#614 〈リンゴダン〉に突入! 狩れ、黄金のリンゴ!
授賞式が終わり、クラス対抗戦が本当に終わってしまったのだなぁと少し感傷に浸る、翌日の日曜日。
この日のギルド活動はお休みとした。
まあ、みんなお疲れ様~だったからな。
大きなイベントの後だ。まずはゆっくり休んで英気を養ってくれと全員に通達した形だ。
で、俺はそのお休みに何をしているかって?
もちろん、ダンジョンに来ております! 言うまでも無いな!
「ダンジョンで活動すると、英気が溜まる気がする~!」
「それはゼフィルスだけよ。普通は疲れるはずよ」
おっと、今言ったのは誰だ!?
振り向くとそこにはジト目のシエラがいた。
まあそれも当然だ。だって一緒にパーティ組んでいるんだもん。
え? 休みは、って?
いやあ、俺が日曜日にダンジョンに行かないはずがない、ということで「誰か一緒に行く人~」と誘ってみたところ、シエラ、ラナ、エステル、カルアが手を上げたんだ。
マジか。上級職メンバーじゃん、と驚いたものだ。
どうやらクラス対抗戦で思うところがあったらしく、みんな練習込みでダンジョンへ行きたかったらしい。なんだかんだ、上級職になってまだ二週間経ってないからな。
やる気があるのはいいことだ! 早速パーティを組もう! となったわけだ。
あと、今突入しているダンジョンだが、せっかく上級職メンバーが揃っているのだ。
ここは中級上位ダンジョンに行こうと決まった。そして場所だが、ラナの強い希望により、前々から予定していた〈芳醇の林檎ダンジョン〉に足を踏み入れることになった。目的は、言わずもがなである。
「わぁ! ここがあのリンゴダンジョンなのね! リンゴの香りがするわ!」
「はい。ダンジョン中からリンゴの香りが漂ってきますねラナ様」
ラナが手を広げ、ダンジョンを見渡しながら感激の声を上げる。
続いてエステルが同意し、深呼吸してリンゴの香りに頬を緩めていた。
そう、ここはリンゴが大量に植えてある果樹園ダンジョン。
その果樹は、上層はリンゴオンリーで、どこを見渡してもリンゴの木が生えている。
そして俺も入って初めて気がついたのだが、このダンジョン、すごくリンゴの香りがする!
ゲームでは匂いなんてしなかったからとても新鮮な体験だ!
別に他のダンジョンでも匂いがしないと言うことはなかったが、強く意識したのは、多分これが最初なんじゃないかと思う。
いい香りだ。
「リンゴ、カレーに合うと聞いた。いっぱい採る」
密かに目に闘志を燃やす猫が1名。
まあ、カルアである。
カルアも練習、訓練がメインだが、楽しまなくちゃ損だ、ということで「ここのリンゴはめっちゃカレーに合うらしいぞ」と囁いたら「いっぱい採る!」と目を輝かせて今に至る。
さすがカレーの戦士。
カルアの熱意が半端無いぜ。いつものだらんとした表情が今は覇気すら宿っているように見える気がする。
「さて、ちゃんと『伐採』系のスキルが付いた〈優しいオノ〉を持って来たぞ。これでリンゴを採るぞ!」
「「おおー!」」
取り出したるは〈ビリビリの森〉で使って以来になるか? 『伐採』スキルの付いた〈優しいオノ〉だ。これを木に叩きつけるとリンゴ、もしくは木材系が採れる。
俺の宣言にラナとカルアは元気よく手を上げた。手を差し出して迫ってくる。
「待て待て順番だ〈優しいオノ〉は1本しかないから順番にな」
「なら最初は私がやるわ! カルア見てなさい私のスイングを! どうやって使うのか見せてあげるわ!」
「ん。ラナ、見る」
〈優しいオノ〉はこれでも〈金箱〉産だ。1本しか無いので順番を促すと、経験者のラナが一番を買って出た。カルアも大人しくラナの意見に同意している。
あれ? 〈ビリビリの森〉では確かカルアもいた気がするが、あの時はやらなかったんだっけ?
「えい!」
ラナが水平にスイングしたオノがリンゴの木に命中すると、いつの間にか木の下にドロップ品が落ちていた。〈あまあまリンゴ〉と〈しゃりしゃりリンゴ〉だな。
カルアが即回収する。
「まだまだ行くわよ! ドンドン行くわ!」
「ん。回収する」
「あとで俺にもやらせてくれよ~」
なんだかテンションが高すぎて終わらなさそうなラナに声を掛けておき、シエラとエステルと合流する。
「ゼフィルスってラナ殿下には甘いわよね」
「ありがとうございます、ゼフィルス殿。ラナ様がとっても楽しそうです」
「いいっていいって。俺もリンゴ食いたかったしな」
まあ、今日は本当は休みだったのだ。たまにはこんな息抜きっぽいダンジョンもいいだろう。
とはいえ、ここはエクストラダンジョンというわけではない。しっかりモンスターも出てくる。ほら、早速おいでなすったようだ。
話の途中でリンゴに手足っぽい蔓が生えて、魔法使い用の杖を持ったモンスター〈魔法のリンゴ〉が4体、迫ってきていた。
ここでは伐採しているとこうしてモンスターが迫ってくるのだ。
「おっと、エンカウントだ。――シエラ」
「任せて。『挑発』!」
「ラナ様の楽しみの邪魔はさせませんよ。『ドライブ全開』!」
「俺も行くぜ、『シャインライトニング』!」
シエラがヘイトを稼ぎ、エステルが〈蒼き歯車〉を回転させながら側面に回りこんだので俺は範囲攻撃をぶっ放す。
「リンリンーー!」
「リリリンーー!」
なんだか鈴みたいな鳴き声っぽい音を出したリンゴ型モンスターたちが魔法の杖の先から炎を出して俺の『シャインライトニング』を迎撃してきた。
いやいや、なんでリンゴが炎使うんだよとか〈魔法のリンゴ〉ってそれ意味違う! とか〈ダン活〉プレイヤーから色々突っ込まれていたのを思い出した。懐かしい!
しかし、俺の『シャインライトニング』を迎撃したいならもう少し火力が必要だな。
多少は威力を減らされたが、俺の範囲魔法攻撃により〈魔法のリンゴ〉たちがビリビリやられると、そこにエステルが飛び込み隙を突く。
そこから四段階目ツリースキル『戦槍乱舞』で数撃与えると、〈魔法のリンゴ〉はエフェクトを出して消えていった。
たとえ3人でも、上級職だからな。中級上位とはいえ〈ランク4〉ダンジョンの第1層ではこんなものだ。
ちなみにドロップは〈リンゴの蜜〉という食材だった。これは大当たりだぜ! 他には〈リンゴの種〉もドロップしたが、これは〈種子〉系の素材で植えても芽は出てこない。ハンナ行きだな。
その後、大量のリンゴを手に入れて戻ってきたラナとカルアを連れ、そのまま第5層まで進むと、とある場所に向かう。
どこへ向かっているのかというと、お楽しみな場所だ。
「着いたぞ!」
「お、黄金の木!?」
その金色に光る木を見てラナがビックリという声で叫んだ。
第5層以下の層にはたまに金色のリンゴの木が生えていることがある。金色のリンゴの木は宝箱みたいな扱いで、一度『伐採』をすると消えてしまうレアな伐採ポイントだ。
生えているか否かはランダムだが、何箇所かポイントを巡れば見つかるだろうと思ってツアーをしたら、最初のポイントで見つかった。運がいいなぁ。
ちなみに黄金ではない。
「これが金色のリンゴの木ですか」
「早速伐採よ!」
「おっと待とうかラナ! それにはまだ早い」
「ふえ?」
ラナの「ふえ?」いただきました。ちょっと可愛い反応。ではなく。俺はラナに説明する。
「この金色のリンゴの木はまだ利用価値があるんだ」
「利用価値?」
「そう、利用価値。一度『伐採』すると消えてなくなってしまうレア採取ポイントだが、こいつは金色に光っているだろ? 金色と聞いて、何か思い出さないか?」
俺の言葉に、ラナはまさかという反応をする。察したらしい。
「まさか、ここに〈ゴールデンアップルプル〉が出るの!?」
――〈ゴールデンアップルプル〉。
ラナの大好物〈芳醇な100%リンゴジュース〉をドロップするレアモンスターだ。
俺がラナの要望を聞き、ここを今日の探索に決めたのはこれをゲットするためだった。
ラナのテンションがギュインと天上を突破して消えていったのが見えた気がした。
「カルア! 『ソニャー』よ! 〈ゴールデンアップルプル〉がいるわ!」
「ん、いる? 『ソニャー』!」
ラナの指示にカルアが耳の後ろに手を当てて『ソニャー』を発動する。
「ん。なんかいた? 3体くらい」
「さ、3体!?」
カルアの索敵結果にラナが両頬に手を当てて顔を赤く染める。
「行くわよカルア! 絶対に逃がさないわ!」
「お、お待ちくださいラナ様、落ち着いてくださいー」
次の瞬間にはカルアの腕を掴んでダッシュするラナをエステルが〈蒼き歯車〉で追いかけていったのだった。さすがラナだ。いいリアクションだ!
「それで、この金色のリンゴの木は何に使うの?」
冷静に聞いてくるのはシエラだ。ここには俺とシエラが残された。
ん、まあシエラのおっしゃるとおり。俺は別に〈ゴールデンアップルプル〉が出るとはいっていない。ただ――、
「ここで〈オカリナ〉を吹くと〈ゴールデンアップルプル〉が逃げ出しづらくなるんだよ。だからレアモンスター狩りは金色のリンゴの木の側でやるのがセオリーだな」
「そうなの?」
実はそうなのだ。レアモンスターは逃げ足が速い。
しかし、仲間意識でもあるのか、ここにポップした〈ゴールデンアップルプル〉は中々逃げ出さなくなるのだ。〈ゴールデンアップルプル〉自体は1層でも出るが、俺が上層で〈オカリナ〉を吹かなかったのはこのため。
レアモンスターはなるべく逃がしたくないと思ってのことだった。
そんなことを話していたら、突撃して見えなくなった3人が戻ってきた。
「ちょっとどういうことよゼフィルス! 〈ゴールデンアップルプル〉じゃなかったわよ!」
「ちゃんと話を聞かないからだぞ? いや、テンションが振り切れたのは見ていたから分かってたが」
テンションが上がると暴走する。この世の真理である。
俺は今シエラにもした説明をラナたちにも聞かせた。
「もう、そうならそうと言ってよね! ねえゼフィルス! 早く、早くオカリナを出して! 私が吹くわ! アップルジュースは私のものよ!」
変わり身早いな!
まあいいだろう。〈オカリナ〉をラナに貸してやる。
「カルア、出現したらユニーク発動。いけるか?」
「ん。任せて」
こっそり話すとカルアは胸を張って頷いた。ここは隠れる場所が少ないのでレアモンスターからもほぼ丸見えになる。
出現したら逃がさないうちにカルアが狩るのだ。
そう打ち合わせして、カルアが短剣を抜いて腰を低くし準備するのを横目にラナがオカリナを吹く。
「じゃあ吹くわよ! ~~~♪」
独特な耳心地の良い笛の音色が響き渡った、カルアは神経を尖らせて集中しているようだ。
そして次の瞬間、
「――ユニークスキル『ナンバーワン・ソニックスター』! からの――『32スターストーム』!」
一瞬でカルアが消えると、いつの間にか金色のリンゴの木の側にいてさらなるスキルを発動するところだった。速い。
その眼下にはリンゴをベースにニンジンのような形の脚が二つ付いており、茎の位置からは何か植物の蕾のようなものが生えているモンスターがいた。これがラナと俺が捜し求めていたレアモンスター〈ゴールデンアップルプル〉、通称〈ゴルプル〉である。
いつの間にポップしたのか、金色のリンゴの木がお母さんとばかりに〈ゴルプル〉がへばり付いていた、がそんな光景に躊躇しないエージェントが、おそらく背中側と思われる位置をバサササササと切ったのだ。
「!! ――――」
直撃。
〈ゴールデンアップルプル〉は一瞬でやられ、〈芳醇な100%リンゴジュース〉だけが残されていたのだった。