#731 マリー先輩にレシピ持って訪問! 解読結果は!
「ハローマリー先輩! 今日もたっくさん良い物持って帰ってきたぜ!」
「出たな兄さん。もう何が来ても驚かんで!」
「はっはっは、そんなことを言っていられるのも今のうちだけさ!」
〈妖精ダン〉から帰還後、〈ワッペンシールステッカー〉ギルドへと戻って店番をしていたマリー先輩に宣戦布告のようなことを言って遊ぶ。
貴族舎組はすでにシャワーを浴びに帰ってしまったので今連れているのはカルアだけだ。
カルアは女子寮組なので1人で帰ることが多いのだが、たまにこうして俺についてくることがある。
ビシッと指を突きつけて威嚇のポーズをするマリー先輩と腕を組んで不敵に笑う俺をキョロキョロ見つめていた。
「でもその前に一つ聞きたいんだが、マリー先輩は上級職になったのに店番なんてしていていいのか?」
「それがなぁ、メイリーに自分も作業したいから代われ言われてなぁ。今日はダンジョン週間の初日やから他のメンバーも忙しゅうて、最近店番代わってもろうてたツケを払わされたんや」
「なるほど」
マリー先輩が【マギクロスアデプト】に就いてずっと引きこもっていたのは知っているが、そのツケが今らしい。
メイリーというと、あの眠たげな先輩か。あの人生産作業に没頭しすぎて昼夜逆転している人って聞いているから、夜は生産しに部屋に篭っているのだろう。
「それなら安心だ。これはマリー先輩に査定してほしかったからな」
「また何か大層なもん見つけてきたんか?」
「ん、レシピ。いっぱい手に入れたから」
と、そこで今まで黙っていたカルアが言う。
そうレシピだ! 生産職が喉から手が出るほど欲しい物だ!
それがたんまり手に入ったというのだから、ほら、マリー先輩の目がカッと開いたぞ。
「レシピやて!? ほんまに!?」
「しかも〈金箱〉産だ! さらに一個じゃない複数ある」
「ちょい待ち! すぐに〈幼若竜〉持ってくるわぁ!」
そう言うと同時にマリー先輩は長くロリっぽいツインテールを振り乱しながら店の奥へと飛んで行った。そして秒で戻ってきた。速い!
「お待ちどうさん! 兄さん早ぅ! レシピ早う!」
「たまに思うんだが生産職のそのスピードってどうなってるんだ? 下手をすればギルドバトルで戦ったことのある誰よりも速いまであるぞ」
「そんなことはどうでもええやろ! レシピが何か知りたくないんか!」
「知りたいわ!」
「ん、知りたい」
ということで俺は今日の戦果である〈光の中精霊〉と〈闇の中精霊〉のドロップ品。
〈金箱〉産のレシピを取り出した。
すると、取り出した瞬間、俺の手からレシピが消える。
気が付けばマリー先輩の手の中にそれは握られていた。だから速いって!
「いっけ〈幼若竜〉! 『解読』や!」
マリー先輩がレシピの1枚を掲げながらそう言うと、〈幼若竜〉の目が光り、レシピの文字が日本語へと変化していた。いつ見てもファンタジーな光景だぜ。できればもっとじっくり見たい。速い。
「こ、これは、まさか、またレシピ全集やて!?」
「お、マジか! どっちだ、上級の方か?」
「こいつは、〈精霊衣装シリーズ全集〉レシピ! 3種類の〈精霊衣装〉が全集で記録されたレシピや! お、大当たり! 上級レシピやで!」
「マジか! おお、すっげぇ!!」
「見せて。……?」
マリー先輩の叫びに思わず俺とカルアも乗り出してレシピを見る。
レシピ全集とは頭から足、場合によっては武器やアクセサリーまで含む、シリーズ装備の全種類が書かれた激レアドロップのことだ。
そしてどうやら徘徊型ボス〈闇の中精霊〉のドロップが上級のレシピ全集だったらしい。
―――〈精霊衣装シリーズ全集〉。
カルアが装備している妖精系装備が中級品だとすれば精霊系装備は上級品だ!
つまり大当たりだ!
しかも〈精霊衣装シリーズ全集〉は、生産職が作り方を変えるだけで物理アタッカー用、魔法アタッカー用、精霊使い用の3種類へ衣装の方向性を変えることが可能なんだ。このレシピだけで三度美味しい!
超大当たりだ! イエース! 〈幸猫様〉イエス!
ちなみにカルアはレシピを見て首をかしげていた。
しかもだ、なんとこのレシピ全集、〈服〉の系統。つまりは【服飾師】のレシピだったのだ。ということは、
「兄さん! これはもううちのや! 誰にも渡さんで! ありがとな!」
マリー先輩が目をキラッキラにさせてこっちを向いた。すでにお礼まで言ってるぞ。
まるでこのレシピを他人が奪うなんて欠片も思っていないかのような純真無垢な目をしている、ように見える。スクショが撮りたい。
だが、俺にはそんな目は効かない!
「それが欲しければまずは装備を作ってもらおうか。もちろん上級素材はそっち持ちでな」
「くっ! この無垢な瞳を見て一欠けらも心が揺さぶられんとは、兄さんやるやないか」
ちょっとときめいたのは内緒にしておこう。
「まあ、オーケーや。つまりは契約の続きやな。誠心誠意作らせてもらいますわ。それでどんな感じで作るん?」
「最終的には全部だが、まずは物理アタッカー用のやつだな。カルア」
「ん?」
俺のセリフになぜか首を傾げるカルア。
カルアの装備を今一度見る。これは〈ワッペンシールステッカー〉の作品でセット装備。
〈傭兵妖精防具セット〉。
これは俺たちが今行ってきた〈妖精ダン〉の通常モンスター素材で作った装備を組み合わせて作った物で、その防御力は中級上位ダンジョンで活躍できるほどに高くなっている。
しかし、この先、上級ダンジョンへ挑むのであればこれでは物足りないと思っていた。
ということで俺がマリー先輩にお願いするのはこれだ。
「マリー先輩、〈精霊衣装シリーズ全集〉でカルアの上級装備を作ってやってくれ」




