#656 相手の手を先回り。そう簡単には落とさせない。
「ゼフィルス! 応援に来たぞ!」
「リカ、パメラ! こっちに来てくれ! 待ち伏せするぞ!」
「了解デース!」
場所は〈南東巨城〉周辺、俺の予想ではもう少し早いかと思っていたが、やっと〈テンプルセイバー〉が巨城を狙いに来た。
数は4人。
俺たちも同数だ。
しかし、来ると分かっていたのだから対応も早い。
まずは近くにいた俺、アイギス、リカ、パメラが〈南東巨城〉の援軍に駆けつける。
こういうのは気が付いたら即行動しないとダメだ。
相手が行動を起こしたらそれにすぐに対応できなければならない、〈城取り〉は先手が有利なんだ。
「相手は〈馬〉に騎乗した騎士が4人だ。良く間に合ってくれた」
「リーナの指示のおかげデス!」
そうパメラの言うとおり、こちらにはフィールドを全て俯瞰できるリーナがいる。リーナは中盤戦に突入した後はすぐに本拠地へと戻り、〈竜の箱庭〉を確認、『ギルドコネクト』で指示を出してくれていた。
対人戦の準備は万端だ。おかげで相手が集まり、何か行動を起こせばすぐに分かる。
たとえ速度は向こうの方が速くても、先手を打って行動するという面でこっちの方が有利なのである。
俺は白色に染まっている自陣マスに挟まれた空き地マスで、相手の進路上に立ちふさがる。
このときのために空き地マスを取らずに放置しており、現在俺から見て南北のマスは白の保護期間だ。
となれば相手は白の保護期間に挟まれて俺たちが待ち伏せする空き地マスを通るか、迂回するか、保護期間が明けるまで待つしかない。
「アイギス、どうだ?」
「はい。向こう側の上級職は3人です。【テンプルナイト】【クルセイダー】(男子)、あと【闇落ち騎士】ですね」
しかもこちらに元〈ホワイトセイバー〉のアイギスがいて相手の職業を看破してしまうのだから素晴らしい。元所属ギルドの親ギルドだからといって手加減はしないようだ。タバサ先輩のことがあるからかもしれない。
「上級職が、3人……」
「リカ、大丈夫だ。リカの上級職は下級職の時と違って複数人を相手に立ち回れるようになった。練習どおり動ければ立ち向かうことは十分可能だ。俺たちで止めるぞ」
「そうか、そうだな。うむ」
こっちは上級職が2人だ。俺とリカだな。
リカは【姫侍】のときタイマンにめっぽう強かった。騎士相手とかとても相性が良い。しかし複数人が相手だとやや厳しいときがあった。
しかし、上級職【先陣の姫武将】はむしろ複数を相手取って打ち倒す職業だ。今までの弱点が緩和され非常に強くなっている。
練習でもリカは複数人を相手取る戦法を訓練してきたのだ。安心して練習どおり打ち込めと言い聞かせる。
相手の残り一人は下級職の騎士で【聖騎士】らしい。【姫騎士】のアイギスとどっちが強いかは明らかだな。戦力的に上級職の数は向こうが上でも十分勝率は高いと判断する。
「上級職だが、【テンプルナイト】と【クルセイダー】はタンク寄りだ。【テンプルナイト】はナイトと付いているが【騎士】系に分類される。最後の【闇落ち騎士】は【暗黒騎士】の上級職だが、中の上だ。盾を持てなくなった暗黒の騎士は闇属性の強力なアタッカーだな」
「……うむ? そうなると相手はタンク3、アタッカー1という構成にならないか? 巨城を狙うのに?」
「そうなるな。もしかしたら【テンプルナイト】の育成方針がアタッカーなのかもしれない、【聖騎士】も【カリバーンパラディン】を見越しているならアタッカー寄りなのも頷けるな」
騎士系は攻撃スキルも多く覚えるからな。
ただ、防御スキルの方が良いもの持っているので俺が育てるとすれば断然タンクだ。
もしタンクを多めに連れてきているとすれば、俺たちの足止め要員ということも考えられるな。俺たちをタンクで足止めしている間にアタッカーが巨城を削る作戦かもしれない。
「来ます! 残り2マス!」
アイギスの言葉に身を引き締める。
話はここまでだ。相手はどうやら保護期間で通れないマスでは引き返さず、堂々と俺たちが待ち伏せするマスまで駆けてきたのだ。
「勇者がいるぞ!」
「く! もう回り込んできたのか!? 4人いる!」
「いくら〈竜の箱庭〉があるとはいえ、早すぎる!」
俺を見た〈テンプルセイバー〉がざわめいているようだ。
こんなに早く回り込んで来るとは想定外だったようだな。
「まずい、ヒーラーを連れてきていないぞ」
「くっ時間が惜しい。一度引くぞ!」
「ありゃ、まあそうだろうな」
残念ながら〈テンプルセイバー〉は撤退を選択した。
どう見ても万全とは言えないような状態だったからな。
こっちを格下と見て突っ込んできてくれればカウンターを食らわせられたのだが、残念。
「む、引くのか」
「今度は戦力を増し増しで来るぞ。足の遅いヒーラーも連れて来るだろうな」
どうやら今の部隊は速攻で巨城を落とそうとした部隊のようだ。読まれていたが。
なら、次は対人も想定した部隊で攻めてくるはずだな。
騎士のヒーラーはいない。だから〈馬〉に乗れるヒーラーもまたいないとなる。
ヒーラーだけは足が遅いので、対人戦をしようと思ったら〈テンプルセイバー〉はヒーラーの足に合わせて進行しなければならない。
一番の持ち味であるスピードを殺さなくてはならないのだ。
先ほどから小城マス有利を優先してきた〈テンプルセイバー〉には少し厳しいだろう。
さて、小城マスで逆転するチャンスだな。俺はまた指示を出し、小城マス確保の続きへと向かった。
次の対人戦の機会はそんな時間も掛からずにやって来た。5分経過。残り時間18分の時点。
なんとギルドマスターであるレナンドル先輩を中心にして5人の騎乗騎士と2人のヒーラーの計7人で〈南東巨城〉方面へ攻めてきたのだ。
さらにリーナの通信で、俺のいる場所の反対側である西にも7人の大部隊が送られ、〈北西巨城〉を狙っているとのことだ。俺たちの行動次第ではそのまま〈中央東巨城〉か、もしかすれば本拠地まで狙ってくる可能性がある配置だ。
白本拠地近くのマスを取得し、本拠地へ必殺の攻勢を仕掛ける狙いをつける、頃合を考えればそろそろ行動を起こしてもいい残り時間だ。どれが本命の狙いかを読ませない気かな?
俺は〈北西巨城〉を守るシエラたちに無理なようなら引いても良いとリーナ経由で伝えてもらう。
向こうは5人しかいないのだ。リーナとラナを本拠地の守りに向かわせたからな。
〈テンプルセイバー〉が本気で仕掛けてきた。
〈南東巨城〉〈中央東巨城〉を守るこっち側では俺、リカ、ルル、シェリア、アイギス、ノエル、ラクリッテ、パメラの8人メンバーが集結し対抗しようとしていた。こっちの戦力は中々に揃っている。
まずは配置だ。
今回〈テンプルセイバー〉が仕掛けてきたのは2箇所同時攻撃。さらに下手に対処すると本拠地まで接近され、攻撃されかねない動きだ。
〈南東巨城〉に戦力を集中すれば〈中央東巨城〉と本拠地を隙にさらす。
故に、俺は巨城では無く、相手が通るであろう道で待ち構える姿勢を取った。(図AB-26)〈南東巨城〉と〈中央東巨城〉、そして本拠地を狙わせない位置取りだ。
さらにZ型観客席の影にノエル、ラクリッテ、ルル、シェリアを隠すように配置し、〈テンプルセイバー〉の油断を誘った。リーナお得意の伏兵戦法である。
そうしてこちらは一見4人、向こうは7人という状況を作りだし、〈テンプルセイバー〉は見事にそれに引っかかって攻めてきたのだった。
「勇者よ。押し通る!」
「来てみろ! 返り討ちにしてやるぜ!」
〈テンプルセイバー〉と〈エデン〉の対人戦が始まり、観客席が「わぁ」と湧いた。
最初に突撃してきたのは先ほど見た【クルセイダー】の男子だった。
全身に鎧を装備しているプレートアーマー型。【クルセイダー】には『鎧装備補正』のスキルがあるため全身鎧を装備するのが普通なのだ。
「ユニークスキル『我が身に代えてもこの場は死守する』!」
「おお、マジか!」
初手、ユニークスキル。
特大のかばう系ユニークスキルだ。【クルセイダー】の下級職【騎士】のユニークスキルである。
大挑発を全体に放ち、モンスターの注目を集める他、発動中は他のスキルが使えなくなる代わりに味方への遠距離攻撃を全て自身で引き受けるスキルだ。
これヒーラーと組ませたらめっちゃ強いんだよなぁ。発動時間が長いのが超利点。
ふむ、報告にあった【クルセイダー】女子がユニークスキル『テンペストシールド』を発動後に即潰されたため、ユニークスキルを変えてきたのかな?
発動中は遠距離攻撃は全て無効化されたと見ていいな。
しかし、超利点というのは裏を返せば超デメリットでもある。
「遠距離攻撃は使うな。全部【クルセイダー】に吸われて無駄になるぞ」
「!!」
【クルセイダー】の男子が目を見開いて驚く。
それ、発動中はスキルが使えないだけじゃなくて移動もかなり制限されるからな。その場で方向転換くらいしかできなくなるし。
そして対人戦だと遠距離攻撃されないと発動中はただの置物になってしまうのだ。
つまり無視最善である。
俺に知らないものは無いんだぜ?
「【クルセイダー】は無視して他の〈テンプルセイバー〉に向かえ!」
勝手に動けなくなった【クルセイダー】はいないものとする。
遠距離攻撃が封じられることにはなったがあまり問題は無い。
さて、まずはリカに先陣を切ってもらおうか。




