため、エリサよりレベルの高い上級生を〈即死〉させることは難しい。
同レベル帯でも刺さらないために、レベルカンストが標準のギルドバトルでは〈即死〉まではできないコンボではあるが、MP吸収だけでも非常に脅威になる。それが【ナイトメア】だ。
「とはいえ万能ではないんだよなぁ、『MP大睡吸』は単体だし、MP吸収量は最高でも300程度、砂時計が落ちきる前に使えるのはクールタイムの関係で2回だけだ。第一『睡魔の砂時計』は破壊されやすいからエリサに範囲攻撃を1発撃ちこめば防御しきれずに割と簡単に破壊することが出来てしまうんで、対処はそんなに難しくないんだよなぁ」
【ナイトメア】のMPドレイン魔法である『MP大睡吸』は単体技だ。しかもクールタイムがそこそこ長く、砂時計1回辺り2回くらいしか使えない。2回目のクールタイムが明ける前に砂時計の砂が全部落ちるだろう。
しかし、ビックリするくらい上手く刺さったな。もう少し『MP大睡吸』のLVを上げておくべきだったか?
『MP大睡吸』って自分が回復するための魔法という認識が強いから、今回みたいに相手のMPを奪って何も出来なくする、という戦法はあまり想定されていないんだよな。
何しろ『MP大睡吸』の後は〈即死〉のコンボに続くから相手は生きていない事が大半だし。ならLV1で十分という認識なのだ。
でも対処法を知られたらすぐに対応されるだろうし、LVを上げるのはやっぱり無しか? 悩むな。
あ、1人のMPは全部吸い付くしたっぽい。これであの男子は通常攻撃くらいしかできる事が無くなったな。南無。
そっちは放置して、残りの眠っているメンバーをエリサは狙う。〈即死〉が使えないので『夢喰い』などでHPをドレインしていくが、砂時計が落ちきる方が早いな。
ほら、砂時計が落ちきった瞬間、4人の〈睡眠〉が解除されたぞ。
「あ! 起きたわ!」
「時間にして3分くらいかしら。初動でやられたら致命的ね」
「フラウの撤退が見事ですね。砂時計が落ちきる前に撤退準備に入り、ミーちゃんとフーちゃんをまた入れ替えてエリサ殿を回収。そのままロゼと合流するようです」
ラナとシエラが相手が食らった〈睡眠〉の評価を下し、エステルが作戦を見事遂行した2人の手腕を褒めていた。
俺も手放しで褒める。
また、エステルはロゼッタのことをいつの間にかロゼ呼びになっていたな。同じ「騎士爵」だし、いつの間にか仲を深めていたのかもしれない。
「いやあ、上手くいけば〈中央東巨城〉は奪えると思ったけど、予想以上に上手くいったな~。いや【ナイトメア】の対処法を知らないんじゃ無理もないか」
「ああ、完全に初見殺しだからな。まさか、【悪魔】系の職業がここまで強いとは……」
「メルト様もなってみる? そしたら私は【天使】になってもいいよ?」
「いらん」
「即答!?」
メルトとミサトは相変わらず仲が良いな。
「さて、となると問題は〈中央西巨城〉側だな」
東側は完全に〈アークアルカディア〉の優勢だ。上級生が起きてしまったことで〈南東巨城〉が確保できないが、〈北東巨城〉は〈アークアルカディア〉が奪えるだろう。
東部隊の上級生たちはまだ戸惑っているが、サブマスが説明しているのですぐに行動を起こすはずだ。
しかし西側は最初の作戦が失敗。
相手のギルマスが予想以上に柔軟な人物のようで〈エデン〉の戦法を研究し、同じ〈スタダロード戦法〉を取ってきていた。
戦法が同じで巨城への隣接もほとんど同時だ。後は巨城の削り合戦となるわけでどちらが先取できるかは運が多く絡む。
しかし〈ファイトオブソードマン〉、なるほど学園に選ばれた試験官なだけはある。
妨害などはせず、まっすぐ巨城へ向かい、そして取り合いを選択するとは、これは勝つための戦法ではない、運が必要以上に絡む真面目すぎる戦法だ。これは勝ちを狙っていない、対等な立場で評価を下そうとしていると言っているようなものだ。熱いな。
いや、この会場の人の集まり具合や、学園主催ギルドバトル再開の大々的な告知などの影響もあってこういう戦法しか取れないのかもしれない。
試験官が妨害をしちゃうとまずい。それが学園がとっても注目しているギルドバトルでしてしまうともっとまずい、かもしれない。故に〈ファイトオブソードマン〉は真面目にならざるを得なかったのか?
「とはいえ〈アークアルカディア〉を相手にあっぱれだと言うべきか。〈中央西巨城〉は〈ファイトオブソードマン〉の手に渡るとはな」
中央巨城二つ確保ならず。
〈中央西巨城〉を先取したのは、〈ファイトオブソードマン〉だった。惜しかった。
巨城のHPが残り僅かとなり、お互いに手数を増やして対抗していたがラストはさすがは上級職と言えばいいのだろうか、相手のギルドマスターが温存していた強力なスキルでズドンッして掻っ攫っていったのだ。さすがは上級職の火力だ。
「これで点数はほぼ互角だな。全体的に〈アークアルカディア〉の方がレベルが低いが、渡しておいた〈ダッシュブーツ〉のおかげでスピードはさほど引けを取っていない」
「しかし、やはり新メンバーはまだまだ実戦慣れして無いな。小城の確保がやや遅い」
「要練習だな。比べて、サチとユウカの2人は鮮やかだ」
「夏休みに相当練習していたみたいだからな」
「そうかぁ。ギルメンが頑張っている姿を見ると、なんだか嬉しくなるな」
メルトと状況を見て分析し、その光景に少し嬉しくなる。
今回はDランク昇格試験であると同時に親ギルド昇格試験でもある。そのため俺たちは個人の動きにも注目していた。
そうこうしている間に全ての巨城が陥落する。
〈アークアルカディア〉側は〈中央東巨城〉〈北東巨城〉〈北西巨城〉を確保。
〈ファイトオブソードマン〉側は〈中央西巨城〉〈南西巨城〉〈南東巨城〉を確保した。
小城の点数はやや〈アークアルカディア〉がリード。
これは東側の対人戦の混乱が響いている。
とはいえ、小城を取るスピードは〈ファイトオブソードマン〉の方がやや上なため、どちらに勝負が転がるかはわからない。
つまりは勝負を決めなくてはならないだろう。
「初動が終わって中盤戦。このDランク試験では〈敗者復活〉ルールが適用されている。ここからは対人戦が始まるな」




