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#621 ユーリ先輩と仲良くなる。共にラナを守ろうぜ!




「次は僕の話もいいかな?」


 2学期も臨時講師の仕事を請け、学園長との打ち合わせが終了したところでユーリ先輩が話しかけてきた。


「なんだか重要な話のようだな」


「そうだね。ゼフィルス君とは少し腹を割って話したいと思っていたんだ」


「――『情報規制』」


 ユーリ先輩がそう言うと、学園長が何も言わずスキルを使う。

 これは空間隔離系のインビジブルスキルだな。音も気配も漏らさない強力なやつだ。

 さすが学園長、しっかり上級職だったか、候補は3職あるのでどれかまでは分からないが、多分アレだろう。


 しかしなるほどこのスキル、リアルでは文字通り情報を規制するために使うんだな。

 俺がへぇ~と感心していると、ユーリ先輩が学園長に礼を言う。


「気を使ってもらって悪いね学園長」


「何、城でも誰が聞いているか分からんのでのう。備えは必要じゃよ」


 なるほど、ここでの話が外に漏れるとすれば学園長の管理責任になるわけか。ここ、学園長の家らしいし、そのため学園長は備えの意味を籠めてスキルを使ったらしい。


 しかし、ユーリ先輩のさっきの言葉が気になるな。俺は先を促してみる。


「腹を割った話と言うと?」


 つまりは俺のことか?

 俺はこの世界では主人公にしてプレイヤー、自重はいつの間にかどこかに旅立ったので最近はちょっと色々やりすぎた感も、あるようなないような。


 定番どおり、「君は何者だい」なんて聞かれても困っちゃうんだがな~。(ちょっと嬉しそう)


「まずはお礼を言わせてほしい」


「……ん?」


 はて? お礼?


「ラナの笑顔を取り戻してくれてありがとう。ゼフィルス君にはとても感謝してるんだ」


 …………。えっと?


「なんの話だ?」


「ん?」


 しばし見つめ合う俺とユーリ先輩。そこへ学園長が咳払いして割って入った。


「おっほん。どうやら認識の不一致がある様子じゃな。ユーリ殿下、腹を割って話すのであればもう少し相手の認識を考慮せねばならんぞ」


 どうやら、俺とユーリ先輩に認識の齟齬があるもようだ。


「えっと、そうだね。最初から話そう。ゼフィルス君は僕とラナが少しすれ違いをしているということは知っているかい?」


 すれ違い……。そうだったのか?


「少しだけ。ラナから聞いたことがある――」


「ほ、本当かい!?」


 俺が聞いたことがあると返すと、途中でユーリ先輩がものすごく食いついた。


「こ、こほん。それでラナは僕のことをなにか言っていたのかな?」


 あ、いやすまないユーリ先輩、思い返せばラナからは聞いた事はなかった、エステルやシズからそれとなく聞いただけだった。それに喧嘩中と聞いていたんだ、お互いの認識に不一致があるようだぞ?

 ということで俺は正直に言うしかない。


「いや、特には」


「そ、そうかい? 上級ダンジョン入りについて僕を心配したりとかは無かったかい?」


 ……無かったなぁ~。


 何度記憶を掘り起こしてもラナがユーリ先輩の話題を出したことは思い浮かばなかった……。

 初の〈千剣フラカル〉との試合の時、ちょっと「お兄様」と呟いただけ、だったか?

 それ以外本当にまったくと言っていいほど話題は……、いや、確か夏休みの時、ユーリ先輩が帰省しないから自分が代わりに公務することになったと怒っていた気がする。エステルたちが毎日ぬいぐるみを渡して機嫌を取っていたとか話していたような……。


 だが、それを本人に言ってもいいのだろうか?

 いや、腹を割って話したいということなんだから言うべきだろう。


「ユーリ先輩が帰省しないので自分が帰省して公務をすることになったと怒っていたこと、くらいかな。それ以外はまったく話題に出していなかったと思う」


「…………ふ、そうか」


 なぜだろう、少し色素が薄くなった気がするユーリ先輩がゆっくりとソファーの背にもたれかかった。

 なぜか学園長のユーリ先輩を見る目が哀れみを帯びて見える気がしたのは気のせいだと思う。


「昔、僕とラナはね、とても仲が良かったんだよ。自分で言うのもなんだけど。ラナは僕にとてもよく懐いていたと思う」


 突然語り出した! 大人しく聞いてあげよう。


「その頃のラナはとても可愛くてね。笑顔が絶えず、明るく、見ている者を幸せにしてしまう愛らしい姫だった」


 どうやら、今のラナより素直で可愛かったらしい。俺もその頃のラナに会ってみたかった。

 少しユーリ先輩が羨ましいぞ。


 ユーリ先輩の話は続く。

 そんな誰もが愛するラナを変えてしまう出来事が起きたのだそうだ。

 それが、仲良しでありとても懐いていたユーリ先輩の、学園の入学。

〈迷宮学園・本校〉は全寮制だ。

 入学するには王族と言えど、寮住まいになる。ラナとは(はな)(ばな)れになってしまう。


 まあ、ここまでは分かる。それで?


「僕はやるべきことがあった。Sランクギルドを率いる者となり、上級ダンジョンをクリアし、偉大な父の子にして次期国王の器を示す必要があった。だから、気軽に帰る事ができなかったんだ」


 そうしてラナは怒った。帰らないユーリ先輩にとても怒った。

 そうしてすれ違いが始まった、とういう顛末らしい。最後めっちゃはしょったな。


 ふむ。ユーリ先輩は王太子、つまり次期国王だ。

 そして、これは俺もよく知らないが、確か現国王でありラナのお父さんが上級ダンジョンをクリアして、その功績で国王になったとかなんとか。


 その息子であるユーリ先輩も、父を超えるべくやるべき事があった様子だ。


「これはラナの従者から聞いたのだけど、あの笑顔でいっぱいだったラナは日に日に笑顔が無くなっていき、ついには学園を嫌いだとまで言っていたそうなんだ。僕も自分のことに手一杯でね。当時はラナに気を向ける余裕が無かった。あの入学してきたばかりのラナを見たとき、僕はとても後悔したんだよ」


 そう呟き、どこか遠いところを見るようにして語るユーリ先輩は本当にラナのことが大好きなようだ。

 しかし、聞けば聞くほどラナとは別人の事を話しているのではないかと思わせるな。

 学園が嫌い? 毎日元気よくダンジョンに通っているが?


「そして、あの元気を無くしきってしまったラナを、明るく元気を取り戻して笑顔でいっぱいにしてくれた人物が現れた。そう、君だ、ゼフィルス君。だから僕は、いや僕たちは心からゼフィルス君に感謝している。ラナの笑顔を取り戻してくれて、本当にありがとう」


 そう……だっただろうか?

 ラナは最初出会った頃から今のテンションだった気がしないでもないが、王太子であるユーリ先輩の言うことだ。きっとそうなのだろう。

 俺はお礼を受け取った。


「お礼を受け取ります」


「それと【大聖女】に就かせてくれたこともね」


 おいー。そこでぶっ込んでくるのかーい!


「ふふふ、でもラナが【大聖女】に就いたということはまだしばらく内緒にしていてくれると嬉しい。発表はこっちがタイミングを見計らって行なうから。じゃないとラナにも迷惑が掛かっちゃうかもしれないしね」


 そうほくそ笑みながらウインクしてくるユーリ先輩は、心からラナの事を祝っている様子だった。どうやらユーリ先輩は確信しているらしいな。

 ラナの就いた【大聖女】はこの世界では伝説的な位置づけらしい。過去に片手で数えるほどしか就けた人物はおらず、そのいずれも偉業を成し遂げた人物として歴史に刻まれているという。


 もしラナが【大聖女】だと広まった場合、貴族の面会からダンジョンへの協力願い、果ては婚約殺到まで様々な煩わしい事が起こると思われているらしい。へたをすればラナを取り上げられてしまう恐れがあるという。


「もちろん僕がそんなことさせないけどね」


「ふふふ、ユーリ先輩、もし俺の力が必要になったら言ってください。全力で協力を約束しましょう」


 黒い影を携えたユーリ先輩が笑うと俺も笑顔で全力協力を約束した。

 全力とはどんなことをしても――、おっと違う違う、ラナが【大聖女】だとバレなければ起こらないのだ。内緒にしておきましょう。

 ユーリ先輩とは仲良く出来る気がした。


「それで、ここからが本題なのだけど、ゼフィルス君に是非頼みがあるんだ」


「聞きましょう」


 ユーリ先輩の頼みか、どんなことだろうか?

 ジッとユーリ先輩を見つめると、少し照れたような仕草をしたユーリ先輩が言う。


「こほん、先日見ていたかもしれないが、どうも僕はラナとの距離感を掴みかねていてね。そこでお願いなのだが、ゼフィルス君にはどうか仲を取り持ってもらいたいと……」


 そこで思い出すのは先日ラナとユーリ先輩の邂逅。

 二人共無言になってしまってギクシャクしていた光景だった。


 なるほど、仲直りの手助けをしてほしいということか。


「何かとっかかりがあるといいのだけど」


 そこまでユーリ先輩が言ったとき、横から学園長が言葉を挟んだ。


「ユーリ殿下、やはり〈芳醇な100%リンゴジュース〉のことをまず伝えることが必要だと考えるがの」


「ん? あのリンゴジュースがどうかしたのですか?」


 俺たちが昨日5本ゲットし、この後試飲会を開催する予定のジュースの名前を出されて思わず反応する。


 すると、ユーリ先輩は言いづらそうに言った。


「うんまあ、ラナの機嫌を取ろうとしてね、たまに取ってきてセレスタンを通して渡していたんだ」


「あ、ああ!」


 ピコンと来た。

 ラナがたまにどこからか仕入れてくる〈芳醇な100%リンゴジュース〉。

 あれの出所はどうやらユーリ先輩だったらしい。

 それにセレスタンはラナのお父さんからの指令で〈エデン〉に入った経緯がある。ユーリ先輩への繋がりがあっても不思議ではない。


 どうやらユーリ先輩は陰で〈エデン〉をサポートしてくれていたみたいだ。

 セレスタンにはいつも世話になっている。


 あ、昨日〈中上ダン〉でユーリ先輩たちを見つけたのって、そういえば〈リンゴダン〉に行くと言っていたしもしかしたら昨日が〈芳醇な100%リンゴジュース〉を回収しに行く日だったのかもしれない?


 となると、ラナが好きだからと大量にゲットしたのはマズかったかもしれない。ユーリ先輩への感謝が薄れることに繋がる。だから昨日は諦めて帰ったのか……。


 そんな思いが表に出てしまったのかユーリ先輩が首を振る。


「いや、気にしないでくれ。それでゼフィルス君、どうだろうか?」


「受けてもいいけど確実にとは約束できない案件だぞ?」


「それでも構わない。助かるよ。多分、ラナが今一番信頼しているのはゼフィルス君だろうからね」


 そう言われると、ちょっと照れる。

 だが、俺は少しユーリ先輩に言わずにはいられないことがある。


「ユーリ先輩も頑張ってくれよ。2年半も放置したんだから。もっと傷が浅いうちにやりようはいくらでもあっただろうに」


「いやはや、面目ない」


 自分の頬をさすりながら落ち込むユーリ先輩は、普通の男子学生に見えた。

 2年半、確かにSランクギルドに上がり、未開の上級ダンジョンへ挑むためには全力でかからなければならないだろう。帰省する時間が無かったというのも、理解できないわけではない。


「しかし、なぜ今なんだ? 入学式からでも十分接触できたように思うが?」


 俺は素朴な疑問を口にした。

 まあ4月はギルドバトルの激戦期間、自由に動くのは難しかっただろうが、自分のギルドに迎え入れるとか、やりようはあったように思う。

 さらに半年も過ぎたのには何か理由があったのか、少し気になったのだ。


「いや、実は入学式の時は断られてしまってね……。こほん、僕たちは、現在上級下位ダンジョンの一つ、〈霧雲(きりぐも)の高地ダンジョン〉第31層を攻略中なのだが、正直に言えばこのままだとクリアは難しいと思っている。ラナ、そしてゼフィルス君には、どうか上級ダンジョンの攻略に協力をお願いしたい」




 後書き失礼します。長くなってしまったので分割。


 お知らせ!

 コミカライズ第2話の更新日が決まりました。

 2週間後、5月30日だそうです!

 第2話からは続々とキャラが増えます!

 とうとうシエラの登場です! シエラ、登場です!(重要なので2度)


 あとフィリス先生、学園長も登場。

 アランも見切れています。

 マッスラーズのリーダー氏もいて。

 そして〈花の閃華〉のリーダー、アミさんもいたりします!


 TOブックス コロナEX にてコミカライズ版〈ダン活〉公開中!

 よろしくお願いいたします!




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ゲーム世界転生〈ダン活〉1巻2022年3月10日発売!
― 新着の感想 ―
[一言] はい、面倒なお願いきた! 今の時点でそもそもそのダンジョンに入るための資格がないから! ってのが理由だね。非協力なら。 協力するなら、装備の見直しとついていくメンバーの職とサブメンバ…
[一言] あぁダメ王子だな。
[一言] ゼフィルスさん、ばらす係 王太子さん、食い付いたのを釣り上げる係
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