#739 〈祭ダン〉40層、全階層のモンスターを倒せ!
中級上位の最高峰、〈ランク10〉という位置についているのは、
――〈宵闇の祭壇ダンジョン〉。
難易度が中級上位ダンジョンの中で最も高く、攻略が難しいとされているダンジョンだ。
その理由はこのダンジョンの特殊性にある。
前にも言ったようにこのダンジョンでは〈馬車〉を使用する事が出来ない。
いや、正確には使えるが、馬車を使っても意味が無いダンジョンなんだ。
何しろ、ここにはダンジョンには当然あるハズの道というものが無く、あるのは祭壇と出入り口用の門だけなのだから。
「相変わらずよく分からない作りをしているわね」
「はい。私の〈馬車〉も使えなくて残念です」
40層に着いた瞬間、ラナが回りを見て眉を下げ、エステルもそれに同意する。
そうしていると目の前にある、1層にあったものとほとんど見た目の変わらない祭壇、そこの魔法陣が淡く光り出した。
「! おしゃべりはどうやらここまでみたいよ。来るわ」
「ん、モンスター20体、出現」
シエラとカルアの言うとおり、魔法陣からはモンスターの集団がポップした。
そこに登場するのはこれまで中級上位ダンジョンに出現したモンスター。
40層のモンスターは〈鬼ダン〉の下層に出現した〈オーガ〉系と〈サイクロプス〉系の群れだった。
もうお察しかもしれないが、この〈宵闇の祭壇ダンジョン〉は別名〈バトルタワー〉なんて呼ばれており、探索すべきフィールドが無い代わりに、祭壇から登場したモンスターを全て倒せたら次の階層の扉が現れるという特殊なダンジョンだ。
〈祭ダン〉は、階層ごとに〈邪神官〉という特殊な人型モンスターがおり、これまでの中級ダンジョンに登場した他のモンスターを召喚によって呼び出すというリクルートダンジョンでもある。
モンスターを倒しきると召喚主である〈邪神官〉が現れて倒すことが出来るようになり、倒せばクリア、次の階層の入口門が現れるという仕組み。
だが一度に登場するモンスターの数が割と厳しく、10体以上は当り前に出てくる。それが何ウェーブか登場し、最後に邪神官という感じだ。
1層から10層では中級下位のモンスターが、11層から30層では中級中位のモンスターが、31層から中級上位のモンスターがリクルートされて襲ってくる。
ここを攻略したければ、このモンスターの群れを49層分突破しなければならないのだ。
〈馬車〉で爆走し手軽に次の階層に進めない理由である。
ついでに言うと、ここのモンスターは〈馬車〉でひき殺す事が出来ない仕様なのもいやらしい。
一回一回戦闘しなくちゃいけないのだ。
しかも数が数なので多勢に無勢、さらにMPの残量が厳しく、撤退することも多いために攻略が難しい。1パーティで挑むのであればMPポーション必須ダンジョンでもある。
その代わり経験値が多くレベル上げには最適だし、最奥のドロップはその難易度に見合うものが多く、上級でも活躍出来る装備が多種ドロップすることもあり、俺はここの攻略を推奨している。
このダンジョンをクリアすれば上級ダンジョンは目の前だ!
ということでモンスターの群れに挑む。
「全体挑発とカバーを使うわ。――『シールドフォース』! 『守陣形四聖盾』! 『カバーシールド』!」
「まずは数を減らすぞ! ドデカいのをどんどん撃ち込んでいけ! 『シャインライトニング』! 『ライトニングバースト』! 『サンダーボルト』!」
「分かったわ、いつも通りね! 『聖魔の大加護』! 『獅子の大加護』! 『大聖光の四宝剣』! 『聖光の耀剣』! 『聖光の宝樹』!」
「了解しました。『レギオンチャージ』! 『レギオンスラスト』! 『戦槍乱舞』!」
「ん、いつもと同じ。『氷霧』! 『メガアイス・スラッシュ』! 『64フォース』! 『スターバースト・レインエッジ』!」
ここの攻略法は単純だ。
もうすっかり慣れた様子で全員が自分の役割を果たす。
さすがに40層目ともなれば全員が戦法を熟知していた。
集団戦になったとき、まずするのは相手の数を減らすこと、これがセオリーだ。
本来であれば道中のザコモンスターに毎回こんな大技を使っていてはすぐにMPが枯渇してしまうし割に合わない。
だが、このダンジョンなら別だ。階層にいる全てのモンスターを倒す必要があるからだ。
むしろモンスターが多いので範囲魔法を撃ってお釣りが来るまである。
20体を一気に一掃した瞬間とか超気持ちがいい。
MPポーション必須戦法ではあるが、これが安定してモンスターを屠れる一手だな。
俺たちが大技を使い切ってモンスターを屠りまくったのち、残っていたのは最初の半分も満たないモンスターたちだった。
「んじゃ、俺とエステル、カルアが接近戦で、HPが減っているやつから順に倒すぞ」
「はい。では私は右へ向かいます」
「ん、左側面から攻める」
「よし、なら俺は正面だ。ラス1は残すように」
「はい」
「ヤー」
軽く打ち合わせして散開。
俺が正面のモンスター3体を受け持ち、エステルは右にいる3体を、カルアは左にいる2体を受け持って、ラナはクールタイムが明けてから順に魔法を撃っていく。
防御面はシエラの自在盾に任せれば良いという、俺たちのこのダンジョンでは鉄板になりつつある戦法だ。
「ブオオオオオ!?」
「ガアアァァァァ!?」
次々とモンスターが倒れていき、そうして俺たちはあまり損耗する事無く残り1体まで減らす事が出来た。
ここで少し休憩である。
「全員、MPを回復、HPが減っている人はラナに回復してもらってくれ。最後の〈オーガ〉は俺が受け持つ」
その言葉に全員が祭壇の端、出入り口用の門まで集まる。
俺だけ祭壇に残された形だ。
「んじゃ、時間稼ぎだ『ガードラッシュ』!」
「ガアアア!!」
俺が1対1で〈オーガ〉を相手取っている間に他の全員が回復する。
なんでモンスターが残っているのにこんなことをしているのかというと当然理由がある。
「ゼフィルス殿、回復完了です」
「おっし、んじゃ倒すぞ――『ハヤブサストライク』!」
「ガアアア―――!?」
エステルの言葉に反応し、俺は素早く二回斬りつけて〈オーガ〉は光に還っていった。
それを見届けず、すぐに踵を返した俺は駆け出し、全員が集まる門まで戻った。
瞬間、またも祭壇に光が耀く、2ウェーブ目が始まる。
この祭壇はウェーブ制、最後の1体を倒すとウェーブが進行し次のモンスターを召喚する仕掛けとなっている。その辺〈道場〉と同じだな。
つまり、俺が最後の1体を倒したために次に待ち受けていたモンスターたちが現れるのだ。
「ん、『ソニャー』! 数同じ、20体」
「余裕ね。ゼフィルスも問題無く間に合うし、現れた瞬間、また蹴散らすわよ」
「はい、ラナ様。クールタイムはすでに全てが終わっています。いつでも攻撃が可能です」
カルアが探知して言い、ラナが自信満々に手を伸ばし、エステルも槍を構える。
ウェーブが来る事が分かっているなら待ち構える。これ常識。
門付近まで下がったのはフレンドリーファイア防止と囲まれないためだな。
「来たわね、集めるわ。『オーラポイント』! ――今よ、みんな撃って!!」
シエラの言葉に全員で先ほどと同じ事を繰り返す。
クールタイムを回復し、HPとMPを回復し、1ウェーブ目と同じく準備万端となって出迎える俺たちによって、2ウェーブ目のモンスターたちも瞬く間に光に返っていったのだった。
そうして俺たちは準備万端でウェーブを進ませ、今回は最後が5ウェーブだった、そいつは現れる。
「フィールドボスね!」
最後のウェーブは2体のモンスター、それはこの40層を守護するフィールドボス、〈グレーターデーモン〉と、その後ろにいる召喚者、〈ワイト邪神官〉である。
ショートカット転移陣を起動したときにも一度倒した事のあるこいつをまた倒さないと41層の門が現れないのも少しネックだな。
そんなことを思いながら、俺たちはまず〈グレーターデーモン〉に躍りかかったのだった。




