#738 ハンナの売上げ影響力。〈祭ダン〉下層へ転移!
結局ミリアス先輩に〈光の中精霊〉のレシピを渡し、その代わりその料理レシピ、〈1日『耐寒』を付与し、最大HPを+100する〉〈四季の寄せ鍋(5人前)〉は超格安で作ってもらえることになった。さらにはこれを売って得た売り上げから何割か〈エデン〉が受け取ることで話がついた。期限などや金額など詳しいことはセレスタン任せだけどな。
『耐寒』は割と使うと分かったためこれはありがたい。もうすぐ冬だしな~。
さらにCランクギルドハウスの一つ、〈エデン店〉の営業について。
ダンジョン週間が始まってからというもの、〈エデン店〉は多くのお客さんが押し寄せ、その売り上げは予想を遥かに上回った。
聞けばなんだかハンナのネームバリューの影響が大きいとのこと。
ハンナのポーションを求め、連日人で賑わっているとのことだ。
すごいなハンナ。
また、ハンナだけではない。
ハンナのパーティメンバーは【錬金術師】がハンナをあわせて3人もいる。それぞれでポーションを作製しているとの事で、以前〈マート〉で販売していた時にも色々と固定客が付いていたそうなのだ。それがそのまま〈エデン店〉に流れてきているのもお客さんが多い理由だろう。
つまりはハンナのポーションだけではなく、ハンナのパーティの商品そのものを購入したくて来ているということらしい。
「おお! 〈ハイポーション〉や〈ブーストポーション〉の種類がこんなに! やっぱ品揃えはナンバーワンだぜ!」
「ここなら大人買いしても問題無いのが良い」
「すみません! 〈ハイポーション〉を200個ください!」
「こっちは買い取りお願いします! 〈上薬草〉を持ってきました!」
「はーい!」
そして一番重要なのが在庫だ。
大量生産をするなら【錬金術師】の右に出る職業はいない。
なのに、実はこの学園には大きな【錬金術師】のギルドがない。【錬金術師】自体が少ないからだ。
一つのギルドが買い占めると他の人が買えなくなるため、普通は購入に制限を掛けているのだそうだ。お一人様10点限り、とかな。
以前市場からポーションが消えたときは大きな騒動に発展したらしく、それ以来買い占めや大人買いは厳しい目で見られるようになってしまったとのことだ。
そこに光明。
一筋の光が射した。
ハンナのお店は品切れになる心配が無く、大人買い自由。
噂が噂を呼び、どんなに買っても在庫がある安心感と新しくオープンした店という理由から今一番ホットなお店なんだそうだ。
さすがはハンナである。
ちなみに素材もどんどん買い取るため、いくつかの〈採集課〉のクラスと契約を交わしているらしく、今まで燻っていた〈採集課〉の学生たちの多くが安定した収入にありつけているとの事で、ハンナたちパーティの支持がすごいらしい。
それもこれもポーションを作製する際に必要不可欠な〈魔石〉をハンナが自己生産しているからだな。〈魔石〉はドロップ率が高いとはいえモンスタードロップなため供給量がどうしても少ない。
しかし、ハンナはほとんど無限だ。品切れが少ない理由だな。
ハンナ、どこまで行くというのか。俺は今後もハンナを見守っていくぞ!
「はいはい、ハンナが気になるのも分かるけど、あの子はあの子で十分やっていけてるから心配しなくてもいいわ。まずは私たちのことに集中してゼフィルス」
「お、おおお、おう。そうだった」
お店を遠目で眺めていたら後ろから声が掛かった。シエラだ。
相変わらず今日も綺麗だ。――じゃなかった。
シエラだけではなくその後ろにはラナとエステル、カルアもいる。
俺の上級ダンジョン攻略のための固定メンバーだ。
ダンジョン週間に入ってから数日、本日俺たちは最後の条件である五つ目の攻略者の証を獲得するべく、中級上位の〈ランク10〉である〈宵闇の祭壇ダンジョン〉、その最下層に挑むのだ。
「やっとここまで来たわね。長かったわ」
「はい。最後は中級ダンジョンで最強のボスという話です。油断されないよう気をつけてくださいねラナ様」
「分かっているわ! でも楽しみね!」
「ん。これ、終わったら、たくさんカレー、約束」
「おう、約束だ。超とんでもないカレーを食べさせてやる」
「た、楽しみがアゲ」
メンバーのテンションが高いな。
カルアなんてテンションが上がりすぎて変なこと口走っている。
ふっふっふ、先日ミリアス先輩とレシピと引き換えに協力を頼んだからな。
〈銀箱〉産のレシピも提供したことで今後購入する料理は割引が効くのだ。
特別にカレーの料理アイテムを食べさせてあげよう。
〈カレーのテツジン〉とはまた違う味わいが期待出来る。俺も超楽しみだ。
「よし、行くか」
「「「「おー」」」」
俺たちはその足で〈中上ダン〉へ向かった。
〈中上ダン〉、最近は毎日通っていたのですっかり見慣れた建物となってしまったな。
そんなことを考えながら中に入ると、相変わらず上級生たちがビクビクした様子でこっちに注目していた。
「お、おい、見ろ〈エデン〉だ」
「今日もやってきたんだ! まさか、本当にあの〈祭ダン〉をクリアするつもりなのか!?」
「あそこはダンジョンの最高峰、〈ランク10〉だぞ。1年生の身で、いやまさか……」
「しかし、万が一クリアされたら俺たちは……」
「は~、やっぱり勇者君はかっこいいわ~。装備が少し変わったかしら?」
「パーティメンバーの人たちも少しずつ装備がバージョンアップしているわよね」
「どこであんなに手に入れているのかしら?」
「噂では、ドワーフなどの鍛治師をギルドで囲っていたり、専属の生産職を抱えているという話よね」
「代表は〈魔薬錬金のハンナ〉ちゃんよ。ほら上級職に就いたって言う生産職。最近店をオープンさせたんだって」
「う、うん。聞いた事あるわ。え? つまり上級の生産職を味方に付ける事が攻略の早道なの?」
「え? いえ、そんなまさか、そんなことはないわよ、ね?」
「ダンジョンの攻略は戦闘職の役目。どんなに装備が優秀でも戦闘職が強くなければ意味はない。だから〈上級転職チケット〉を戦闘職に使うのは間違っていない」
「ほっ」
「しかし」
「ほ?」
「戦闘職も生産職も上級職なら。そっちの方が強いよね」
「……ほほほ?」
「〈エデン〉はどこからそんなに〈上級転職チケット〉をゲットしているのーー!」
おっと、まずい話をされている。
〈上級転職チケット〉については考えがあるのだが、まだ秘密なのだ。
さて、手続きも済んだし、さっさとダンジョンに潜るとしよう。
ということで、俺たちは最後のダンジョン〈宵闇の祭壇ダンジョン〉に突入したのだった。
「このままショートカット転移陣で昨日攻略済みの40層へ飛ぶぞ!」
「わかったわ」
俺たちはダンジョンに入ると、目の前には決闘場かと思わせるような大きな祭壇があった。大きな魔法陣が画かれ、光り輝き、薄暗いダンジョンを照らしているように見える。
俺たちはすぐに入ってきた門の裏側に回り込み、四つ光っているショートカット転移陣の一つ、40層転移陣の上に乗った。
このダンジョン週間中、2日掛けてここまで来た。
ここから最後の10層をクリアし、最奥のボスを今日は倒す。
ここは中級で唯一〈馬車〉が使えないダンジョン。
あるのは祭壇のみ、道の無いダンジョンである。
そしてその階層に現れた全てのモンスターを撃破すれば先に進めるという特殊な構造をしている。
おかげでゲーム〈ダン活〉では別名:〈バトルタワー〉なんて呼ばれていた。
今日も元気にモンスターを倒しまくるぞ!




