#714 プチ果物パーティ中に奇襲、徘徊型ボス現る。
金色のリンゴの木周辺で〈オカリナ〉を使いまくり〈ゴールデンアップルプル〉をさらに9体ほど狩りまくって、最後は金色のリンゴの木まで伐採した後。
俺たちは攻略を再開して46層まで進んでいた。
〈芳醇の林檎ダンジョン〉41層~50層は農園だ。
リンゴだけではなく、それはそれは様々な果物が実をつけている。
しかも中級上位ダンジョンの下層ということで、かなり品質がよく美味いらしい。特に46層から先はさらに美味いらしいのだ。
ということで、俺たちも食べてみることにした。
「ちょ、このナシ美味しいわね! とてもみずみずしくて、甘いわぁ」
「このイチゴも美味ですよラナ様。どうぞ食べてみてください」
「!! これ、いいマンゴーね。取れたてだからかしら? いつもより美味しく感じるわね」
女子、大絶賛。
それなりの品質のフルーツを食べ慣れているはずのお姫様たちの舌を唸らせていた。
ちなみに、ここは四季が関係ないので、エリアによっていろんな季節、地域の果物が食べられたりする。ファンタジーだぜ。助かるけどな!
俺たちは46層をとりあえず適当に進み、目に付いた果物を採集しながら確保しまくって、一休みがてら果物を味見していた。
「ゼフィルス、喉渇いた」
「おう。カルア、飲みものは何がいい?」
「ん、カレー?」
「……カレーは飲み物じゃないぞカルア? ジュースにでもしておけ」
何を飲む気だカルアは?
まったく、俺は先ほどバナナの木型モンスター〈ババーナ〉からドロップしたフルーツジュースを渡しておいた。
カルアはカレーが飲み物ではないといつ気が付くのだろうか?
「このジュース、美味しい!」
「そりゃよかったな」
カルアがジュースを絶賛していた。気に入ったみたいだな。
俺もいくつか果物をいただく。まずはリンゴからだ。
軽くナイフでカットしてみる。すると、
「うお! 果汁すげぇ。蜜たっぷりじゃん、何これすげぇ~」
「ねえゼフィルス、それ〈リンウッズ〉のドロップ〈蜜リンゴ〉じゃない! 私も食べたいわ!」
「今切るから待っててくれ」
そういえば46層の果物を食べるという趣旨だったのに、このリンゴってさっき寄り道がてら軽く行って屠ってきた10層ボス、〈リンウッズ〉のドロップじゃん。うっかり。
まあいいか。どうせならどの層でドロップしたリンゴが一番美味いか食べ比べしてみるのもありかもしれない。
リンゴだけは最奥以外、全階層で手に入るからな。まあ〈メタリックリンゴ〉という名のインゴットなんかは別物だが。なんでドロップのインゴットがリンゴの形をしているのかと。
俺はラナのオーダーどおり軽くリンゴをカットして皮を剥き、皿に載せていくつかプレゼントした。リンゴをカットするくらいなら俺でも出来るからな。
ポイントはカットしてから皮を剥くことだ。これなら皮むき初心者でもそれほど難しくは無い。
「というかあなた、普通に果物剥けるのね」
「ふふふ、これくらいはな」
シエラに感心された。ちょっと気持ちが良い。
とはいえこれくらいは別に大した事ない。皮むきくらい練習すれば誰でも出来る。はずなのだが、さっきから皮むきを頼まれている件、女子もやってくれてもいいんだよ?
「美味しいわこのリンゴ! なんて甘いのかしら、それにシャリシャリよ! やっぱりリンゴが一番美味しいわよね」
リンゴ大好きなラナが〈蜜リンゴ〉を高く評価していた。
俺も食べてみたが、いや絶品だった。少し齧っただけで蜜が染み出るんだもん。さすがボスのドロップ!
ついでにこの46層で採れるリンゴも食べてみたが、普通にボスドロップの方が美味しかった。いやどっちも美味かったんだけどな。ボスドロップの方が蜜がすんごいんだ。さすが名前が〈蜜リンゴ〉なだけはあるぜ。
そんなこんなでプチ果物パーティを開催して英気を養い、そろそろ行動を再開することにした。
「……なんだか、体が軽い気がするわ?」
そう最初につぶやいたのはシエラだった。
その言葉に俺も自分の体を軽く動かしてみると、確かに、少しだが体が軽い気がする。
HPバーを見てもバフのアイコン付いてないのに!
「あの果物の効力でしょうね。料理素材の中でも一級品でしたから。そのままでも何かしらのフィジカル効果を発揮したのでしょう」
「そんな効果があんの!?」
マジかよ。
料理アイテムが使用者にバフを与えるのは知っている。だってゲーム〈ダン活〉でもそうだったし。
しかし、果物だけ採って食べてもバフは掛からないはず。
だが、実際は素材のままでもスキルとは別の何かで体が好調になるようだ。
そういえばエステルも前に成長に良い料理がどうのと話していたが、もしかしたらあれもファンタジー特有のフィジカル的な要素だったりするのだろうか!?
これは検証が必要そうだぜ。
「みんな、果物を集めるぞ。何の効果で体が好調になっているのか調べてやる。もしかしたらダンジョンの助けになるかもしれない」
「面白そうね」
「いいと思います」
シエラとエステルが賛成してくれた。
今まで気が付かなかったから、この下層の果物だけの効力なのか? それともとある種類の果物限定の効力なのか。
もしその果物が発見できれば、食べるだけで疲れを癒し、ダンジョン攻略や勉学の向上が期待できるかもしれない。これは楽しくなってきたぞ!
「じゃあ――」
――そうして指示を出そうとした矢先のことだった。
俺の視界の端に、青いオーラを纏った巨大リンゴが突撃してきたのを捉えたのは。狙いは、俺か!
それが何か知っていた俺は咄嗟に左手に盾を持って構えることに成功する。
「!! 『ディフェンス』!」
「シャー!!」
「な、なになに!?」
ガツンと衝撃。
俺の防御スキルを使った盾に巨大リンゴが直撃し、弾かれたのだ。
「臨戦態勢!」
俺の言葉に全員がすぐに構えを取る。
「! 『ソニャー』に反応無かった。さっきまでいなかった」
「まあ、こいつならありえる。いきなり現れたんだろうな」
「そんなモンスターいるの!?」
索敵範囲外から攻撃される。こいつならありえるんだ。なぜなら。
青白いオーラをその身に纏い、宙に浮き漂う巨大な赤いリンゴ。
「こいつは――徘徊型ボス〈亡霊リンゴ〉だ」
〈幽霊特性〉を持つ徘徊型ボス、〈亡霊リンゴ〉。
こいつには壁をすり抜ける能力がある。
下の階層か上の階層からすり抜けて現れたんだろうな。




