#727 〈妖精ダン〉の41層、〈妖精の泉〉の先へ!
〈四季の妖精ダンジョン〉の41層は一言で言えば妖精の住処みたいなところだ。フェアフェアしている。
「ふわー、何ここ~、すっごく幻想的で綺麗なところね~」
「そうですねラナ様、とても現実とは思えない見事な景色です」
ラナの感想にすぐさまエステルが返していた。
2人の言うとおり、ここは幻想、つまりファンタジーな景色に溢れている。
ここではこれまでの四季に登場したフェアリーたちが住み、遊んでいる楽園エリア。
環境が一定ではなく春夏秋冬が無差別に散らばっており、新緑の葉をつける木もあれば桜が咲いている木々もあり、光を遮るほど分厚い緑の葉を携えた夏の木々が立ち、紅葉に色づく木があれば枯れ葉が落ちている木も見え、果ては雪に覆われた葉のない木まで生えている。
なんともイタズラ心溢れる景色が広がっていた。
そしてそんな憩いの森で思い思いに遊んでいるフェアリーたちが飛び回っている光景は、幻想的で感動にも似た衝撃が走るな。
「聞いたとおり、ここのフェアリーは襲ってこないのね」
「ん。みんな遊ぶのに夢中?」
シエラは警戒していた盾を降ろし、カルアは首を傾げる。
そう、2人が言ったとおりここのフェアリーは俺たちが近くにいるのにもかかわらず襲ってこない。
遊ぶのに夢中といった様子で背景の一部となっている。
思い出すのは〈猫ダン〉。
あそこも森にはたくさんの猫モンスターたちがいたが襲ってくるモンスターは稀だった。
ここも同じで、ここで見かけるフェアリーは基本的にノンアクティブモンスター。つまりは襲ってこないモンスターなんだ。
プレイヤーはフェアリーたちが遊んでいる様子にほっこりしながら先へと進み、そして油断しきっていたところでボスにやられるのである。嘘だ。そう簡単にはやられはしないさ。
「聞いたことがある人もいると思うけど、この41層~49層までの道にいるフェアリーは大体がノンアクティブモンスターよ。稀にしか襲ってこないモンスターね、〈猫ダン〉と同じと思うといいと思うわ」
「あ、そういえば〈猫ダン〉もこんな感じだったわね!」
珍しくシエラからの説明だ。俺と同じことを思っていた様子だ。
ラナの返事に俺も頷く。他にも〈猫ダン〉との共通点があり、見ると聞くとでは結構印象は変わるため俺はシエラから引き継いで注意点を口にする。
「あと妖精は追いかけてもいいけど攻撃はしないこと。攻撃を仕掛けると仲間を呼んで群がられて一気に戦闘不能になるから気をつけろ。そこら辺も〈猫ダン〉と同じだ」
「そうね。でも故意に狙わなければ襲ってこないから、安心して」
「わかったわ」
「わかりました」
「ヤー」
とりあえず注意すべき点はこのくらいだろう。シエラの補足もありがたい。
ここのフェアリーは空を飛んでいるため故意に空を狙わなければまず当たらないしな。
エンカウントすると背景のフェアリーたちは戦闘が終わるまで逃げてくれるので巻き込む心配もない。
だから基本的には普通に振る舞っても大丈夫だ。
とはいえ、注意は怠るべからずだ。
「とりあえず先へ進むか。この辺では1層から40層まで採れた素材が全部手に入るが、もう十分採ったしな、この辺はいいだろう」
「そうね。時間はあるけど採集は十分だし先へ進みましょう。もしくは41層から手に入る素材は無いの?」
「もう少し奥のほうだな。まずはそっちへ目指そう。んじゃ出発だ」
「「おー」」
シエラからの提案を受けて41層で入手できる〈エレメント水晶〉やら〈エレメント鉱石〉などが採れる場所へ行き素材を確保する。
この下層では実はもっと色々と多くの物を採集できるのだが、それは〈採集課〉の採集スキルがいる。俺たちみたいにアイテムを使ってただ採集だけするのならこれくらいしか下層限定素材は手に入らないのだ。残念。
今度【ファーマー】のモナも連れてこようかな?
とはいえこのエレメント系の素材だって割と使い勝手が良い合成素材になる、ハンナとアルルにお土産でいっぱい持っていこう。
また、下層の41層~49層には隠し扉が3箇所もあるためそっちも確保だ。
まずは41層にある、とある泉へと向かう。
そこは森で自然に湧いたような泉で、近くには羽を羽ばたかせる妖精が何体も飛んでいる、プレイヤーからは〈妖精の泉〉と呼ばれゲーム〈ダン活〉時代からスクショの名所となっていた場所だ。
そのため到着したところでラナの目が光った。ついでに名所を実際に見た俺の目も光る。
「わぁ~。ここも綺麗なところね~。この水透き通ってて美味しそう」
「ラナ様、飲んではダメですよ」
「ちょっとエステル美味しそうとは言ったけどさすがに飲まないわよ!」
「え? あ、失礼いたしました」
「ちょっとまってエステル、その「え?」はどういう意味!?」
「なんでもありませんなんでもありません。全てはラナ様の健康を第一に考えての発言です」
なんだかラナたちは楽しそうだ。ちなみにこの泉の水は普通に採集素材なので回収できる。回収には「ビン」などの〈容器〉アイテムがいるので持ってこような。もちろん俺は持ってきている。これもハンナにお土産として持っていこう。
ダンジョン水の類は錬金によく使う素材アイテムなのだ。
ラナよ、一応飲み水にも使えることを知っていたからの発言だと思うから、エステルを許してやってくれ。
さて、俺は俺の役目をしよう! まずはこのリアル〈妖精の泉〉を目に焼き付けるところからだ! 堪能し尽くすぜ!
「く~テンション上がる! よし、まずはこの容器に泉の水を入れて持ち帰るぞ!」
俺はそう言ってタルをドドドンと10個ほど出す。
お土産用だ。
タルの大きさは俺の腰くらいあるので中々の大きさだ。とはいえSTRがそこそこ育っていれば余裕で持てるだろう。ラナ以外は。
「泉の水が欲しかったの?」
「そうだな! だがもう一つ俺にはここに来た目的が出来た。ここに鍵穴があるだろ?」
俺は泉の奥にあったなんだか人工的に四角形に切り取られた岩、その中心に指を指す。
「なんでここに鍵穴があるなんて知っているのよあなた」
「いや、こんな自然的な泉の近くに人工的っぽい四角の岩があるんだぞ!? いかにも何かあるって言っているようなものじゃないか。すぐに『直感』スキルが閃いたぞ」
「本当かしら……?」
シエラ、なぜ本当かをカルアに聞く? ほら見ろ、首を傾げているぞ。あ、カルアも『直感』持ちだったっけ?
「まあ細かいことはいいじゃないか。ここは間違いなく隠し扉だろう! 早速開けるぞ!」
「隠し扉、つまりお宝ね!」
ほら、ノリのいいラナが乗ってきた。
〈隠し扉の万能鍵(銀)〉、通称〈扉の銀鍵〉を取り出して、ラナに奪われないうちにさっさと鍵穴に突っ込んで捻る。
「あ!」
ラナが後から反応するがもう遅いぜ。すでに扉は開かれた!
ゴゴゴッと石同士が擦れる音と振動が響きながら岩が隆起すると、下へと降りる階段が表れた。
まあ、俺は中身を知っているので扉を開けたかっただけだ。いやこれ扉なのかな? 下からズズズっと岩が伸びて出てきただけだから扉じゃない? まあどちらでもいい。とりあえず、俺は目的を果たしたので「ふう」とやりきった感じを出して少し横に避けた。
宝箱を開けるのはラナに譲るとしよう。
「もうゼフィルスったら、宝箱は私に開けさせてよね!」
「もちろんいいぞ」
そう言って俺はラナに役目を譲ってやるのだ。
でもワクワクするので俺も付いて行こう。
「行くわよ!」
「おう!」
「私もお供します」
「ちょっと、タルはどうするのよ?」
「それは後回しでもいいだろう、こっちが優先だ」
「もう、わかったわ」
「ん、私も付いてく」
こうして全員で地下へと降りていくことになった。しかし、シエラたちはそれをすぐに後悔することになる。
この隠し部屋には、とあるギミックが仕掛けられていたのだ。
後書きにカウントダウン告知失礼いたします!
〈ダン活〉小説第03巻の発売まで残り2日!
早い書店さんではもう置いてあるかもしれません。
書き下ろし3本収録!
Web版には無かったギルドバトルのイメージ図などもあります!
よろしければ、手に取っていただけると作者は大変嬉しいです!
よろしくお願いいたします!




