#617 〈中上ダン〉鉢合せ〈キングアブソリュート〉!
その日のダンジョンは午前中で10層まで進み、お昼にショートカット転移陣で戻ってきた。
ここで一旦お昼休憩だ。
ちょうどいい時間だな。まあ、この時間に戻って来れるよう調整したのは俺だが。
俺は一度皆と別れ、〈私と一緒に爆師しよう〉ギルドのレンカ先輩に〈オカリナ〉の回復を頼むと、みんなと合流して食堂で学食をいただいた。
「リンゴカレーじゃない……」
「あ~、リンゴが入ったカレーは後日だな。昼は学食で我慢してくれ」
「残念……」
カルアが残念と口にしながらカレー特盛を食べていた。それカレーじゃね? というツッコミはしてはいけない。
まあ、今度作ってあげよう。
また〈カレーのテツジン〉様の出番だな。
ちなみに俺の今日のメニューはサトイモのから揚げと秋刀魚の塩焼き、ご飯に味噌汁である。これもむちゃくちゃ美味い。今日も当たりだな!
俺はメニュー食べ歩きツアーをしているので、学食は並んだ順に食べている。月が替わるとメニューもがらりと変わるので、同じ物を注文している余裕など無いのだ。〈ダン活〉の全てを味わいつくすぜ!
ラナとエステル、シエラも本日は秋の旬メニューのようだ。栗ご飯か、それも美味そうだ。
〈ダン活〉ではダンジョンで季節に関係なくいつでも食材を入手することが出来るが、旬というものはあるらしく、今の時期これが美味いとメニューに出されるのだ。
またこの学食は、作り手が本校の〈調理課〉の卒業生らしく、毎回めちゃくちゃ美味い料理に仕上げてくれるのもありがたい。
昼と夜はなるべくここのお世話になるようにしています。
「午後からは何するの?」
食事を終え、上品に口元を拭ったシエラが聞いてくる。
「そりゃあ、レベル上げ&ダンジョン攻略&上級職の練習だろ? このメンバーだし、午前中でウォーミングアップも済んだし、〈鬼ダン〉行こうぜ?」
そこで俺は中級上位(ランク8)〈強者の鬼山ダンジョン〉に行くことを提案する。
このメンバーで20層ボスを攻略しているので、次は21層から進められるのが利点だ。攻略が捗るぞ!
しかし、そんな俺の提案にラナが首を振る。
「ダメね。午後も〈リンゴダン〉に行くわよ! ゼフィルスが〈オカリナ〉を回復依頼に出したの、知ってるんだからね!」
〈オカリナ〉を回復させるのは後にすればよかったかな?
ラナの希望は今行ってきたばかりの〈芳醇の林檎ダンジョン〉のようだ。
〈オカリナ〉をまた使い、これ以上のジュースを手に入れようと画策している様子だ。もう3本も確保したけど?
まあそれも悪くは無いんだがな。単価高いし、稼ぎとしては悪くない。ただどうせ全部飲むので1ミールにもならないんだけどな!
ただ、在庫に持っておきたいのも事実なんだよなぁ。
「ねえカルア、ダンジョンの奥には特に美味しいリンゴが実っているそうよ。カレーがさらに美味しくなるかも!」
「カレーが、さらに、美味しく、なる!」
こらこら根拠の無い話で誘惑するな。カルアの目が輝いてしまったではないか。
とはいえ実は俺もリンゴの味に付いては分からない。ゲームでは味までは分からなかったのだ。
下層からは薬に使う素材として多くの種類の果実類が登場する。その果実を混ぜて作ったポーションの味は普通のポーションより断然美味いらしい。ジュースみたいなんだそうだ。気になる。
「うむむ」
「エステルはどっちに行きたい?」
「ラナ様が行きたいところが私の行きたいところです」
「なら決まりね!」
なんということだ。カルアとエステルを味方につけたラナによって過半数の票を勝ち取ってしまった。
これが王族の根回し? えらく手馴れている。恐ろしい。
とはいえ、俺も気にはなっていたし、〈リンゴダン〉はどっちみちクリアしようと思っていたダンジョンの一つだ。ならいいかと頷く。
「まあ、俺は別にいいが、シエラは?」
「私も別にいいわよ」
「決まりね!」
シエラは練習メインらしいのでダンジョンはどこでもいいっぽい。
こうして午後からも〈リンゴダン〉で素材集めをすることになったのだった。
昼食を終え、そのまま〈中上ダン〉まで行くと、なんだか人だかりが出来ていることに気が付く。
「ん?」
「どうしたのかしらね」
シエラも気になるようだ。なんだか黄色い声も聞こえるし、有名人でも来ているのか?
そう思ってみていると、見知った顔と目があった。
「あ、ゼフィルスじゃないか」
「ラムダ?」
人波を掻き分けるように進んできたのは、現在〈5組〉に在籍し、俺たち〈エデン〉に所属する1年生を除き唯一上級職に就いている、将来を期待されている騎士。
――【カリバーンパラディン】のラムダだった。
俺の前までやって来たラムダが手を差し出してきたので握手する。
「昨日ぶりだなゼフィルス。今日はダンジョンか?」
「そっちもだろ? やっぱり日曜日はダンジョンだよ」
「はは、そうか、俺も負けていられないな」
親しく挨拶を交わす。
実は昨日の授賞式の後、少し話す機会があったのだ。
俺も【カリバーンパラディン】に就くラムダには興味があったので話してみたら、なかなか話があって意気投合。やっぱり思ったとおりいいやつで、実力もあり、ギルドから〈上級転職チケット〉を貸与されて期待を背負っているとのことだ。
プレッシャーを感じているはずだが、堂々としていて好感が持てる。
クラス対抗戦の迫力があったラムダとは別人のように気さくだが、こっちが素なんだそうだ。
「そちらがゼフィルスのメンバーか?」
「ああ。俺の自慢のパーティメンバーだ」
ラムダが視線を向けた先にはラナたちがいた。
俺は胸を張って堂々と告げるのだ。
すると、なんだか顔を赤くしたラナが小突いてきた。
「ちょっとゼフィルス、恥ずかしいじゃない」
「何言ってんだ、本当のことだぞ?」
「だから、その、そんなはっきり言われるとね……」
ラナはストレートに褒められたのが照れくさいようだな。
しかし、俺は嘘は言わないぞ。パーティメンバーは俺の自慢のメンバーたちだ。
ずっと一緒にやって来たんだ。職業を獲得し、レベルを上げ、最強育成論を披露して、そしてダンジョンで一緒に腕を上げてきた。
そんな信頼を向けられたのが分かったのか、全員少し挙動がおかしくなる。
「なるほど。ゼフィルスはよほどパーティメンバーから信頼されているのだな」
「そう褒めるなよ。それで、そっちのメンバーは?」
「ああ」
こっちのメンバーはみんな有名人だ。ラムダもちゃんと全員の名前を知っているため紹介は省略。それよりもラムダのパーティメンバーを見てみたい。
ラムダは一年生の中では飛びぬけて優秀で、とあるSランクのギルドに勧誘され、上級職になると共に、その2軍で活躍するようになったのだという。
そしてそのSランクギルドというのが――、
「ラムダ」
「!」
ラムダが声をかけられて後ろへ振り向くと、人波が分かれてその人物がやってくる。
その人物を見た瞬間、隣にいたラナがサッと俺の後ろに隠れた。
黄金鎧に赤いマントをはためかせ、ラナと同じ銀髪とブルー系の瞳をした、一目で只者ではないと感じさせる雰囲気を持つ美青年。
俺はこの人物を知っていた。
学園最強、Sランクギルド〈キングアブソリュート〉のギルドマスター。
「人種」カテゴリー「王族」「王太子」を持ち、上級部門・公式最強職業ランキング第四位に輝く強力な職業、【英雄王】に就く者。そして、
「お、お兄様」
後ろのラナの口からこぼれたとおり、ラナの2つ上の兄である人物。
―――ユーリ王太子がそこにいた。