#753 臨時パーティ集合。そして集団戦開始!
ラダベナ先生に呼ばれた1組の相方は【ハードレンジャー】に就く、スナイパーのミューだった。
呼ばれたミューは早速俺を見つけると、その小さな体を身軽に動かしトットットとステップするように駆けてきた。そして俺の目の前で止まる。
「よろしくなミュー」
「うん。よろしくゼフィルス」
あのクラス対抗戦で共に戦ったクラスメイトということで、俺とミューとはそれなりの仲だ。軽く手を挙げてハイタッチする。
「そういえばミューってLV今いくつなんだ? 確か前もすげぇ高かったのを覚えているんだが、また上がったのか?」
「もち、日々の訓練は欠かしていない。ダンジョンも、兄の手を借りたけど中級上位ダンジョンまで行った。今はLV73」
「もうすぐカンストじゃん! というかミューってお兄さんいたんだ?」
「うん、〈サンハンター〉のギルドマスターしてる」
「マジか!」
ミューと話が弾む。
そういえばミューとこうして1対1で話すのは初めてだったりする。
あまり話さない子だし、クラスメイトと1対1で話す機会自体が少なかったりするし。
後何気にミューのお兄さんはAランクギルド〈サンハンター〉のギルドマスターをしているらしい。何その新情報、初耳なんだけど!
〈サンハンター〉といえば上級ダンジョンにも出入りできる強豪ギルドで、マリー先輩が上級の素材の納品を依頼しているギルドでもある。
かなり強力なギルドではあるのだが、ギルドマスターがとある事情によりギルドバトルで活躍が出来ないため、よくBランクギルドから〈ランク戦〉を挑まれているという話をこの前聞いたな。
また、うちのクラスでは目の前のミューと、【氷槍士】のリャアナが所属しているギルドでもある。
そんなことを考えていると、2組からもメンバーが集まってきた。
「ハロー、えっとゼフィルス君って呼んでいい? 今日はよろしくね」
「仲良くしてくれると嬉しい」
やって来たのは弓を背に持つ少女、レミと、例の最初の模擬戦で勝った「熊人」の少女アディだった。
2人とは一度クラス対抗戦で戦ったことがある。
だが、これからって時に元〈2組〉の拠点が落とされて勝負がじゃんじゃんになっちゃったんだよな。
「久しぶり2人とも、呼び方は自由でいいぞ。今日は同じパーティだ、よろしくな」
「私、ミュー。1組、【ハードレンジャー】」
「あれ? ミューって人見知りするのか?」
なぜそんな話し方?
「うん。初対面の人苦手」
そういえば、ミューは一番最初のクラス分けの時、俺たちと顔を合わせないよう距離を取っていたのを思い出す。
あれは〈エデン〉メンバーが和気藹々としていたから遠慮していたんじゃなくて、単に人見知りしていただけだったのか。
「俺は良いのか?」
「うん。さすがに半年近くクラスメイトだったし。慣れた」
「それは嬉しいな。しかし、そんなんで野良パーティに近いこの授業は出来るのか?」
「大丈夫。後方射撃は任せて。人と近づかなければどうと言う事はない」
「後ろ向きにかっこいいな」
ミューってこんなキャラだったのか。
やっぱり話してみないとその子の本質って分からないもんだ。
その時3組からもメンバーが到着した。
「すまない遅くなった。少し手間取ってな」
「ハイウド君じゃん! 今日はよろしくな! あ、俺はゼフィルスって言うんだ」
「お、おう。俺の名はハイウド、職業は【サイボーグ】だ。よろしくな?」
おっとしまった、【サイボーグ】の彼とは一度話してみたかったので食いつきすぎてしまったかもしれない。
ハイウド君が少し仰け反り気味に頷いていた。
大丈夫だ。こういうときは相手が興味ありそうな話題で気を引けばいい。
「ハイウド君とは一度話してみたかったんだ。まだ機械系は腕装備だけなのか?」
「あ、ああ。中々ドロップしなくてな。一応資金が出来ればボディを買おうと思っているが」
「ほほう。そうか、実は〈エデン〉にはな、未強化の〈錆びた〉系装備がいくつかあるんだが興味ないか? ちなみに頭、足、体、機械銃と機械拳まであるぜ?」
「ぬ?」
一気に興味がこっちに向いたのを察する。やっぱサイボーグは装備だよ。装備全パーツ装着しないと。腕だけサイボーグじゃやっていけないだろう。
実は〈エデン〉では以前から強化しないと使えない〈錆びた〉系防具というのがいくつもドロップしていた。他にも〈呪われた〉系や〈未覚醒な〉系など未強化だと装備できない装備というのが存在するが、〈錆びた〉系は機械系の装備と決まっているのでハイウド君に話を持ちかけたわけだ。お安くしておきますよ? その代わり強くなってね?
「そ、その話は授業が終わったときにでも詳しく」
「決まりだ」
俺とハイウド君はグッと固い握手を交わした。放課後が楽しみだぜ。
「なんだか妬けちゃうわね」
「でもここにはアホもバカもマヌケもいないから楽」
「そうね、でも私はハリセンの出番がなくてちょっと物足りないわ」
「レミちゃんはサドっ気があるよね」
「え? そ、そんなことないんじゃないかなぁ?」
おっとレミとアディを放置してしまったぜ。
「よし、俺たちの出番が来るまで少しパーティとしてのポジションと連携と交流を深めようか」
「オーケー。私はゼフィルス君がリーダーで良いと思うよ」
「うん。ゼフィルス、推せる」
「サンキューレミ、アディ。んじゃ、他に異論も無ければ俺が仕切らせてもらうがいいか?」
「うん。任せる」
「むしろ指示をしてくれたほうが助かる。ゼフィルスに従おう。俺のこともどうかハイウドと呼び捨てにしてほしい」
ミューもハイウドも異論は無いようだ。
ミューは人見知りだし、ハイウドは軍人気質みたいで指示や命令があるほうが助かるという。
そんなわけで、俺がパーティメンバーを取り仕切ることになり、続いてポジションなどを決めていく。
ミューとレミが遠距離アタッカー、アディとハイウドが近距離アタッカーだ。
アタッカーしかいないな!
まあ、今回は挑発スキルの効果がない対人戦。タンクは最悪無くてもいい。
そうなると、俺はヒーラーポジションだな。
ヒーラー不足が深刻。しかしヒーラーは若い数字のクラスには少ないのでしかたない。何しろ純ヒーラーがラナとミサトとエイローゼルしかいないからな。
理由はアタッカーの方が強いから。ここ〈戦闘課〉だし。タンクやヒーラーはどうしても若いクラスには少なくなってしまうんだ。俺のパーティを見れば分かる。
向こうを見ろ、純粋なヒーラーであるミサトはチヤホヤされているぞ。
「バランス悪いなぁ。特に後衛の守りが心配だ」
「私が囮する?」
「それしかないか、ミュー、頼んで良いか?」
「少し心配だけど、任せて」
ミューは斥候職でもある【ハードレンジャー】だ。敵からの攻撃にも敏感なので遠距離攻撃で狙われても回避は容易い。問題はレミへの対応だな。頑張ってほしい。
「んじゃ、基本アディがメインアタッカーを務める。サブアタッカーでハイウドがフォロー。レミはアディと連携しメインアタッカーだ。相手の遠距離攻撃で後衛が狙われるのが厄介なのでミューはそっちを狙ってほしい。ミューはさらに後衛のフォローも頼む。俺は遊撃をメインにしつつ、ヒーラー担当。とりあえずはこんなところか」
「良いと思うわ」
「良い男がいると本当に楽。元1組はずるいわ」
頷くレミとアディ。アディの口から何かこぼれている気がするがきっと気のせいだろう。
そんなことを考えているとラミィ研究員からお呼びが掛かった。
「パーティ、ゼフィルス。出番ですよ~」
「おっと、了解でーす。呼ばれたぞ、準備は良いか?」
「「「「うん(おう)」」」」
全員準備オーケーなので、パーティ模擬戦が開始された。
「相手は、アケミたちのパーティか」
「久しぶりね勇者君! 残念ながら今回も敵同士だけど!」
「はは、またボコボコにされてしまうのか」
相手のメンバーは2組のアケミとカジマル、1組からはキールとラクリッテのようだ。3組の子はちょっと分からない。
「わ、私が前に出ますから。援護をお願いします!」
「任せてくれ。僕の鎌で一撃で仕留めよう」
「あの、でもキール君、お面の上にめがねなんかつけて、ちょっと変だよ?」
「それは言わないでくれ」
キールは〈惑わしのメガネ〉とドクロのお面である〈黄泉のお面〉をつけていた。本気モードというわけだな。
ただその見た目はドクロの面にグルグルめがねという、ちょっと良く分からないファッションになっていてラクリッテを困惑させていたが。
「相手は防御と遠距離攻撃主体だな。ラクリッテは強いぞ。幻影に騙されないようにしてくれ。特にハイウド」
「無茶を言うな」
「後は即死のユニーク注意だな。キールは俺が担当する!」
キールは即死のユニークスキルを使う【ソウルイーター】だ。注意が必要。
俺に即死は効かないからな。あれって自分よりレベルが高い相手だと途端に成功確率が大きく落ちるから。LVが10も離れれば成功率はゼロ。
そこに俺の『即死耐性』と『状態異常耐性』も合わされば、いくら〈惑わしのメガネ〉と〈黄泉のお面〉を着けていても確実に無効化だ。
「お願いねゼフィルス君」
こちらの打ち合わせが終わったあたりでラダベナ先生がこっちに顔を出すと手を上に挙げて宣言した。
「揃ったね? これからパーティの模擬戦を開始する。――始め!」
「ふっ! 『大ジャンプ』!」
「それはさっき見させてもらったからね。カウンター決め放題だ。『ソウルフィアー』!」
「うっ!?」
「『リカバリー』!」
「回復早っ!?」
「『インパクトガオー』!」
「ぽ、ポン! 巨大な盾壁――『ギガントウォール』!」
衝撃。
先ほど見たアディの『大ジャンプ』だが、これはキールの相手を〈恐怖〉状態にする『ソウルフィアー』によって迎撃されたが、俺が即回復。
アディがそのまま突撃したためラクリッテが巨大な盾壁で防御する。
うむうむ、さすがラクリッテ、回避せずに防御するのが正解だ。『インパクトガオー』は回避すると追撃を受けるからな。よく見えている。
その間に俺がキールに向かう。
「ゼフィルス君と言えど状態異常の前では! 『ソウルカース』!」
「残念だが、上級装備を舐めてもらっちゃ困るんだな!」
俺がキールに突っ込むと、キールは俺を〈呪い〉状態にするスキルで足止めに掛かった。
しかし、高い『呪い恐怖耐性』に加え、『状態異常耐性』まで持つこの〈勇銀装備〉には効かない。俺はガードすることなく受けきる。
「き、効かない!?」
「ぼ、僕が止めます! 『プリズンドーム』!」
「ナイスよカジマル! 続けて『フレアストーム』!」
すると【結界師】のカジマルと【アークメイジ】のアケミまで参戦してきた。
3対1か!
しかし俺の新装備の性能を見るにはちょうど良い。
俺はカジマルの結界に閉じ込められ、結界の内部に放たれたアケミの『フレアストーム』の直撃を受けた。
「やったかしら!?」
うむ、盛大にフラグが立った気がした。




