#076 終盤戦、キリちゃん先輩の迫力。ランク戦決着!
〈千剣フラカル〉は陣形を組みつつ人数でカバーして〈キングアブソリュート〉の猛攻を凌ごうとするが、各個撃破されて人数を大幅に減らすことになった。
陣形がいかに重要かを教えてくれる場面だな。
その中でも一番目立っているのが〈キングアブソリュート〉のアタッカーで黄金の鎧を着た戦士を中心とした組。とある場面で5対7という〈千剣フラカル〉がなんとか用意した陣形で人数差有利に立ちふさがるが、この人数差を平気で蹴散らし7人すべてを討ち取っていた。圧倒的な強さだ。
しかも驚いたことに、
「お兄様……」
「へ? あれ、ラナのお兄さんなのか?」
「はい。ラナ様の兄君、王太子ユーリ様です。ギルドマスターでもあります」
どこか寂しげなラナの呟きを拾うと即答でエステルが補足してくれた。
少し反応が気になったがそれ以上に驚きの方が強かった。
マジでラナのお兄さんなんだな。ビックリだぜ。
しかし納得でもある。「王族」「王太子」のカテゴリーはむちゃくちゃ強いからな。
あれだけの圧倒的強さも頷ける。
一目で「王族」と分からなかったのはシンボルの〈小王冠〉が兜で見えなかったせいだな。
そういえばギルドの名前も〈キングアブソリュート〉だった。あれって王太子が率いるギルドって意味だったのかと今更気付いた。
言われてみて観察すると、なるほど。覚えがあるスキルを使っている。
「【英雄王】か。そりゃあ強いよな…」
「!! ゼフィルス殿、それもお分かりになるのですか?」
「俺に知らない職業は無ぇ!」
「あの、御内密に。知られればゼフィルス殿が――」
「あー、待った待った分かった。今のは無し。聞かなかったことにしてくれ」
「は、はい。分かりました」
また面倒なうんぬんかんぬんがあるらしい。今は忙しいから面倒ごとはスルーする。
「あ。ユーリ王太子が止められたわ」
「ん? あれは……!」
シエラの声に反応して会場を見ると、もうギルドバトルも大詰め。
〈キングアブソリュート〉が〈千剣フラカル〉本拠地の近くまで進行してきていた。
本拠地を落とせば相手の巨城を全て奪う事が出来る。〈千剣フラカル〉が所有している巨城が4つ、一気に8000Pが手に入る。
それと同時に本拠地が落とされれば城が回復中の2分間は停戦期間となり、一度お互いのギルドは自分の本拠地に戻ることを強制される。所謂仕切りなおしだな。停戦期間中は相手の陣地、巨城を取ることができなくなるし対人戦も一旦収めなくてはいけない。
ロスタイムなんてものは無いので落とされれば〈千剣フラカル〉は逆転のための貴重な時間を削られてしまう。
それはなんとしてでも防ぎたい〈千剣フラカル〉が最後の抵抗とばかりに大物戦力を投入していた。
本拠地に王手を掛けようとする黄金の戦士ユーリを、まるで冷や水を掛けたがごとく止めたのは、1年生の訓練所で会った袴姿で黒髪をポニーテールに纏めた美少女。
「キリちゃん先輩か!」
「「キリちゃん先輩(って何)?」」
隣席のハンナとシエラが即座に反応する。
おお? 何故か二人の反応が良い。
この最終局面、やはり王太子ユーリを止めた人物が気になるのだろう。
「〈千剣フラカル〉のサブマスだよ。前に一度話す機会があった」
「そうじゃなくて、なんでちゃん付けなの?」
そっちかよ。
いや、今更感はあるんだけど、今はそれどうでもいいだろ? どう見ても勝敗の決まる決定的メイン場面よ? そこでちゃん付けが気になるの? どういうことだよそれ。
シエラを見ろよハンナ。俺の回答に満足して会場に目を、…向けているけれど意識はこっちに向けている気がするな。
同類か?
「ええいやかましい! ちゃんと会場に目を向けておけよ。これで決まる可能性があるんだぞ!」
なんとか勢いで押し通し、会場に意識を持っていく。二人がしぶしぶといった様子で会場に目を戻した。
王太子ユーリとキリちゃん先輩で何か語らっていたみたいで戦闘は中断されていた。ちなみに残念だがマイクは入っていないので内容は分からない。
〈キングアブソリュート〉は残り26人、〈千剣フラカル〉は残り15人。
数で押せば間違いなく〈キングアブソリュート〉が勝つこの一面。王太子ユーリはキリちゃんと一対一で戦う気のようだ。
他のメンバーは〈千剣フラカル〉の残りを抑えたり戦ったりしているが、手を出すつもりは無いようで傍観の構えだ。
いいね。こういう展開は割と好きだぞ俺は。
キリちゃん先輩が仕掛けた。
キリちゃん先輩の職業は、あの袴姿と腰に下げている太刀からして【侍】系の上級職だ。
瞬く間に接近して抜刀する。
何かしらのスキルを使っていたようだが、遠いのと速いのとでよく見えなかった。
いや、見えていたとしても解説する時間が惜しい。俺は目を凝らして二人の対戦に熱中する。
キリちゃん先輩の攻撃、しかし、それを食らう側だったユーリ先輩には見えていたようだ。
全ての攻撃を捌き、あるいは避けて、反撃する。
キリちゃん先輩も、あの怒濤の勢いだった王太子ユーリを止めただけあって冷静沈着に見切っているみたいだ。
時には攻撃に刀を合わせる形で弾き返している。パリィだ。
それにより、王太子ユーリも攻め切れない様子。
「こりゃあ…、すごいな…」
それは迫力だった。
俺が知っている〈ダン活〉のバトルとはまったく違う物がそこにあった。
思い出すのは〈エンペラーゴブリン〉にトドメを刺した時の流れ。
理詰め、力押し等のゲーム的な攻略法とはまったく違う、技術的なバトル。
〈ダン活〉の新たな可能性。
リアル〈ダン活〉の世界を楽しみきるために絶対に物にしたい、プレイヤースキルだ。
アリーナの見学を決めたのは、主にギルドメンバーに見聞を広げてもらうためだった。
ギルドバトルがどういうものなのか。近い将来、俺らもあの場に立つ身として、知見していてほしかった。
しかし、知見を広くしたのは彼女たちだけじゃなかったらしい。
俺もまた、新しいギルドバトルにわくわくしていたからだ。
ピッ、ピッ、ピィィ―――ッ!!!
ホイッスルが鳴り響く。中央にいた審判からだ。
どうやら熱中して見ていた間に試合時間の2時間が経っていたらしい。
王太子ユーリとキリちゃん先輩の決着はつかなかったみたいだ。
しかし、試合結果は明白。
〈キングアブソリュート〉残り人数24人。ポイント29520。
〈千剣フラカル〉残り人数12人。ポイント21320。
このギルドバトルを制したのは〈キングアブソリュート〉だった。