#651 〈決闘戦〉開始! 相手を囲って攻めさせない。
「行くぞ!」
「「「おお!!」」」
俺たち〈エデン〉はブザーが鳴った瞬間から本拠地を飛び出した。
〈北西巨城〉には先行エステル&カルア。そしてラナ、シエラ、シズ、メルト、リーナが向かい。
〈南東巨城〉には俺、パメラ、アイギスが先行し、リカ、ルル、シェリア、ノエル、ラクリッテが向かう。
この時、アイギスには一つ役割を与えていた。
「アイギス、付いてきてるか!」
「はい! 問題ありません!」
アイギスのAGIは高めだが俺たちに付いてくるには少し足りない。しかし〈馬〉に騎乗すると俺やパメラと併走するくらいのスピードまで上がる。〈騎乗〉強っ!
アイギスの愛馬、ダンディ君はもちろんこのギルドバトルに参加させており、アイギスはダンディ君に騎乗して俺たちのすぐ後方を走っていた。
俺たちはまず本拠地から出た後、進路を南東に設定、4マス確保後に進路を南へ修正しダッシュしていた。
ここからは相手とどっちが速いかの勝負だな。
さて俺たちの狙いだが、巨城へ向かいつつ相手の進路を妨害する。
俺たちの本拠地の方が巨城に近いのだ。
相手がたどり着く前に、先に到着することが出来る。
しかし、それだけでは足りない。相手に追いつかれ、差し込みで巨城を取られる可能性がある。というか俺たちも〈北西巨城〉は差し込み狙いだ。
〈ジャストタイムアタック〉さえあれば差し込みを防ぐことは出来るが、実を言うと〈エデン〉ではまだ全員が〈ジャストタイムアタック〉出来るわけでは無い。
特に新たに〈エデン〉に加わったアイギス、ノエル、ラクリッテはまだまだ練習中だ。
ちなみに、〈北西巨城〉へ向かったメンバーは差し込み狙いなので全員が〈ジャストタイムアタック〉が出来るメンバーで固めてある。
では〈南東巨城〉はどう確保するのか。
相手に追いつかれたら差し込まれるかもしれない。ならば追いつかれなければ良いのだ。
南に線を引く形で保護期間のマスを敷き、とうせんぼうしてから巨城を悠々と取得する狙い。
つまり相手にそもそも巨城隣接マスを取らせない戦法だ。
「まもなく観客席デス!」
「よし、パメラ索敵頼む!」
「アイアイサーデース! 『索敵』! むむむ? ずいぶんと西にいるデス。余裕デース!」
「オーケーだ! 作戦続行。このまま進路を南東へ変更する! アイギスは南西だ! ブクマ通りに頼む!」
「了解デース」
「わかりました! 行って参ります!」
中央にあるZ型の障害物観客席、これによって相手の本拠地は見えない。
だから相手がどこまで迫ってきているか分からなかったわけだが、パメラの索敵ではまだまだ余裕があるようだ。(図AC-23地点)
ここからはアイギスとは別行動となる。
なぜ俺たちは最初南東に進路を取ったときに、途中で南へと進路を変更し、再び南東へと進路を取り直したのか? それは〈中央東巨城〉を守るためだな。
俺たちが一番近い〈南東巨城〉を取得してくるのは相手も分かっている。そのため相手は敢えて〈南東巨城〉の取得を諦め、ガラ空きの〈中央東巨城〉を取ろうという戦法が存在する。
それをインターセプトするための大事な一手だ。
アイギスには観客席の隣接マスを取得し、保護期間で壁を作ってもらう。これで相手は北へ進むことはできない。
さらにアイギスの役割はまだある。
マス取りのルールでは自軍マスの隣接でないとそのマスを取得出来ないとなっている。
そのため斜めに取得した場合、斜めに隙間が出来るのだ。十字にマスを取得すれば隙は無く通ることができないが、×字にマスを取った場合、×字に通行が可能になってしまう。
だって隣接してるから。
そのため斜めに取得する場合はその隙間を埋める必要がある。それをアイギスに任せてあった。
俺とパメラは一直線に巨城を目指し線を引き、その線を補強するのがアイギスの仕事だ。
アイギスには、どこのマスを取得し、どこのマスで充電して、どこへ向かうのかがリーナの『ギルドチェーンブックマーク』、通称ブクマで細かく指示されていた。
(アイギス=図AB-24取、図AC-24充、図AD-24取、図AD-25充、図AE-25取、こんな感じ)
その甲斐はあり、〈テンプルセイバー〉が駆けつけてくる前にアイギスが〈中央東巨城〉を、俺とパメラが〈南東巨城〉の進路を完全にインターセプトすることに成功したのだった。
「追いついてきた〈テンプルセイバー〉の人たち、小城を取得するみたいデース!」
「完全に道を塞がれて巨城は狙えないからな。小城を取得しつつ保護期間が明けるのを待ち、差し込みを狙おうという判断だろう。だが残念ながら無理なんだなぁ」
「お、皆さん追いついてきたデース!」
見ればルル、シェリア、ノエル、ラクリッテが〈南東巨城〉に到着するところだった。
「よし、〈南東巨城〉の攻略開始だ! ユニークスキル『勇者の剣』!」
「ユニークスキル――『必殺忍法・分身の術』!」
俺とパメラはそこら辺の小城を取得しつつ他のメンバーが追いつくのを待ち、みんなが追いついたところで一気に〈南東巨城〉の攻略に入る。
それを見た〈テンプルセイバー〉は〈南東巨城〉は諦めたようで、どうやら〈中央東巨城〉を狙う気のようだ。その判断は悪くない。
観客席横のマスの保護期間が明ければ取れると思っているのだろう? だが残念、それもすでに対策済みだ。
「〈南東巨城〉が落ちたデース!」
「「おお!」」
「やったのです!」
「さすがですルル!」
「まず一つ目ゲットだねラクリッテちゃん!」
「う、うん! 次もがんばるよ!」
「ゼフィルスさん、次はどうするデース?」
「予定通り、すぐに〈中央東巨城〉へと進路を変更する」
「〈南西巨城〉も取れそうに見えるデスよ?」
「あっちは多分取れないな。ほら〈テンプルセイバー〉の一部が進路を塞ぎに来てるだろ?」
「あ、本当デース、気がつかなかったデスね」
「相手はアレでもベテランだ。目の前のことに誘い込まれるな。作戦通り遂行するぞ!」
「アイアイサーデース!」
そして俺たちは進路を北西に変更し〈中央東巨城〉へと向かう。
さきほどアイギスに塞いでもらったマスはさすがに保護期間が切れている。
え? なら〈中央東巨城〉が危ないんじゃないかと思うだろうが、抜かりは無い。
ちゃんとアイギスとリカを配置している。
「あ、〈テンプルセイバー〉の人たちが通れなくなって迂回しようとしています!」
「リカとアイギスは上手く誘い込んだな。〈テンプルセイバー〉側は5人だ。このまま挟撃できれば討ち取れてしまうぞ?」
早速リカが上級職になった腕前を披露したらしい。
2マス北へと進み保護期間を作り、回り込もうとしてきた〈テンプルセイバー〉の進路を塞いでいた。こうなると〈テンプルセイバー〉の選択肢は進むのか引き返すのか、あるいは戦うかとなるが、進むと後ろを取られて全滅する可能性が高いため引き返すかこの場で戦うしかないわけだが。
「む、勇者か!」
「レナンドル先輩か!」
〈テンプルセイバー〉のメンバーは〈馬〉に騎乗したレナンドルギルドマスターを中心とした部隊で、〈馬〉に騎乗した騎士が3人、1人がタンク系騎士、最後の1人はヒーラーのようだ。
ヒーラーがその位置じゃすぐに討ち取られるな。すると騎士が4人になるか?
ヒーラーを庇わせながら追い込むのも有りかも知れない。
俺が対人戦の予感に頭を巡らせていると、レナンドル先輩が叫ぶ。
「一度引くぞ!」
「え? ギルマス!?」
数と位置的不利を悟ったレナンドル先輩が撤退してくれた。
それが正解だ。
まだ初動だ。巨城を早めに確保したいが、犠牲を出す場面では無い。
それをレナンドル先輩はよく分かっている。ナイスな我慢、と言わざるを得ない。
これで〈南東巨城〉と〈中央東巨城〉は手に入った。本拠地のほぼ真上にあって敵に取られる心配が少ない〈北東巨城〉もゲットできるとなればこれで半数の巨城は手に入ったわけだな。作戦大成功だ。
さて、〈北西巨城〉のメンバーはどうしているかね?




