#628 ダンジョン初のカウントダウン即死デス!
翌日、放課後。
俺は連絡を取った〈調査課〉3年生【フリーダムメビウス】のユミキ先輩と会っていた。
「はあいゼフィルス君、早速のご利用ありがとね」
「ユミキ先輩、素早い対応で助かるよ」
「ゼフィルス君の頼みならすぐに動くわ。だから今後もよろしくね」
「ちゃっかりしてるな~」
パープル系の長い髪を揺らし、ユミキ先輩がウインクをして言う。
さすが3年生、お姉さん的魅力が高いぜ。
ユミキ先輩は学園ニュース〈学園の鳥〉に所属しているほか、情報屋の側面も持っているため依頼をした形だ。
「それで今日の依頼だが、チャットに書いたとおりタバサ先輩が〈エデン〉に籍を移そうとしている、という情報を流してほしい」
「移すではなくて移そうとしている、ね。それだけでいいの? 〈テンプルセイバー〉の内部情報も公開出来るわよ?」
「何その怖い情報。やめてあげて?」
ユミキ先輩もタバサ先輩の情報を掴んでいるようだ。笑顔が少し怖い。
いや、うん。〈テンプルセイバー〉はすでに色々情報が流れているから手遅れかもしれないが。別にそこまでは求めてない。
「うふふ、冗談よ。それと注文は、〈テンプルセイバー〉の構成だったわね。この紙にまとめておいたわ」
「仕事早!」
ユミキ先輩から受け取ったメモ、そこには〈テンプルセイバー〉所属メンバーの簡単なプロフィールと職業、そして今までの〈ギルドバトル〉の戦略や作戦内容が書いてあった。
ユミキ先輩、仕事早すぎ。
そう、俺はユミキ先輩に〈テンプルセイバー〉の情報も求めていた。
〈テンプルセイバー〉は元Aランクギルド、俺たち〈エデン〉はDランクギルドだ。
いくらランク落ちしたとしても元Aランクにいた実力のあったギルド。油断せず、今回は相手の情報を収集し、しっかり対策を練りたい考えだ。
「仕事が早いと嬉しいでしょ?」
「ああ、助かるぜ」
「ま、元Aランクだからその手の情報を欲しがる人って多くて。実はテンプレートがすでに固まってるのよ。同じ情報を売るのもこれで数件目だから早かっただけなのだけどね」
それはあれか? 上位ランクのギルド情報はすでにまとめてあるから買わない? っていう意味なのか?
まあ、覚えておこう。
「それじゃあねゼフィルス君、私は仕事があるからこれで失礼するわ」
「それじゃあ。また何かあったらよろしくなユミキ先輩」
ユミキ先輩、モデルのような足取りで去って行ったよ。かっこいいな、俺も先輩になったらああいうかっこいい姿で退出したいものだ。
俺はそれを見送り、その足で待ち合わせ場所のダンジョンへ向かったのだった。
場所は〈中中ダン〉。
そこにはタバサ先輩と〈エデン〉メンバー、シエラ、アイギス、レグラムがすでに集まっていた。
俺も合流して、タバサ先輩のことを紹介した。
「紹介にあずかりました〈支援課3年1組〉タバサと言います。現在所属は〈テンプルセイバー〉ですが、脱退を申請中で、〈エデン〉への加入を希望しています。本日はよろしくお願いいたします」
そう言って深々と頭を下げるタバサ先輩。
現在〈エデン〉メンバーと顔合わせ中だった。
「〈戦闘課1年8組〉レグラムという。こちらこそ宜しく願う」
この中で唯一の初対面であるレグラムが優雅な礼でタバサ先輩に挨拶していた。さすがレグラム、かっこいいな。
しかし、もう1人のメンバー、アイギスはかなり動揺していた。
動揺から復帰したアイギスが慌ててタバサ先輩に聞く。
「た、タバサ先輩!? サブマスターの貴方がどうして、〈テンプルセイバー〉を脱退して〈エデン〉へ加入って何がどうしたのですか!?」
アイギスは〈テンプルセイバー〉の下部組織〈ホワイトセイバー〉の元メンバーだった。当然、親ギルドのタバサ先輩とも面識があったようだ。
しかしタバサ先輩はサブマスターだったのか。そりゃ動揺するな。
俺もシエラが脱退するなんて言った日には……、いや、想像するのはやめておこう。
「心配しなくても大丈夫よ。私は〈エデン〉を抜けるなんてしないから」
「そ、そうか」
どうやら考えがバレたらしい。思わずシエラをチラッと見てしまったことで全てを察したようすだ。
だが、そう言ってもらえると、ジンっと来るな。
そうシエラとやり取りしているうちにタバサ先輩がアイギスを落ち着かせることに成功したようだ。
事情を聞いたアイギスは納得したように頷いている。彼女が〈エデン〉に来たのも〈テンプルセイバー〉が〈決闘戦〉に負けて〈白の玉座〉が無くなったことが原因だったからな。
「タバサ先輩が〈エデン〉に加入してくれるとはこれほど心強いことは無いです。ですが、〈白の玉座〉は……」
「うん。覚悟はしている。でもやるだけのことはやってみたいから」
タバサ先輩はどうしても〈白の玉座〉が諦められないと〈エデン〉への加入を願っている。
無条件でそれを助けてやるわけにはいかないが、チャンスを与える事は出来る。
それにはまず、タバサ先輩の実力を示してもらわなければならない。故のダンジョンだ。
まあ、今日のダンジョンはそれだけが理由ではないけどな。
「今回はタバサ先輩の実力を見せてもらうのとレグラムのレベル上げも兼ねて、中級中位ダンジョンの一つ〈枯木の邪花ダンジョン〉に向かう」
「……〈即死の枯れ森〉か」
俺の宣言にレグラムが真剣な表情で返す。
通称〈即死の枯れ森〉。名前の通り、〈ダン活〉で〈即死〉の状態異常を使ってくるモンスターが初めて登場してくるダンジョンで、ヒーラーが優秀で無いと突破が難しいダンジョンとして知られ、学生に不人気のダンジョンだ。
しかし、言い換えればこのダンジョンを簡単に抜ける事が出来ればヒーラーは優秀ということだな。
タバサ先輩の実力やビルド構成を見るにはうってつけだろう。
こう言ってはなんだが、タバサ先輩は後半年しかギルドに在籍できない、つまり育成に掛けられる時間があまりないんだ。
今からじっくり育てるなんて出来ないのでしっかり実力があるか、見ておく必要がある。その辺手は抜かない。
故のダンジョン攻略だな。
今回、即死を使ってくるモンスターは〈狂いの邪花〉というモンスターで、前衛に即死の花粉を散布してくる。これに掛かると30秒のカウントダウンの後、どれだけHPが残っていても戦闘不能状態になってしまう。これをカウントダウン即死という。
〈即死〉の状態異常はあまりに強力すぎるため、中級中位ではまだ易しいカウントダウン即死が採用されている。
これが上級に近づくにつれカウントダウンの秒数も少なくなっていき、上級中位ダンジョンでは、命中、ゼロ秒で戦闘不能というデンジャラスが待っている。
今回は前衛しか掛からないというのも、まだ初の登場というチュートリアルが生きているな。カウントダウン中に状態異常回復を使えば〈即死〉を回避出来るというわけだ。
後衛が生きていれば復活も出来るしな。いきなりパーティ全体〈即死〉とか笑えなさすぎるというのもある。
「レグラム、行けるか?」
「任せるがいい。即死に怯んでいてはこの先へは進めん」
「アイギスは」
「私もレグラムと同じ意見です」
30秒あれば対処法はいくらでもあるが、もしカウントダウンがゼロになれば戦闘不能。
HPバリアなどの恩恵が全て吹っ飛び、モンスターの攻撃に無防備になってしまう。
これを怖がって先へ進めなくなる学生も多いらしい。
そのための確認だったが、レグラムもアイギスも問題無いと力強い返事をいただいた。
今回前衛過多でパーティを組み、さらには即死に耐性の無い2人を選んだわけだが、それを見透かした上で頷いてくれたのだから心強いというものだ。
ということで、アイギスに〈からくり馬車〉の〈シャインブレイカー号〉を用意してもらい、一気に下層まで進むことにした。




