#072 〈ランク戦〉ギルドバトルのご案内
いつもいつも〈ダン活〉と呼んでいるので忘れているかもしれないが、このゲームの正式名称は〈ダンジョン就活のススメ〉という。
そのアレなタイトルの由来が、このアリーナだ。
ここでは衆人環視の下、ギルドとギルドが互いの名誉と名声を懸け競い合う場所。
ついては、この学園で何を学び、どう活かし、いかに自分を磨き上げたかを見せるアピール会場と同義である。
アリーナに環視に来る大衆は学園の外からも自由に参加が可能だ。
そしてこのアリーナで学生の姿を見て、実力を確認して、気に入ればスカウトを掛けてくる。
企業への就職か、仕官の道か、それとも別の道か。
すべての道はこのギルドバトル。アリーナで決まる。
故にこのゲームは〈ダンジョン就活のススメ〉と名付けられた。と開発陣はコメントしていた。
ちなみにゲームのエンディングは、何処かへ就職し、その道でいかに活躍したか等が語られたりする。
3年間を無為に過ごしてどこからもスカウトされず生涯平凡に過ごすエンドから、勇者として活躍し、最難関ダンジョンを突破して最後は王女と結ばれて王様になるエンドまで、様々な物が用意されていた。
何しろ職業が膨大な数あったからな。それに合わせてエンディングの種類も膨大に作られていた。
正直全部制覇するのは不可能だ。プレイ時間推定8000時間以上の俺が言うんだから間違いない。だって400エンドを超えてたし。
とにかく量を用意する事に心血を注ぐ開発陣によって、エンディングは全部で403エンドまで作られていたのである。
多けりゃ良いってもんじゃないぞ開発陣!
学園生活3年間過ごすのに何時間かかると思っているのかね、と開発陣に向かって何度思ったか。結局半分どころか50エンドも見れずに道半ば倒れる事になったし。
なお、エンディングはすべての動画が〈ダン活〉プレイヤーの手でアップされているので俺はしっかりとすべてに目を通したぞ。
話が逸れたが、本日のアリーナだ。
リアルで初めてのギルドバトルということで俺も興奮している。
「さすがに齧り付きの席は全部取られちまってるが、そこそこ見れる席が確保出来て良かったな」
「そうね。実況カメラも回るし、遠くのは中継と合わせて見ましょう」
アリーナは案の定、大混雑だった。
何しろこの学園に在籍する学生、その中でもエリート中のエリート、学園にたった6席240名しか座れないAランクギルドと、同じく学園にたった3席150名しかそのトップの栄誉を得られないSランクギルド。
学園の巨頭とも言える二つのギルドがバトるって言うのだから学生なら見とかないわけにはいかないだろう。
席のチケットを購入する時シエラが口利きしてくれた事でそれなりに良い席が確保出来たのは大きかったな。そのまま席が隣同士で着席する。
席順はエステル、ラナ、ハンナ、俺、シエラの順番になっている。
ハンナが真ん中なのは成り行きだ。ラナは端にするわけにもいかないとの事で、エステルが端に座り。そしたら隣はラナ。それで俺とシエラがなんか一緒に座ったので余った真ん中がハンナになった。
緊張でプルプルしてらっしゃる。さっき一緒に〈幸猫様〉を愛でていたくせにまだ慣れないらしい。
ちなみにアリーナ席はギルドの予算で購入している。
ギルドを設立する以上共通財産になるのでギルドへそれぞれ寄付を募った形だ。
寄付の金額はあまりキツくしていない。足りなければまた皆に声かけて集めれば良いしな。
俺はとりあえず100万ミールを寄付しておいた。
これで俺の全財産は284万ミールだ。〈熱帯の森林ダンジョン〉ではモンスターを狩らなかったので分け前は貰わなかったしな。
初級中位の査定額、アレも貰いに行かないとな。少し懐が寒くなってきたぜ。
「今回は〈30人戦〉みたいだな。バトル方式は〈城取り〉。フィールドは〈九角形〉か! ひゅーさすが学園の巨頭だ、おもしれぇ」
「あなたにはあれが分かるのね」
学生手帳を片手に情報収集していたらシエラが横目で見たあと視線で会場を指す。
当然だ。〈ダン活〉のすべてを知るデータベースと言われた俺に知らないものはない。
なお、一部リアルとの違いについては情報を収集中だ。(知らないことあるじゃん)
「知っているのなら教えてほしいのだけど。私、ギルドバトルって初めて見るの」
うむうむ。知ろうとするのは良いことだ。特にギルドバトルはな。むしろ知らないと〈ダン活〉の半分を損していると言っていい。
「俺で良ければ解説するぜ?」
「ありがとう、助かるわ」
シエラが少し肩の力が抜けた様子で息をついた。
ギルドバトルについては今後俺たちも関わる事柄なので教えるのはやぶさかじゃない。
シエラに解説するために電子手帳からいくつかの情報を引っ張り出す操作をしていると、反対側からも視線が来ている事に気がついた。
「うん?」
「あのね、ゼフィルス君。私も、分からないの。全然」
「出来れば我々にも教えてくださるとありがたいです」
「教えてちょうだい」
「全員かよ」
首を振ってヤレヤレとポーズを取ってから一つ咳払いすると説明を始めた。
「まず、ギルドバトルというのは、基本的には下位ランクのギルドが上位ギルドに挑む事で発生する。これを〈ランク戦〉と言ってな、端的に言えばランキングバトルみたいなものだ。下位側が勝てば上位とのランクが入れ替わり、上位側が勝てば防衛成功だな。ギルドランクの変動は無しだ」
「でも、それだと防衛側が不利じゃないの。何度も挑まれたらいつかは負けちゃうわよ」
ああ、ラナの意見ももっともだ。
「ああ。だからルールで同じギルドに挑めるのは一ヶ月に一度、敗戦した場合一ヶ月間ギルドバトルを挑む事は出来ないなどの処置がされてる」
「なるほどね」
「それに関して今は省略する。続けるぞ、ギルドバトルとはより高いランクへ上るために必要な手段だ。だがこれが始まるのはDランクからだな。その説明も長くなるから別の機会にするとして。知っておくべきはギルドバトルの方法はいくつかあって、今回は戦闘職がメインの〈城取り〉という方法で行われるという点だ」
「〈城取り〉……。いくつかあるとの事ですが、戦闘がメインではない事もある、という事でしょうか?」
「エステルの言うとおりだ。生産職のギルドバトルなんかもあるぞ。とはいえあっちは作品コンテストみたいな感じで、今回みたいな迫力満点の戦闘とは無縁だけれどな」
まあ料理対決とかはまた違ったド迫力があるが、今は割愛する。
「〈城取り〉とはそのまんま、ダンジョンギミックで作られた巨城を落とすという意味だ。具体的には城のHPを0にして取得する、複数作られた城をどちらのギルドが早く、多くを落とせるかを競い合い、最後に多くのポイントを持っていたギルドの勝利になる。時間制限とポイント制の競技だ」