#610 〈拠点落とし〉決勝戦、試合終了。勝者ーー。
最後の戦いだ。
もうメルトたちも最後は華々しく行く気らしい。
もしかしたら俺と本気で戦いたかったのか?
「ポン! 『イリュージョン』!」
最初に仕掛けたのはラクリッテだった。
状態異常を与えてくる魔法を放ってくるがそれはシエラが前に出ることで防いだ。
シエラは『状態異常耐性LV10』を持っているので状態異常になることはほとんどない。
「カルア、行くぞ!」
「ん」
続いてラクリッテとノエルの元へリカとカルアが飛び出した。
同時にレグラムが俺の方へと向かってくる。
「ゆくぞ、ゼフィルス!」
「レグラムが来るか!」
いいぜ、俺は剣を抜いていつでも振れる構えを取る。
「『ダウンレジスト』! 『スロウ』!」
「! 『リカバリー』!」
上手いな。メルトの〈鈍足〉の状態異常にする『スロウ』魔法が俺を襲った。その前に使ったのが状態異常の付着率を上昇させる『ダウンレジスト』。これにより状態異常に掛かりやすくなってしまった俺は見事に〈鈍足〉状態にされてしまった。瞬間、『リカバリー』で回復する。
俺にも『状態異常耐性LV3』があるし、RESもかなり育っているが、こういうやり方で状態異常を与えてくるとやられることもある。
そして、その隙をレグラムが逃すはずも無い。
「ふっ――『電光石火』!」
「――『ハヤブサストライク』!」
素早く態勢低く滑り込んできたレグラムが『電光石火』を使い切り込んできた。
俺は来るのが分かっていたので『リカバリー』を発動中からバックステップで距離を稼いでいた、おかげでギリギリで超速の二連撃、『ハヤブサストライク』を発動するのが間に合う。『ハヤブサストライク』は二連撃だ。
一撃目で『電光石火』の一撃を弾き、返す剣でレグラムを斬る。
「くっ」
「良い一撃だったぞレグラム。近くに【花形彦】がいると知ってなかったら俺ですら今のは直撃だった」
「……さすがゼフィルスだ、だが、俺には『貴族の矜持』と『不屈の貴族』がある!」
「それな!」
レグラムのパッシブスキル『不屈の貴族』はバトルヒーリングだ。そしてもう一つのパッシブスキル『貴族の矜持』がやっかいで、これはルルの『ヒーローだもの、へっちゃらなのです』と同じ、ノックバック耐性スキルだ。
おかげでレグラムは怯むことも無く、ガンガン攻撃することが可能なんだ。
攻撃を受けても構わずアタックし続ける強さはルルで十分承知だと思う。ルルのように挑発スキルは持っていないが、レグラムは単身で敵陣に飛び込むことが出来る程の優秀な能力を持っているのだ。
これが「男爵」の高位職、高の上【花形彦】の最大の強みである。
ノックバック耐性とバトルヒーリングなんて一緒にするなよ! むっちゃ強いんだよ!
しかも、レグラムは俺の指導によりVITとRESも結構優先的に振っているため硬いんだよなこれ。
「援護す――!? くっ」
「メルト君の相手は私たちがするよ!」
「失礼しますメルト様。お二人で相手をさせていただくことをご承知願います」
「サチにセレスタンか。セレスタン、貴様は一人でも十分だろう」
「いえいえ、私ではメルト様のお相手は力不足でしょう」
「よく言うな」
メルトがレグラムの援護に入ると厄介さが天元突破だ。
サチとセレスタンでメルトの相手をして、その間にレグラムを倒させてもらおう。
その時、『直感』が発動した。
「『ディフェンス』!」
「『広域歌唱』! 『スリーピングメロディ』!」
それはノエルの全体〈睡眠〉付着攻撃だった。
うわぁ、このタイミングでやるか、今までは手の内を見せないよう温存していたな?
おかげで何人か〈睡眠〉の状態異常にかかっちまったぞ。見ろ、ラクリッテに跳び込もうとしたアランがぶっ倒れた。寝てる。
「ん、むにゃ……」
「カルア起きろー!」
「ぽ、ポン! やらせません、『カースフレイム』!」
向こう側ではカルアが寝てしまったらしい。さもありなん。やっぱりか。
リカはRESが高いし防いだようだ。ラクリッテの攻撃を躱してカルアをペチンと叩いて起こしたようだ。
俺は一応防御スキルを使って凌いだ。今の俺は『ダウンレジスト』食らっているからな。
防御スキル発動中は〈睡眠〉状態にはならないのだ。
「サチさん、お目覚めください」
「むにゃ?」
こっちではサチが眠ってしまったようだ。セレスタンが起こしている。
セレスタンが眠らなかったのは、うん、まあそうだろうな。
「『ノーブルギフト』! 『雷武功』! 『雷鳴剣』!」
おっとレグラムがこの間に剣技のダメージを上昇させるスキルと、〈雷属性〉にするバフスキルで自身を強化して攻撃してきた。
「『属性剣・火』! 『ライトニングスラッシュ』!」
俺はそれに〈火属性〉と〈雷属性〉の〈三ツリ〉で迎撃。
結果、相殺。
俺の『勇気』はすでに効果が切れているため仕方ない。
これは分かっていたのですでに次のスキルは用意してあった。
「『ライトニングバニッシュ』だ!」
「『ブレイクノック』!」
しかし、読んでいたのはレグラムも同じだったようだ。しかも、ここで相殺特化の『ブレイクノック』をしてくるか。見てからでは間に合わないタイミングのハズだ。ということはレグラムは俺がこう来るって予想していたことになる。
さすが、優秀! じゃあ次はどうかな?
「『聖剣』!」
「!! 『紫電一閃』!」
「勇者からは逃げられないぜ、『ソニックソード』!」
「くっ! 『刹那雷閃』!」
「『ディフェンス』! 『勇者の剣』!」
「ぐおっ!?」
『聖剣』は発動が速く神速のスピードを誇るスキルだ。さすがに間に合わないだろう。
レグラムはこれに、『紫電一閃』を使いすり抜けながら距離を空けようとした。
『聖剣』が直撃してダメージを受けたが、レグラムの攻撃も俺に当たってダメージをもらう、だが、距離は取らせない。
まだ後ろを向くレグラムに『ソニックソード』で追いついて斬ると、レグラムは状況を打破するために反撃してきた。俺はそれに『ディフェンス』で盾を合わせて防御。だがこれが偶然パリィに成功する。防御勝ちだ。
ノックバック耐性のLV10を持っていようと防御勝ちをされるとほんの少しだが身体の動きが止まる。ノックバックを限りなく軽減するためにすぐに動けるようにはなるが、致命的だな。
俺はそこにユニークスキル『勇者の剣』を放ち、直撃させた。
レグラムのバトルヒーリングスキルの回復は10秒に1回だ。一気に連打で仕留めれば倒すことができる。つまり、
「『電光石火』!」
「勇者からは逃げられないんだってレグラム。『シャインライトニング』!」
バトルヒーリング持ちがダメージを受けまくると距離を空けようとするのは自然な行為というわけだ。
だからこそ魔法で追い打ちする。
『電光石火』を今度は距離を置くために使おうとしたレグラムだが、電撃に呑み込まれた、続いての一手。
「『ソニックソード』!」
「! 『プレシャスソード』!」
「『ハヤブサストライク』!」
「む!」
クールタイムが終わったばかりの『ソニックソード』で距離を詰めつつ攻撃し、レグラムの迎撃に合わせず相打ちを狙って斬る。相殺にできずお互いにダメージが入ったな。ここで俺はクールタイムが明けたばかりの『ハヤブサストライク』を発動する。
レグラムはここで敗北を悟ったようだ。
二度斬ったところでレグラムのHPがゼロになる。
「俺の、負けか」
「後で反省会だな」
「フ……」
その会話の直後、レグラムが転移陣にて退場する。
一方でラクリッテとノエル組も終わろうとしていた。
「『インパクトバッシュ』!」
「あう!」
「ラクリッテ、覚悟! 『飛鳥落とし』!」
「きゃあぁーー」
途中何があったのか、自在盾に囲まれて突撃されたラクリッテがバランスを崩した所にリカがとどめを刺して退場させるところだった。
どうも一方的な展開になっていたっぽい。
ノエルとカルアはというと。
「やられる前に、やる! ユニークスキル――『ナンバーワン・ソニックスター』!」
瞬間、カルアが消えた。
目で捉えられないほどの超スピードでパッといなくなる。
「~~~~♪ ――へ?」
ノエルが気がついた時には、すでにカルアはノエルの真横にいた。
「ノエル隙有り」
「ちょ、ちょっと待ってカルアちゃん、――『ライブオンインパク――」
「――『64フォース』!」
「きゃ、きゃああ!」
「そしてトドメの『急所一刺し』! ぶっすり」
「か、カルアちゃんにやられたー」
ノエル、衝撃波でカルアを吹っ飛ばそうとするも間に合わず、カルアの〈四ツリ〉『64フォース』からの、ノックバック中の相手を高確率でダウンさせる『急所一刺し』でぶっすりし、ノエルはダウンしてしまう。
後はとどめを刺して終了である。
そしてメルトの所はというと。
「やっぱエミちゃんとユウカちゃんいないと無理ー!」
そう言ってサチが『ダークネスドレイン』に呑み込まれ退場してしまうところだった。
『ドレイン』系のスキルなため、メルトのHPが全回復しているな。
「セレスタン替わろうか」
「よろしくお願いいたします」
見れば全然ダメージを受けていないセレスタン。
サチのサポートにでも徹してたのかもしれないな。
さすがはセレスタンだ、俺のメルトとサシで戦いたいという思いをよく汲み取ってくれる。
「メルト、これで最後だぜ!」
「……まだわからんぞ?」
「んじゃ、やってみるしか無いな。『サンダーボルト』!」
初手、〈四ツリ〉の『サンダーボルト』。
メルトの魔法の中でこれを相殺、または撃ち勝てる魔法は二つしかない。
「!! 『ホーリーブレイク』!」
なるほど、ユニークスキルは温存する気のようだ。
ポイントはここからだな。
俺はダッシュでメルトの元へ向かうと、メルトは次々と魔法を使って近づけないようにしつつバックして距離を取る。
「『シャインライトニング』!」
時々俺も魔法で迎撃しつつ、徐々に距離を詰めるが、メルトも魔法の使い方が上手い。
「『マジックシールド』! 『ジェイル』! 『スタン』! 『スロウ』!」
メルトの魔法、それぞれ〈拘束〉〈気絶〉〈鈍足〉の状態異常を付着させる攻撃だ。
せっかく詰めた距離を少し空けることで回避する。これは当たれない。
最初の二つは回避出来るが、『スロウ』だけは絶対命中なのでレジストしなくちゃいけない。レジストに失敗すれば『リカバリー』の出番だな。
足がやられたら絶対ユニークを使ってくるぞ。状態異常にはかかれない。
しかし、その考えは杞憂に終わるようだ。
「できれば追い詰めたかったが、追いつく前にクールタイム明けの方が早かったか。メルト、これで終わりだ――『サンダーボルト』!」
「なに!」
クールタイム終了。二発目の『サンダーボルト』を発動する。
この攻撃はメルトを追い詰める一手だ。
先ほども言ったようにメルトはこの『サンダーボルト』に対抗できる魔法を二つしか持っていない。
そして『ホーリーブレイク』はまだクールタイムは明けていないだろう。
『クールタイム軽減LV10』が適用された『サンダーボルト』の方がクールタイムが明ける時間が早いからだ。
だからこそ、俺はクールタイムが明けたとほとんど同時に『サンダーボルト』を発動した。
距離は思った以上に詰められていてメルトではギリ避けられるか避けられないかというところ、つまり無理矢理避ければ致命的な隙を晒すことになる。
ならば迎撃しか無いが、それはメルトに残っている俺を倒せる一手であり切り札だ。
さあ、どう出るメルト。
「ユニークスキル『アポカリプス』!」
メルトは『アポカリプス』を選択したようだ。
当然俺に向けて放っている。
『サンダーボルト』とユニークスキルの『アポカリプス』がぶつかれば『アポカリプス』が勝つ。向こうはLV10。こっちはLV1だしな。
しかし、これは読んでいた。
「『ソニックソード』!」
『アポカリプス』は絶対俺に向けて放つと分かっていたためこれの側面をギリギリ迂回しながらメルトに迫った。あのラムダ君にも使った手だ。
「ぐあ!」
当然、入る。
メルトはあの状態で杖で防御しようとしたが、さすがに無理だ。『ソニックソード』の一撃が見事に入ったな。
これによりユニークスキルの直後ということもあり、メルトはダウンしてしまう。
もうメルトには次の攻撃を躱す術は無い。
「メルト、ありがとな。すっげぇ楽しかったぜ!」
「……ああ、参った」
「おう、じゃあまた後でな、ユニークスキル発動――『勇者の剣』!」
最後の『勇者の剣』が突き刺さり、メルトは退場してしまう。
直後に試合終了のブザーが鳴る。
瞬間、大歓声が会場を包み込んだ。
試合終了――〈残り時間:0時間56分22秒〉
〈1年1組〉『残り人数:14人』『ポイント:1187点』1位
〈1年8組〉『残り人数:0人』『ポイント:1187点』2位
〈1年3組〉『残り人数:―人』『ポイント:―点』3位
〈1年51組〉『残り人数:―人』『ポイント:―点』4位
〈1年5組〉『残り人数:―人』『ポイント:―点』5位
〈1年12組〉『残り人数:―人』『ポイント:―点』6位
〈1年9組〉『残り人数:―人』『ポイント:―点』7位
〈1年10組〉『残り人数:―人』『ポイント:―点』最下位
後書き失礼いたします。
〈拠点落とし〉ご愛読ありがとうございました。
明日からはしばらく掲示板回が続きます。お楽しみください。